最近、インターナルコミュニケーションならびにインナーブランディングという言葉が市民権を得てきたとは以前のコラムで述べたばかりだ。
創業のころはお客さまとお話ししても、海外経験のあるご担当の方以外からは、あまり良い反応は得られなかったことを思い出す。それがここ数年で、広報や経営企画の方からご相談を受けるようになってきた。
この変化は何が原因なのだろうか。
10年ほど前にイギリスにあるインターナルコミュニケーション(以下、IC)のコンサルティングファームを訪問した際、「欧米の会社はEmployeeとEmployerがはっきりと分かれており、雇用側と働く側には埋まらない溝がある、という前提で経営している。
日本は社員の代表が社長になり雇用側と働く側の溝を認めたがらないのではないか」、という話になった。欧米の企業は溝を前提とし、最初からICの予算を確保し、溝を埋めるための施策を実施する。一方で、日本の企業は、溝の存在を認めず、「社員と経営は一体だからそんな施策は必要ない」、というスタンスをとる。
それから10年、日本の大企業でもトップが外部から招へいされるケースが多くなり、経営と社員は一体であるという前提が崩れてきたようにも思う。
それに加え、企業のグローバル化や働き方の多様化などの環境変化によって、経営と社員の関係性が徐々に新しいものに変わってきていることが、近年におけるICの発展に影響しているのではないだろうか。
こうして少し遅れて発展してきている日本のICだが、欧米企業との違いは他にもあるのだろうか。
そもそも社内広報という日本語は、ICと範囲が異なる。
ICは、社内に向けて広報活動を行うという広報部門の仕事だけでなく、戦略の実現に向けた行動変革や組織変革、人材育成等まで含まれる。
世界的な国際団体であり、広報や人事、マーケティングや経営などビジネスコミュニケーションに携わる方々のスキルアップやキャリア形成を目的としたIABCでは、次のように定義されている。
Internal communication "is the process of exchanging information and creating understanding and behaviors within an organization that reinforce the organization's vision, values and culture among employees, who can then communicate the company's message to external audiences" (Tamara Gillis, "The Human Element" 2008, p.26)
訳:ICとは、「情報交換のプロセスを通じて組織のビジョン、バリュー、カルチャーを理解し体現する行動を実践し、さらには企業のメッセージを自ら外部に伝えていくような社員をつくること」
では、ICとは、広報、経営企画、人事、ITなど組織のどの部門が推進すべきなのか?
アイルランド、ロンドン、ボストンに拠点を置くインターナルコミュニケーション専門のソフトウェア会社であるNewsweaver社の調査(対象:96か国の、400社以上の主要企業)によると、現状では以下のような分布になっている。
●コーポレートコミュニケーション部門 24%
●HR部門 22%
●IC専門部署 14%
●セールスマーケティング部門 10%
●その他 30%
(Newsweaver WhitePaper "Delivering Effective Internal Communications" 2016)
ICを担当する部門はとても多様化し、部門を横断する業務にもなっている。
IC専門部門を持っている企業が14%ある一方で、「その他」が30%を占め、たとえばPR部門が8%、IT部門が2%など、様々な例が散見される。コーポレートコミュニケーション部と人事部が2大組織となっているが、実際には明確な答えが見つかっていないのが実情のようだ。
日本企業においても、広報部が社内の情報共有を目的に社内報でインターナルコミュニケーションを推進するケース、人事部や経営企画部が理念やビジョンを浸透するために推進するケース、IT部が働き方変革やポータルの構築を機に推進するケースなど、目的に応じてさまざまな形態がとられ始めている。
IC専門部門の有り無しが大きな差異だろうか。
もともと人間関係を大切にする企業風土が根強い日本企業だが、昨今の環境変化により、組織における課題は欧米に近づいているともいえる。ソフィアではさまざまな最新情報を取り入れながら、日本企業ならではの、そしてその企業ならではの体制を構築し、経営にとっても、社員にとってもパフォーマンスに寄与できる幸せなインターナルコミュニケーションを模索している。
日本のICがガラパゴス化へと突き進む前に、先を行く欧米企業の取り組みから学べることは多いだろう。このコラムでは、今後も海外におけるICに関する最新の研究結果を紹介していく。御社のICの在り方について考えるヒントになれば幸いである。
text by hirota & okushi
2015年6月14日Sofiaコラムより転載