昨年10月に、米国の人気メキシコ料理レストランチェーン「Chipotle」で、ノロウィルスによる食中毒が発生しました。全米に2,000以上ある店舗はいつも行列ができるほど人気でしたが、この一件で客足は遠のき、多くの店舗を閉鎖せざるを得なくなるなどの事態となりました。
ニューヨーク証券取引所に上場しているChipotleの株価は、一時45%も下落するなど、経営にも非常に大きなインパクトを与えることになりました。
Chipotleの株主は、このニュースを見て、「Chipotleの業績にマイナスの影響があるはずだ!」として株を手放すなどの判断をしているのですが、実際に「どの程度客数は落ち込んだのか?」「Chipotleから逃げた客はどのチェーンへシフトしたのか?」など細かい数字は当然把握できていません。詳しい情報を知るためには、3ヶ月以上先の決算発表を待つしかありません。
ところが、一部の投資家はその情報をほぼリアルタイムで把握していました。
そのデータを提供していたのは、Scrumの投資先であるFinTechスタートアップ「SecondMeasure」社です。
Scrumの新しいFinTech投資先 : SecondMeasure
これまでにはなかった膨大な「データ」が新しく生まれていること、スマートフォンというデバイスによる変革、そして「ブロックチェーン」という今の金融業界を根底から覆すことになりそうな技術の台頭など、いま金融業界には大きな波が押し寄せています。
Photo by: SecondMeasure
SecondMeasureは、ゲーム会社の「データアナリスト」の二人が、2015年にシリコンバレーで創業したスタートアップです。
SecondMeasureのアイディアは、ひょんなことから生まれたということです。創業者のMikeの友達の友達が、ヘッジファンドに勤めており、2テラもある膨大なExcelのデータの処理、分析に四苦八苦していたといいます。Mikeはそのスキルを活かして分析を手伝ううちに、ヘッジファンドが「大したデータ分析もせずに、何千億ものお金を投資をしている」ということに気づきました。
そこで、「データの処理/解析」に加えて、「使いやすいツール」を作り、そして従来の投資家が見てもいなかった「新たなデータソースの取り込み」を行うことで、投資家のための全く新しい「消費者データのソース」になろうと決めたそうです。
創業者の二人はその後会社を設立し、SecondMeasureは、現在全米の約3%程度のクレジットカードの取引履歴(匿名)を解析し、実際に消費者が「いつ」「どの店」で「何を」買い物をしているのかを、ほぼ「リアルタイム」で把握できるプラットフォームを構築しています。
投資家向けにはこれからのデータがリアルタイムで見れるダッシュボードが提供されているのですが、彼らがブログでいくつかの面白いデータを公開しているのでここで紹介したいと思います。
事例①:人気レストランチェーンでの食中毒事件の影響
一つ目は、冒頭でも紹介したChipotleの食中毒事件後の消費者の動きです。
Photo by: SecondMeasure Blog
こちらは事件後の経過と、Chipotleの売り上げの推移です。オレンジが売上、青が「Chipotle」の検索クエリー数です。
10月の食中毒事件発生後に、売り上げが激減し、検索クエリーが急増しているのが見て取れます。
クレジットカードの実際の取引データを解析することで、食中毒事件が起こる前、2015年の8-10月にChipotleで食事をしていた消費者のうち、「45%が事件後Chipotleで食事をしていない」という衝撃的な事実が明らかとなりました。
また、この事件によって離れてしまった消費者たちは、もともと週に平均4回 Chipotleで食事をするヘビーユーザであったということも分かっています。
Photo by: SecondMeasure Blog
もうひとつ、こちらは「Chipotleを離れた客はどこへ行ったのか?」というデータです。
当初、他の「類似チェーン」に流れたと考えられていたのですが、実際に一番多くの客を獲得したのは、Muncheryなどのフードデリバリーと、Blue Apronなどの食材デリバリーサービスでした。同様のメキシコ料理チェーンもある程度客足を伸ばしたようですが、大きな漁夫の利を得たのは、一見強い相関のなさそうに見られるインターネット系のビジネスにだったという面白いデータです。
こうしてデータを実際に見てみることで、直感では想像が難しい事実を知ることができるというのがSecondMeasureの強みです。
事例②:未上場のUberとLyftの「どちらの売上の伸びが順調か?」
二つ目の事例は、今注目のライドシェア企業、UBERとLyftに関するデータです。
シリコンバレーを代表するユニコーンスタートアップであるUBERと、米国最大の自動車会社であるGMから$500Mもの出資を受け自動運転分野での提携を発表するなど勢いのあるLyft。果たして、実際の売り上げはどちらが上なのか?
両社はいずれも未公開企業であるため、売り上げなどに関する詳細な情報は公開されていません。しかしながら、SecondMeasureでは、クレジットカード利用履歴を分析することで、誰がUBERを使ったか、Lyftを使ったかの情報を解析し、売り上げの推定値を出すことが可能です。
Photo by: SecondMeasure Blog
グラフは、青がUber、赤がLyftの売り上げの推定値です。
対象が「米国のクレジットカード履歴」のみであるため、あくまで米国内での数字ではありますが、UBERや約$2B、Lyftは約$1Bという規模に達しようとしていることがわかり、かつ成長率もいずれも10%以上と急成長を遂げていることがわかります。
もちろん海外のデータなどは含まれていないため、完全に会社の実力を把握することはできません。しかしながら、これまで一切外部からは伺いしることができなかったこうした実際の利用状況、売り上げが把握できるというのは、投資する立場にとって非常に大きな意味を持ちます。
VCやヘッジファンドの全く新しいツール
私は、約1年半前、Y Combinatorの2015年の春のDemo DayでSecondMeasureの創業者たちと出会いました。
Second Measureは、YCや我々を含むシリコンバレーのVCから、$2Mのシード資金を調達しています。
すでにユニコーンが多数生まれているP2Pレンディングなどの領域では、従来の金融機関は使っていない「ソーシャルなどのオンラインデータ」を与信に取り入れることで新たな顧客層を発掘し急成長しています。最近では、こうした「新しいデータ」を活用することで、住宅ローン、EC向けの割賦などの新しいFinTech企業が次々と生まれています。
SecondMeasureは、「クレジットカード利用履歴」という、存在はしていたもののうまく活用されていなかったデータを、その解析力で活用可能としたことで、VCやヘッジファンドの新しいツールとなっています。
詳しくは書けませんが、現在のプラットフォームをベースに、新しいデータをどんどん追加することで、全く新しい製品も開発しています。我々としても期待の投資先です。米国向けのヘッジファンドなどの方はぜひお問い合わせください。
※このブログポストはあくまで優れた事例としての紹介であり、SecondMeasure社から依頼を受けた広告記事ではありません。