【TechCrunch Japan編集部注】この記事の執筆者、Tom Hadfield氏はPromptのCEO
多くの人々が予測する通り、FacebookがF8カンファレンスで「Messenger Bot Store」を発表すれば、2008年3月にAppleが「App Store」と「iPhone SDK」を発表して以来のビックニュースとなるだろう。
スティーブ・ジョブズはApp Storeを「サードパーティが開発するアプリケーションを、ユーザーが探し、購入し、iPhoneに直接ダウンロードできる、新しいアプリケーション」と説明した。だがその彼でさえも、App Storeが世界に与えるインパクトを予知できなかった。
App Storeが2008年7月にサービスを開始した当時、iPhoneユーザーは世界中に600万人いると言われていた。ユーザー数はその後も上昇を続け、その年の終わりまでに2倍になった。翌年以降も、毎年ユーザー数を2倍に伸ばすという急激な上昇だった。現在では150万以上のアプリが公開されている、App Storeのエコシステムの登場は、私たちに新しい「モバイルの時代」の到来を感じさせた。
現在、Facebookのメッセンジャーは月間8億人のアクティブユーザーをもつ。この数字は、App Store発表当時に存在した、iPhoneユーザー数の100倍以上だ。メッセンジャーのアクティブユーザー数は、過去から全てひっくるめたiPhoneの販売台数より多い。現在では、メッセンジャーのようなチャットアプリ全体のユーザー数は、SNS全体のユーザー数を超える。
今年1月にTechCrunchは、メッセンジャーのボットを開発するための「Chat SDK」という隠し子が、Facebookに存在する可能性について報じた。もし本当にFacebookが「Bot Store」を公表すれば、それはすなわち「新しい時代の終焉」となるだろう。モバイルの時代から、「プラットフォームとしてのチャットアプリ」の時代になるのだ。会話型のインターフェイスは、何百万のユーザーと実世界の交流の仕方を変えようとしている。
胎動する「プラットフォームとしてのチャットアプリ」
「プラットフォームとしてのチャットアプリ」に注目が集まり始めたのは、昨年の始めごろだ。2015年3月に開催された、Y Combinator主催の「Demo Day」では、SMSベースの購買支援アプリ「Magic」が脚光を浴びた。その後同社は、Sequoiaから1200万ドルを調達することにも成功する。翌月には、ほぼ同一のサービスを提供する「GoButler」が、800万ドルをGeneral Catalystから調達した。さらには、「Operator」もGreylockから1000万ドル調達したと発表し、このころから突然、「テクノロジーの新しいフロンティア争奪戦」が話題になり始めた。
その年の夏には、The Informationが衝撃のニュースを報道した。人工知能「Facebook M」によって、Facebookのメッセンジャー上で、ユーザーが商品を購入したり、レストランの予約をしたり、旅行の予約をしたりすることが可能になると報じたニュースだ。
Pavel Durovが「Telegram Bot Store」の拡張を発表し、「Kik」の創業者であるTed Livingstonが「西洋のWeChatになる」と宣言した。2015年終盤には、「Slack」が8000万ドルを調達し、「Slack App Directory」を公表。さらには、Googleが独自のチャットボットを開発しているのではないかと噂された。
ゴールドラッシュ改め、「ボットラッシュ」
ボットが話題になって以来、関係者は盛んに「どのボットが大本命となるのか?」と話すようになった。また我々は、まだまだ胎動期であるHowdyやAssi.st、Hyper、Pana、Scout、Luka、Repといったボット開発会社のシードラウンドに注目するようになった。それと同時に「Pandorabots」や、私が所有するPromptといったスタートアップが、ボット開発者のためのツールづくりに注力している。
シリコンバレーの有名投資家もボットへの投資に乗り出した。General CatalystのPhil Libinは、ボットを「今年のテック業界における最も重要なトレンド」と称した。さらにUnion SquareのAlbert Wengerは、この新しい時代を、アメリカのゴールドラッシュにちなんで「ボットラッシュ」と呼んだ。(アルマゲドンならぬ「ボタゲドン」より、特に魅力的な言葉だ)
