Appleが中国でUBERの「10倍」のシェアを持つライバルに投資した訳

Didiは中国市場においては、UBERの10倍もの規模を誇っています。

先週、Appleが中国最大のライドシェアリングサービス Didi Chuxingへ$1Bの出資を発表しました。

GMのLyftへの出資自動運転スタートアップCruiseの買収など自動車業界が喧しく動いている中で、昨年自動運転カー開発が噂になって以来あまり情報が出てこなかったAppleの突然の巨大な出資、かつ中国ということで大きな話題となっています。

UBERの「10倍」のシェアを持つDidi

VCであるGoogle Ventruesを持ち、スタートアップへの投資を積極的に行っているGoogleなどとは異なり、AppleがM&Aでなくスタートアップに投資をするというのは過去のデータを見てもほとんどありません。

そんなAppleが、いきなり$1Bもの出資を行ったDidi Chuxing(以下、Didi)とはどんな会社なのでしょうか?

Didiは、中国のゲーム最大手のTencentが出資するDidi Dacheと、中国のコマース最大手のAlibabaが出資するKuaidi Dacheという、世界最大の自動車市場である中国においてライドシェアリングの覇権を争っていた大手二社が2015年2月に合併してできた中国最大のライドシェアリング企業です。

率いるのはコマース大手Taobaoのエンジニア出身のCheng Wei。UBERのCEO Travis Kalanick(39歳)よりもさらに若い、33歳の若者です。

Didiは、これまでに$4.42B(UBERは$8B)もの金額を調達しており、株主にはTencent、Alibabaなどに加えて、Softbank、Temasekなど錚々たる顔ぶれが名を連ねています。今回のApple投資の際の時価総額は、約$20B (UBERは$62.5B)と言われています。ちなみに来年にもNY証券市場にIPOするという噂もあります。

Didiが提供しているサービスは、UBERと同様のライドシェアリングサービスが中心ですが、 下のデータにあるように、1日あたり「1100万乗車」というとてつもない規模で、中国市場においては、UBERの10倍もの規模を誇っています。一応UBERが二位ではあるのですが、10倍というのはなかなか追いつけない大きな差です。

 こうした厳しい競争のせいもあり、UBERは米国市場では黒字化をしているものの、中国市場では$1Bもの巨大な損失を出し続けているという状況のようです。

「世界最大のワンストップ交通機関」

UBER(2009年)より少し遅れて設立されたDidi(2012年)ですが、そのビジョンは壮大です。ホームページには「The largest one-stop consumer transportation platform in the world(世界最大の消費者向けワンストップ交通機関)」と書かれています。

 UBER同様にライドシェアリングカープールリムジンなども提供もしていますが、さらにタクシー配車運転代行など、自動車交通に関するサービスを非常に幅広く展開しています。米国などのようにタクシーとUBERが対立するという構図でなく、タクシーも含めて自動車での移動は全部Didiのアプリで済むようになっています。またあくまで「交通機関」であって、「自動車」という制限もついていないので、今後、バス、鉄道、飛行機など移動に関して幅広く手を広げていくのでは、などと想像も広がります。

そしてその規模も桁違いです。

タクシーは、中国国内360都市で展開されており、1日あたり300万回の乗車回数で、99%のマーケットシェア。ライドシェアリングは、中国国内80都市で展開しており、1日あたり300万回の乗車回数で、86%のマーケットシェア。カープールは、中国国内300都市で展開しており、開始後わずか1ヶ月ですが、1日あたり60万乗車。3年後のゴールは、乗客が3000万人、ドライバー1000万人の規模で、中国国内どこでも「3分以内」にDidiのサービスが使えるようにする」ことだと言います。

さらに、Didiは「中国の外」にも目を向けています。

米国のLyft、インドのOla、東南アジアのGrab Taxiなど各地域の大手ライドシェアリングサービスと提携し、サービスの連携を進めています。UBERの世界中どこにいってもUBERのアプリが使えるという「統合」型と、DidiやLyftが各地で手を組む「連携」型の勝負、という構図です。

UBERなどのアプリを使うことで、車を呼ぶ、お金を支払うという行為が、タクシー時代と比べて断然にスムーズでスマートになりました。しかしながら、飛行機に乗る時、電車に乗る時は別のアプリを立ち上げる必要があります。Didiが描いている世界は、世界中のどこにいっても、どんな交通機関でも、一つのアプリで乗車、支払いなど全てが完了する世界なのかもしれません。さらに株主であるTencentのメッセンジャーWeChat(11億ユーザ)の連携、Softbankが電撃的に日本でライドシェアサービス立ち上げ?、などと考えると、今後Didiがどんな世界が描いていくのか興味が尽きません。

2019年まで待たなければならないiCarの登場

今回、なぜAppleは中国のDidiに投資を実行したのか。Appleからは明確な声明が出ていませんが、いろいろなメディアが様々な分析をしています。

私は、「自動車開発の難しさ」と「ライドシェアリング急速な普及」の二つが背景にあると考えています。

昨年くらいから開発の噂があるプロジェクトタイタンですが、実際にAppleが作る車が市場に出てくると言われているのは、2019年と言われています。つまりまだ3年以上先のことです。

テスラなどから大量に幹部を採用して自動車開発に取り組んでいると言われていますが、さすがに時計やスマホを開発するのとは訳が違って、自動車、しかも自動運転カーを開発するというのは一筋縄ではいかないということなのでしょう。

一方で、これまで見てきた通り、UBERやDidiが展開するライドシェアリングのサービスの普及は凄まじい速度で進んでいます。前にも「これから自動車業界に起こる3つの変化」というポストで書いた通り、ライドシェアリングの普及は、自動車の所有形態や利用と行った自動車ビジネスのあり方を根本的に変える大きなドライバーとなっており、今後Appleが独自の自動車をリリースして行く上で、無視することのできない領域であることに間違いありません。

いずれにしても、攻めの一手というよりは、止むを得ずという一手でしょう。

本来であれば、iPhoneとAppStoreのように、自動車においても自動運転カーという「ハード」とシェアリングなどの「サービス」をセットで、かつ同じタイミングで独自サービスとして出したいと考えていたはずです。

Steven Jobs亡き後、モメンタムを失った感のあるAppleですが、これから参入する自動車業界においても後手後手に回っているような気がしてなりません。

ただ、今回Didiのことを調べてみると、そのスケールやビジョンが非常に壮大であることに驚きました。このAppleのDidiへの出資が、今後自動車関連業界においてどのようなインパクトをもたらすのか、興味を持って見ていきたいと思います。

注目記事