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2015年03月23日 16時06分 JST | 更新 2015年05月21日 18時12分 JST

日本-中国-香港-台湾の伝言ゲーム

中国人には「日本は再び中国を攻撃するのではないか?」といった潜在的恐怖がある。

 中国人には「日本は再び中国を攻撃するのではないか?」といった潜在的恐怖がある。

 筆者が商業誌に発表した記事が、中国国内で無断翻訳・転載されたが、その間に内容が「日本は米国を使嗾して中国を攻撃する」といった内容に変質してしまった。これは、中国人が持つ、日本に対する潜在的な恐怖心の現れである。

 日本人が中国軍事力の増強を警戒するように、中国人も日本の対中攻撃を警戒している。これは、軍事力で日本に対する比較優位を確保、あるいは確保しつつある今日でも変わるものではない。

■ 経緯

 筆者記事が、壮大な伝言ゲームの末「日本政府による中国大陸攻略計画」であるように伝えられている。ライターとして『軍事研究』で発表した記事が、日本から中国、香港、台湾、香港で報道される間に伝言ゲームで変質し、日本に還流する間に相当にズレてしまった。

 『Yahoo Japan ニュース』は、FOCUS-ASIA.COMからの記事として、次のように報じている。

香港・フェニックステレビは19日、台湾の軍事雑誌「亜太防務」の最新号が、日本の雑誌で紹介された軍事シンクタンクの日本語研究リポートを翻訳した文章を掲載、文章には「米中が開戦した場合、在日米軍は最初の攻撃目標を長江に架かる15本の鉄道橋とすべき」といった内容が書かれていると報じた。

記事は、このリポートが「長年の調査によって、日本は中国の守りの要である15本の長江鉄道橋について把握した。その位置や、上流から下流までの行程すべてについて日本は偵察済みであり、米軍に情報提供する意思を持っている」としたことを紹介。

中国と開戦したらまず鉄道橋を破壊せよ・・日本の軍事専門家が米軍に提案、「身の程知らずが!」「どうやら日米は...」―中国ネット 『Yahoo Japan ニュース』(2015.3.21)

■ 元記事は全く別内容

 だが、その元記事は、日本政府とは全く関連はない。元は『軍事研究』誌2014年11月号(10月10日発売)に掲載した筆者の記事、文谷数重「中国を南北に分断、中国鉄道橋攻撃!」(題名は編集部)である。

 その中身も、日本国内で手に入る中国の年鑑類と鉄道地図帳を眺めれば気づく程度のものにすぎない。アイデアとしては筆者が個人で出している同人誌「長江鉄道橋 現在中国の急所 鉄道網 河川通航 石炭輸送」(2012年夏コミ)で3日程度で調べたものだ。

 つまりは偵察する必要もないし、米軍に伝えるような独特な情報でもない。「『長年の調査によって、日本は中国の守りの要である15本の長江鉄道橋について把握した[中略]日本は偵察済みであり、米軍に情報提供する意思を持っている』」(FOCUS-ASIA.COM)ということではない。

 結論も「米国と中国は戦争状態に陥らない」というものである。安全保障サイドでは、日米と中国は敵同士であり、戦争になるという。だが、経済サイドでは日米中はパートナーであり、互いの関係を悪くしようとはしない。

■ 伝言ゲーム

 しかし、筆者の記事は一人歩きを始める。去年12月に中国大陸で無断転載・翻訳で報じられた当初は、結論を除かれた形ではあるが、比較的正確であった。※記事 ※※テレビ しかし中国版のまとめサイトで転載される間に「日本が米国を使嗾して鉄道橋を攻撃する」といった形に題名が付けられ、抄訳もドンドンとズレていった。

 それが台湾に出て、香港経由で日本に還流した時には「日本政府による中国大陸攻略計画」に大化けしてしまったのである。

■ 背後にある対日恐怖

 伝言ゲームでの変質の背後には、日本に対する恐怖がある。日本はいまでも中国への侵攻を考えている。「日本に油断はできない」と中国人は考えていることの現れである。

 新中国には、日本への恐怖がある。実際に込む理由もある。中国人自身が「大正時代に、日本陸軍は18万しかいながったが、15年後には200万の大軍で中国を侵略している」(大意)と指摘している。※※※ 実際に、全面対決を意識していたものの、当初は局地戦であったはずの上海事変の2年後には、日本は中国主要部の過半を占領しているのである。

 つまり、日中はともに、相手に対する恐怖がある。日本人は軍拡著しい中国が攻めてくると考え、中国人は再び日本は卑怯な手で中国を侵略しようとする。互いにそう考えている構造である。

 実際には、日中双方とも相手国の本土侵攻を許さない軍事力を持っている。その意味で、日中、あるいは日米中の軍事バランスは安定している。

 だが、潜在的な恐怖を持つ人々からすれば「中国は日本を侵略できる」とか「日本は米国を唆し中国を攻撃できる」ように見える。そして、その発想に合致してしまう内容であれば、「相手の政府がそう考えている」信じこんでしまう心理があるのだろう。

 ・・・まあ、なんにせよ、中国メディアが筆者に相談してくれないのは残念なもんだ。「長江鉄道橋が弱点であり、防空網が貧弱な雲南方面から攻撃すれば中国戦争経済は崩壊する」も、所詮は実際に戦争をしない日米中のゲームでの話に将棋や囲碁の妙手を考えたよ程度のものだ。発注を貰えれば、逆に「日本戦争経済には101の急所があってだな」位は教えられたのだけれどもね。

(リンク等)

※   「日刊支招美军战时打击中国战术:攻击长江铁路桥」『参考消息』(2014.12.1)http://mil.cankaoxiaoxi.com/2014/1201/582597.shtml

※※  「同歩世界 ONE WORLD」『甘粛衛視』(中国国際広播電台視頻媒体中心・甘粛衛視連動制作,2014.12。18)http://v1.china.com/s.swf?flv=aHR0cDovL2NpYm4udi5jaGluYS5jb20_aWQ9OTAwNQ==&newsid=MTkxMjM0MTI=&&__  8分55秒から、クロームだとうまく再生しない。

※※※ 鐘心青「日本の軍国主義は米国の援助育成の下に急速に復活しつつある」『中共対日重要発言集』第七集(外務省アジア局中国課,1962?)p.184-