LGBT=オネエタレント? メディアによる偏ったイメージを変えていくには

プライド叢書では今後、ゲイのみならずレズビアンやトランスジェンダーをはじめあらゆるセクシュアリティの問題を扱った書籍を刊行していきます。
TRP2015

セクシュアル・マイノリティの過半数がいじめを経験

ここ数年、LGBTという言葉がブームのようになっています。毎日のようにこの言葉がメディアに登場するようになったことでセクシュアル・マイノリティへの理解は進み、生きづらさは解消されたのでしょうか。

「LGBTブーム」の一方、日本はG7の中で同性カップルに結婚に準じた権利を認めていない唯一の国です。欧米では多くのスポーツ選手やアーティスト、政治家などがカミングアウトしていますが日本ではほとんどそんな人はいません。日本はまだまだセクシュアル・マイノリティの権利に関して後進国で、カミングアウトするのも困難な国なのです。

とくに心配なのは成長過程にある多感な世代のセクシュアル・マイノリティが置かれる状況です。いじめを経験したセクシュアル・マイノリティの割合は過半数にのぼるというデータがあります。ライフネット生命保険の委託で、宝塚大看護学部の日高庸晴教授が実施したアンケート調査によれば、セクシュアル・マイノリティの58%が小中学校時代にいじめられた経験があり、21%が不登校を経験したと回答。自傷行為の経験がある人も10%にのぼります。また、67%が学校の先生がいじめの解消に役立たなかったと答えていて、学校で年若いセクシュアル・マイノリティが辛い思いをしていることが浮き彫りになっています。

先日は学校での教師による差別的な発言が問題になりました。セクシュアル・マイノリティ当事者である生徒がいる前で教師が同性愛者を揶揄するような発言をしたという事件です。件の教師がこのような発言をしたのは、とくに同性愛者を誹謗しようという意図があってのことではありませんでした。たんに生徒たちを笑わせ、その場の雰囲気を盛り上げるためという目的のために差別的な言葉を用いたのです。つまり、この教師にとって同性愛者は笑いのネタになる存在という認識だったのでしょう。こんな教師のいる教室で育った子どもたちもまた同性愛者は笑われる存在だという認識を持つことになります。もし、そこにいる同性愛当時者の生徒はどうでしょうか。その生徒もまた自分が笑われる存在なのだと思い込まされてしまいます。自分を肯定をすることが出来ずプライドを持って人生を歩んでいくことが困難になるのです。

こうした事件が起きる背景の1つにメディアの問題があるのは間違いないでしょう。ほとんどのメディアは異性愛者の視点に立って、異性愛者から見たセクシュアル・マイノリティ像を伝えます。悪意はなくても、当事者でないことによる無理解や誤解が混ざることがあります。そして残念ながら、悪意のある差別的な表現もバラエティ番組などでは少なくありません。"おもしろおかしいことを言うオネエタレント"というのが、異性愛者中心のメディアが伝えるセクシュアル・マイノリティの代表と言ってもいいでしょう。

セクシャル・マイノリティがプライドを持って生きるために自ら情報を発信していく

私自身、ゲイというセクシュアリティを明かしライターとして仕事をしてきましたなかで、ステレオタイプな同性愛者像を求められることや、差別的とも言える内容の記事を依頼されることは何度もありました。相手の誤解や偏見を解いて、企画の方向性を変えることに成功したこともあります。しかし、それができずに仕事を断ることもありました。また、時には心ならずも納得のいかない仕事を引き受けてしまったこともあります。セクシュアル・マイノリティのリアルな姿を伝えていくことは、一部の良心的なメディア以外ではなかなか難しいのが現状です。

そんな状況をなんとかしたいという思いから、「プライド叢書」というシリーズの企画を立ち上げました。セクシュアル・マイノリティ自身が本当に伝えたいことを自ら発信していく。クラウドファンディングという形を取りセクシュアル・マイノリティとアライ(注 セクシャル・マイノリティを理解し、支援する立場の当事者ではない人を指す言葉。英語のally[同盟、支援]に由来)の誰もが、企画段階から参加できるコミュニティに開かれた出版プラットフォームを作ろうと思ったのです。

セクシュアル・マイノリティが自己を肯定し、誇りを持って社会に働きかけていくことを「プライド」という言葉で表現します。異性愛者がセクシュアル・マイノリティに対する理解を深めるうえで有効で、セクシャル・マイノリティが平等な権利を要求していくためにも、世に出していくべきコンテンツは国内外に数多くあります。そのような良質なコンテンツを異性愛的な価値観が中心を占めるマーケットの中で埋もれさせずに、本という形にしていく。プライド叢書はそのような意味において、書物を通じ社会を変えていこうという試みです。

プライド叢書では今後、ゲイのみならずレズビアンやトランスジェンダーをはじめあらゆるセクシュアリティの問題を扱った書籍を刊行していきます。セクシュアリティによる差別の上に、女性問題も抱えたレズビアンやトランスジェンダーの人たちの事情はゲイよりもさらに複雑な側面があり、その情報を発信していくことは非常に重要だと考えます。しかし、私自身が当事者でないため行き届かないこともあるかもしれません。レズビアンやトランスジェンダーや、その他さまざまなセクシュアリティの人たちに参加してほしいと思っています。セクシュアル・マイノリティ自身が必要な情報を社会に向けて発信していくためのツールとなるプライド叢書。その行方は第一弾である本書の成否にかかっています。セクシュアル・マイノリティ当事者のみなさん、そしてアライのみなさんのご支援をお願いいたします。

プライド叢書の第一弾となる『ぼくを燃やす炎』翻訳出版プロジェクトのクラウドファンディングページはこちら