先週金曜日の雇用統計が強い数字だったので、12月16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で連邦準備制度理事会(FRB)がフェデラルファンズ・レートを利上げすることが確実視されています。
大方のトレーダーは「利上げなら、当然、ドル高だろう」と早とちりしています。
本当に、そうでしょうか?
過去の歴史を紐解くと、利上げ後、ドルは弱含むケースが殆どでした。1971年8月15日にアメリカが1オンス=35ドルのドル紙幣と金との兌換を停止、いわゆるニクソン・ショックが起きました。そのすぐあとの8月28日からドル/円は変動相場制へと移行します。
下はニクソン・ショック以降のアメリカの金融緩和から引締めに転じた瞬間(赤丸)を示しています。8回、そういうケースがありました。(*)
次にそれぞれの「緩和→利上げ」の後で、ドルがどう動いたかのチャートを掲げます。
殆どのケースで、ドルは上がるどころか、逆に下がっているのです!
これは少し冷静に考えればわかることです。
金融をどんどん緩和するということは、経済をリフレーションさせる努力に他なりません。つまり硬すぎる金利政策を緩めることで、わざと物価を上げようとする試みです。
利上げ出来るということは、その試みが功を奏して、まんまと景気に勢いがつきはじめ、ジャネット・イエレンの言葉を借りれば「インフレがFRBのターゲットである2%へ向かって上昇しはじめるメドがついた」ということの勝利宣言に他ならないのです。
インフレとは、モノの値段が上がる事では無く、通貨の価値が薄められたことを意味します。だからこそ、薄めすぎのカルピスのように、シャバシャバになったドルは反落するのです。
僕がいつも言うように、緩和は累積的に、あとになってじわじわ効いてくるものです。だからいま利上げしたという事実が大事なのではなく、これまでずっとユルユルにしてきたエネルギーの蓄積を問題にしなくてはいけないのです。
なお、これはアメリカのトップ・ストラテジスト、トム・リーの議論であり、僕のオリジナルではありません。
トム・リーは元JPモルガンのチーフ・ストラテジストで、今はファンドストラットという自分の会社をやっています。
(*)なお昔は公定歩合が政策金利でした。
(2015年11月8日の Market Hack「利上げ=ドル高とは限らない」より転載)