【横浜市マンション傾斜問題】あなたのマンション、傾くおそれはないのか?

きちんと検査をして書類ミスを見破れなかった元請である三井住友建設の施工管理(設計どおり施工されているかのチェック)に一番の責任があります。

横浜市のマンション傾斜問題で、マンションに住んでいる人から

「私の住んでいるマンションは傾かないでしょうか」

という問い合わせが、私あてに多く寄せられています。

そこで、よく聞かれる質問をまとめました。

ご参考にしてください。

Q悪いのはいったい誰なのか?~1次下請け会社は不要だ

建設工事は請負契約をします(工事を完成することを請け負う)。そのため、今回の場合、発注者である三井不動産レジデンスと請負契約を結んだ三井住友建設に責任があります。

今回の工事は、

元請建設会社 三井住友建設

1次下請け会社 日立ハイテクノロジーズ

2次下請け会社 旭化成建材

となっています。

旭化成建材の社員が、杭の長さやセメント量のデータ改ざんをしていたということで、もちろん担当した社員に大きな責任があります。しかし、きちんと検査をして書類ミスを見破れなかった元請である三井住友建設の施工管理(設計どおり施工されているかのチェック)に一番の責任があります。三井住友建設は設計者でもあるので、設計監理(発注者の仕様や法律が守られているかのチェック)上の責任もあります。

今回の杭打ち工事は、1次下請け会社が半導体製造装置を主力とする日立ハイテクノロジーズ、2次下請けが旭化成建材でした。三井住友建設は、日立ハイテクノロジーズに工事の進捗状況確認や、安全確認を任せていました。一方、日立ハイテクノロジーズも、最終的には三井住友建設が責任者であるため、管理が甘くなっていた可能性があります。1次下請け会社が間に入ったことも、三井住友建設の旭化成建材に対するチェックの目を甘くした原因の一つでしょう。

Q私のマンションはどこの下請業者が施工したのか?~元請建設会社に問い合わせよう

あなたのマンションの元請建設会社名は、マンション販売時のパンフレットや契約書に書かれています。

ただし、1次下請け会社や2次下請け会社は住民にはわかりません。建設業法では、どこの下請け会社が施工したかを示す施工体系図を作成することを求めています。これにより先に述べた重層化した下請け構造の全体像が明らかとなります。

民間工事の場合、発注者に対して施工体系図の提出義務はないため、販売会社(今回の場合、三井不動産レジデンス)にはその書類がない可能性があります。ただし、元請建設会社(今回の場合、三井住友建設)は記録を10年間保存する義務があります。そのため竣工後10年以内であれば、下請け会社がどこなのかはその記録を見れば、すぐにわかります。

旭化成建材は最近10年間で3000件の過去工事案件があると言っています。データ改ざんが常態化しているおそれがあり、マンション住民としてはとても心配でしょう。あなたのマンションの基礎杭施工会社が旭化成建材かどうかは販売会社を経由して、元請建設会社に問い合わせると回答を得られます。

Q私が住んでいるマンションも傾く危険性があるのか?~基礎形式が重要

まず、あなたのマンションの基礎がどのような形式かを知る必要があります。

マンションの基礎形式は、2種類あります。①直接基礎、②杭基礎です。

①直接基礎とは、直接地盤の上にマンションを建てているケースです。基礎地盤が強固なために杭を打設する必要がないので、もっとも安心な建て方です。よく「このマンションは杭でしっかり支えているので安心です」とありますが、逆に言えば「杭で支えないといけないような柔らかい地盤の上にマンションが建っています」という意味です。

②杭基礎とは、マンションの下部に硬い地盤まで届くような杭を打つことで建物を支える形式です。今回は、この杭が硬い地盤まで届いていなかったという問題でした。

あなたのマンションが直接基礎なら、傾くおそれはないでしょう。杭基礎であれば今回のような問題がないとも言えません。建設業法にて元請建設会社は10年間竣工図を保管することになっていますので、請求して杭の施工状況を調査することができます。

Qそもそも私のマンションは安全な場所に建っているのか?~地理が重要

今から6000年前には、海面は今より5m上にありました。つまり現在、海抜5m以下の場所は、古くは海の底であるため、川から流れてきた土砂が堆積しており、柔らかい地盤の上にマンションが建っている可能性があります。