数日前、GreylockのJohn Lillyは、「ボットかAI、あるいはその両方というピッチの率は100%に近づいている」とツイートした。Boris Wertz、Dave Morin、Semil Shah、Nir Eyalといった、アーリーステージの企業を得意とする投資家たちもまた、ボットへの強い関心をあらわにした。
ボットこそが新しい時代のアプリケーションである
「Messenger Bot Store」は、起業家や投資家にとってだけではなく、開発者やデザイナーにとっても遠大な影響を与えそうだ。「Fin」のCEOであるSam Lessinは、チャットベースのインターフェイスの登場は、「今後開発されるアプリケーションやサービスの形を、根本から変えるだろう」と話す。
Chris Messinaが、2016年は「会話型コマースの時代」になると予測したのは有名な話であるが、メッセンジャーのボットプラットフォームは、コマースの範囲だけに留まることはないだろう。
姿形こそ違えど、メッセージングは新時代の「コマンドラインインターフェイス」になる。この新しいインターフェイスは、実世界のものに向けたものだ。ここ数十年間行われてきた「コマンドライン」との会話に比べ、近年の自然言語処理の発達で、ボットとの交流はより人間味があるものになる。たとえBenedict Evansが言うように、かの有名な「HAL 9000」と同等の技術まで発達するまでには、「50のノーベル賞が必要」だとしてもだ。
これまでボットは、テキストベースで交流する、インターフェイスを持たない「目に見えないアプリ」と呼ばれていた。だが、USVのJonathan Libovが指摘するように「入れ物がチャットアプリだとしても、中身のアプリがテキストベースとは限らない」。Tomaž Štolfaが言うように、ボットには「会話型のインターフェイスと豪華なグラフィックUIとのブレンドがもつ、未知の可能性」が秘められているのだ。
F8カンファレンスの後、Facebookが抱える8億人のユーザーが、メッセンジャー上でボットに出会ったとするならば、これまでのボットへの疑念は晴れ、「ボットこそが新時代のアプリケーションである」と話して来た人々が正しかった、ということになるだろう。
App Storeとは規模において引けを取らない、新しいエコシステムが創られる。あなたがメッセンジャーを使って、DominosやUnited Airlines、さらにはCapital Oneと簡単にやり取りできるとする。そうした場合、果たしてあなたは、それらの企業が独自に作ったアプリを利用するだろうか? ボットが見せる未来は、1995年のWEBの登場により私たちが感じ、2008年にモバイルアプリが見せてくれた未来像に似ている。
ボットに関して、未回答の疑問が残っているのは確かだ。WhatsAppのような、他のメッセージングプラットフォームも開発者に公開されるまでには、どれくらいの時間がかかるのか?
「OpenTable」のようなものが、すべてのメッセージングプラットフォーム向けにボットを作るのか。それともボット開発のクロス・プラットフォーム・スタンダードが生まれるのだろうか?そして恐らく一番重要なのは、どのような使い方によって、ボットが従来のアプリよりはるかに優れた体験をユーザーに提供するのかという点だろう。
Jonathan Libovが指摘するように、「これまでのところ、メッセージングやボットに対する開発者の情熱は、消費者が持つ興味の度合いとはかけ離れている」という点も一理ある。
だがTed Livingstonの予測が正しいとすれば、4月12日のF8を境に、その状況も劇的に変わるに違いない。Facebookのメッセンジャーが「西洋のWechat」になれないと考えるには、少しばかり時期尚早だろう。
(原文)
(翻訳:Takuya Kimura)
(2016年3月23日TechCrunch Japan「Facebookの「Messenger Bot Store」が、App Store以来の大革命となるかもしれない」より転載)
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