実験ノートには何を記録するのか?

実験ノートは,実験者が実際にその実験を行ったことを示す唯一の物的証拠となるものです.また,実験レポートを書くために必要な,全実験結果が記された記録です.

実験ノートは,実験者が実際にその実験を行ったことを示す唯一の物的証拠となるものです.また,実験レポートを書くために必要な,全実験結果が記された記録です.

実験ノートには,その実験に関係する全てのものごとを積極的に記載しましょう.実験テーマ,実験年月日,天候,気温,気圧,湿度,といった基本情報にはじまり,実験から得られた数値,観察結果,実験をやりながら思いついたこと,考えたこと,その他,なんでも記録します.グループ実験なら共同実験者の氏名と学籍コードも*1

実験ノートには特に指定の無い限り,一冊の綴じ込み式ノートを使います.こうすることにより,実験日誌としても経時記録を残すことができます.また,ページの差し替えを物理的に困難にし,信頼できる記録を残すことができるようになります.そして,ページ紛失による実験記録の消滅というリスクを減らすことが可能になります.

実験ノートに記録する際には,「レポートを書くときに必要となる項目」を意識している必要があります.そのためにはレポートに何を書くのかを前もって理解しておかなければなりません.実験の前に実験テキストをよく読んで予習しておかなければならない理由のひとつです.

実験ノートへの記入は,実験時間内に限られません.実験の予習をする段階で調査して得た情報や,作業をスムーズに進めるためのフローチャート,注意点,などを前もって記入しておくこともできます.また,実験終了後には,考察のために調べた情報を記入することもできます.感想を残しておくこともできます.

実験テキストや実習書には詳しく細かく実験操作が書かれていますが,ソレを見ながら実験をやるのはタイヘンだしミスのもとです.自分にわかるように作業工程表をノートに書いておくのがオススメです.

また,実験時間内にはイロイロな測定を行うことがあるので,やり忘れを防ぐために測定項目一覧表をノートに書いておくのもオススメです.

実験中には「何をやったか」,「そうしたらどうなったか」,「それはどれくらいか」を簡潔に記して行きます.ここに記された内容に基づいてレポートを書くことになるので,記入漏れがあったり,あいまいな記載があったりすると,困ったことになります.

記録を残すときには,具体的に記述します.化学実験で反応にともなって試料の色が変わったことを記録するのであれば,単に「色が変わった」ではなく,「薄い黄色から青緑に徐々に変化した」とか,これを簡略化して「薄黄→青緑,徐々に」など,具体的に書きます.「少し」とか「多く」とか「適切な」といった記述は,実験記録を残す場合には適していません.「驚くべき効果」などというのは論外ですね*2

実験ノートには,その場で記入することが大切です.メモ用紙や下書き用紙に記録しておいて,あとから実験ノートに清書しようとする人がいますが,それでは実験ノートになりません.薬包紙だとか手のひらだとかに記録しておく,などというのは論外です.すべての記録に関して最初に記入されるのが実験ノートです*3

実験ノートをとるときの注意として

・ケシゴムをつかわない

・美しく記載しなくてよい

を忘れてはいけません.

書き間違えたところは二重線を引いて訂正し,どのように書き間違えたのかが分かるようにしておきます.エンピツで書いてケシゴムで消す,という操作をすると,データの改ざんを疑われることがあるので*4,エンピツでなくペンで記入するのがオススメです.筆記用具については実験担当者の指示に従ってください*5

ときどき実験操作そっちのけで,丁寧に丁寧に丁寧に丁寧に字や表やイラストをノートに書いている人がいます.はっきり言ってムダです.そこまで美しく書いても,成績プラスにはなりません.体裁に気を付けるのは実験ノートではなくてレポートの方です.実験ノートは本人にわかればOKです.

ちょっとした配慮も実験をうまくやるために大切です.あなたが右利きなら,ノートは実験台の右前方に置くと記録しやすいでしょう.ノートの上に器具を載せると,こぼしてノートを使用できなくなるかもしれません.

実験ノートにウソを書いてはいけません.数字をごまかしたり,やってもいない操作をやったかのように書く行為は,試験中のカンニングと同等の「罪」です.処罰の対象となりますのでご注意ください*7

実験書に書かれたとおりの結果が得られない場合があります.そのようなときは「失敗」で片付けず,どうしてそうなったのかを考えます.それが考察のネタにもなったりします.

学生実験では,予想通りの結果が出なかったことが減点対象になったり,処罰の対象になったり,進級に影響したり,ということはありません.実際に得られた結果をノートに記し,その結果に基づいてレポートを書きます.

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【参考書籍】

【補遺】

    ここでは主に大学1年生から3年生までの,学生実験実習でのノートのとりかた,について説明しました.卒業研究以降,大学院に進学したり,実験を行う職業に就いたりといった場合には,実験ノートの取り方に対する考え方が変わってきます.実験ノートは「研究記録」としての側面を持つようになります.そこでは,いつ,どのようなことがきっかけで,どのようなアイデアが生まれ,それにもとづく実験研究がどのように進められて行ったのか,を記録する物的証拠として,実験ノートが取り扱われるようになります.大学1年生の頃から,実験実習のノート記録という作業が,卒業後にそういった仕事をするときのトレーニングも兼ねているということを認識しつつ,実験実習にとりくみましょう.
    ここに書かれている内容は,私自身が大学時代にティーチングアシスタントの大学院生とか,要領のいい生産性の高い先輩から教わった内容をもとにして,2010年度前期の「教養演習B『大学生としての学び方』」に向けて準備したものが元になっています.2010年度版作成においてはTwitter上でのディスカッションが役に立ちました.アドバイス,提案,などを下さったTwitter上の皆様にお礼申し上げます.

(2013年6月1日「大学1年生の化学(北里大学・野島高彦)」より転載)

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