オバマ政権から設置された「国のCTO」
「デジタル政府」という点では米国は決して世界をリードしているわけではありません。
選挙、会社登記、税務、警察、教育、医療などが徹底的にデジタル化されている「超デジタル政府国家 」エストニアなどで構成されるデジタル政府先進国会議 「D5」のメンバー(参加しているのは、UK、ニュージーランド、韓国、イスラエル、エストニアの五カ国)には、残念ながら入れてもらえていません 。
そこで、民間企業と同様に最新のテクノロジー、イノベーションを政策や国家運営に活用していかなければいけない! ということで、オバマ大統領が初めて政権についた2009年から、テクノロジーに関して大統領にアドバイスする立場としてCTO ( Chief Technology Officer)というポジションが設置されるようになったようです。
主な役割は、テクノロジーを活用した雇用の拡大、社会保障費の削減、安全保障、インターネット環境の整備ということです。
政府内に「シリコンバレー流」持ち込む
実際にどんな人が「米国のCTO」に選ばれているのでしょうか。
初代はヘルスケア系シンクタンク出身のAneesh Chopra(2009/8-2012/2)、二代目はヘルスケア系スタートアップの創業者である起業家Todd Park(2012/3-2014/8)そして現在は元Googleの幹部だったMegan Smith(2014/9-現在)がその職にあります。
二代目のTodd Parkはよくテクノロジー系のイベントにも顔を出していたので、私もTechCrunchのイベントで話を聞いたことがあります。
その後実際にどう運用されているかは分かりませんが、2012年頃のTechCrunch Disruptで
「これからは政府が持っているデータはどんどんオープンデータ化するから、「政府API」でみんなで面白いアプリ作ってよ!」
なんてぶちまけていたのを記憶しています(詳細な発言は記憶していないのであくまでニュアンスということで)。スタートアップのピッチかと間違うようなカジュアルな話ぶりが印象に残っています。
もちろんどんなデータがオープンデータになるかにもよりますが、少なくとも政府が主導して決済アプリを作るよりははるかに筋がいい話だと思いませんか?
オープンソース、オープンデータ、クラウドなど技術的なトレンドを政府に持ち込むということも非常に重要ですが、こうした「スタートアップ」的なマインド、Methodologyを理解した人物がCTOという立場で政府の中にいるというのは非常に重要なことだと思います。
「国家自体をテクノロジースタートアップ」に
さて、現在のCTOのMegan Smithですが、三人の中で最も民間色の強い人選で、前職はGoogleです。
Googleの中でもMoon Shotが狙える野心的なプロジェクト担当の「Google X」のVPで、ドローンデリバリーのProject Wing、気球によるインターネットのProject Loon などの責任者をしていたようです。若い頃にはApple Japanにもいたようですね。
Megan CTOは、彼女だけが政府に入るのではなく、なんとこれまでに200人以上! のシリコンバレー人材をFacebook、Amazon、Googleなどから政府に採用しているそうです。
大物も続々と引き抜いていて、元LinkedInのデータサイエンティストDJ PatilがChief Data Scientistになっていたり、元Twitter/MediumのCOO、Jason GoldmanがChief Digital Officerに任命されているようです。
CTO一人だけだと何ができるのだろうかとも思いますが、これだけのメンバーが揃うと、「テクノロジースタートアップ」の様相を呈しているともいえます。
ようやく去年体制が整ったところで今年が選挙なので、この体制が実際に成果を出せるのかは分かりませんが、非常に興味深い取り組みだと思います。
日本の政府もベンダーに唆されたようなおかしなプロジェクトに労力を費やすのではなく、「国のテクノロジースタートアップ化」に取り組んでみたら面白いのではないでしょうか?