また利根川、淀川などの大きな河川がある場所は、河川の氾濫によって軟弱な土砂が堆積している可能性が高いです。石狩、仙台、関東、新潟、濃尾、大阪平野には大河川があり軟弱な土砂が堆積しています。

逆に大河川のない地域では、比較的硬い地盤が浅いので比較的安全と言えるでしょう。

2014年に今回と同じ横浜市でマンションが傾く問題が発覚しました。石狩、仙台、関東、新潟、濃尾、大阪平野で海抜5m以下の地域のマンションに住む方は要注意と考えてよいでしょう。

Qどうすれば自分の住むマンションに問題がないかを確認できるのか?~問い合わせよう

2005(平成17)年耐震偽装問題(いわゆる姉歯事件)では、耐震設計結果を改ざんして少ない鉄筋量で建設していました。その際、実際にどれほどの鉄筋が入れられているのかを確認することのできないマンションが多数ありました。

そこで、翌2006(平成18)年建設業法が改正され、以下の3つの書類を、元請建設会社が10年間保管することが義務付けられました。

[1]完成図(工事目的物の完成時の状況を表した図)

[2]発注者との打合せ記録

[3]施工体系図(実際にどこの下請建設会社が施工したかがわかるもの)

マンションの問題を調べるためには、まずはこれらの書類を取り寄せることです。

そして基礎杭の長さ、鉄筋量、どの下請建設会社が施工したのかを確認して、信頼できる建設技術者(一級建築士、技術士(建設部門)がよいでしょう)に相談してください。

ただし、2006(平成18)年の建設業法改正より前に完成したマンションについては、残念ながらこれら書類は保管義務がなく、確認することはできません。

Qマンションにひび割れがあれば、建物が傾いているのか?~そうとも限らない

コンクリートのひび割れ発生原因は以下のようです。

1. コンクリートの乾燥

2. 地震による建物の揺れ

3. 気象の寒暖の変化

4. 凍結と融解の繰り返し

5. 過積載

6. 建物の沈下

つまりひび割れがあったとしても、それがすべて建物の沈下によるものとは限りません。

また、ひび割れの幅によって有害なのかどうかを判定します。ひび割れ幅が、0.06ミリを超えると防水上の問題が生じ、0.2ミリを超えると、建物の耐力上の問題が生じます。クラックスケールというひび割れ幅を計るものが500円程度で販売されています。ひび割れを見つけたら、ぜひ計ってみてください。

ただし、マンションではコンクリートの上に塗装、壁紙やタイルを貼ってあるので、ひび割れが発生しているかどうか、判別しにくいことが多いです。

ところが、建物の中に駐車場を設けている場合、多くはコンクリートの自身の素地のままになっています。しかも、駐車場は、壁などが少なく、広い空間ですので、もし沈下しているとすれば、発見しやすい場所です。駐車場以外では、機械室、受水槽室、ごみ置き場室などにてひび割れを見つけやすいところです。

ひび割れを見つけるには、基本は目視ですが、業者に頼めば、赤外線や超音波などの機械を用いて調べてくれます。そうすると、かなりの精度でひび割れを発見することができます。

Q建物の沈下によるひび割れかどうかはわかるのか?~ひび割れの形状を計測しよう

建物が沈下するとひび割れが発生します。しかし前に述べたようにその他の要因でもひび割れが発生します。建物に有害なひび割れか、補修すればよいひび割れなのかを判定する必要があります。

次の図のようなひび割れは、建物の沈下によって発生します。この場合には建て替えも含めて検討する必要があります。

一方、次の図のようなひび割れは、コンクリートが乾燥することによって起きるものです。人が歳をとると、お肌が乾燥し、しわが出るようなものです。補修が必要ですが、建て替えるほどの必要はありません。

(2015/10/22「降籏達生のブログ」から転載)

【降籏達生のブログ】

映画「黒部の太陽」に憧れて、ダム、トンネル、橋の工事を行ってきた降籏 達生(ふるはたたつお)。現在は、全国の現場指導、コンサルティングを行っています。本ブログでは、建設業界へのエールとともに、あまり見ることのない建設業界の裏側を皆さんに紹介しましょう。

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