「国連海洋会議」が2017年6月5日から9日にかけてニューヨークの国連本部で開催されます。この問題に関するものとしては初の国連会議。
広報局の季刊誌 "UN Chronicle" は最新号で、課題解決に取り組む専門家や著名人による寄稿を特集しています。
生物多様性担当の国連親善大使を務めるエドワード・ノートン氏の寄稿「海の豊かさと美しさを守ろう」を日本語でお届けします。
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ジョン・F・ケネディ大統領は1962年、アメリカズ・カップに出場するクルーのために開かれたイベントで、こう語りました。
「私たちが全員、海にこれほどこだわるのはなぜなのか、よくわかりませんが、私としては、海が変化し、光が変化し、船が変化するという事実のほかに、私たち全員が海から生まれたという理由があるのではないかと思います。[中略]私たちは海と結び付いています。つまり、私たちが航海に出たり、単に景色を眺めたりするために海に戻る時、私たちは自分たちの故郷に帰っているのです」
私には、海との深いつながりがあります。カリブ海からティレニア海、太平洋からインド洋に至るまで、30年にわたって世界中のサンゴ礁でダイビングをしてきた私は、想像を絶する美しさを目にしました。
それは、人間の想像の深奥においてのみ可能となるような驚くべき豊かさ、おびただしい色彩、そして豊富な生物多様性でした。
しかし、それはすべて真実だったのです。
魚や海藻、海洋哺乳類はすべて、抑えることのできない動きと神秘的な静けさを兼ね備えた世界とつながっていました。
父親となった私の最大の楽しみの一つは、この不思議な世界を子どもと共有することです。嬉しいことに、子どもたちは自然に、しかも楽しみながら水と親しんでくれました。
しかし、一番残念なのは、私が見てきた豊かさを決して子どもたちは目にすることがなく、私が泳いでいたきれいな水の中で子どもたちが泳ぐこともない、という事実を私が知っていることです。
これは単に、子どもたちにとって悲劇的な経験の劣化であるだけでなく、来たるべきグローバル経済の破綻も物語っています。
どうしてこんなことになったのでしょうか。エリザベス・コルバート氏が『ザ・ニューヨーカー』の記事で引用しているとおり、英国の生物学者トマス・ハクスリーは1883年、ロンドン国際漁業展の開会式での演説で、次のような問いかけをしました。
「漁業資源が枯渇することはあるのでしょうか。つまり、ある水域に生息する天然魚が人間の力によって絶滅してしまう可能性はあるのでしょうか」
そして、今となっては浅はかとしか考えられない答えを出し、こう言ったのです。
「おそらく、重要な水産資源はどれも枯渇することはないでしょう。つまり、私たちが何をしても(海に生息する)魚の数に大きな影響は出ないのです1」
悲しいことに、私たちはその後100年で、これほど真実とかけ離れていることはないと知ったのです。
補助金を受けた漁船団がトロール網を使って数十年にわたり、組織的な漁業を営んだ(そして多くの魚を混獲した)結果、世界の魚種資源は一気に減少しました。
陸上からもたらされる汚染、魚の乱獲(ダイナマイト漁を含む)、外来種の侵入、海水面の上昇、酸性化、そしてさらには、気候変動と海洋温暖化を主因とするますます深刻かつ頻繁なサンゴの白化が重なり、海洋生態系は破壊されています。
私たちの管理に向けた取り組みもむなしく、海は枯渇しかけているのです。
私たちはクジラやマグロ、サケ、タラ、オレンジラフィー、マジェランアイナメその他、数限りない魚種と、これらに依存する生物を犠牲にしてきました。その中には人間も含まれます。
つまり、これはもう単なる抽象的な問題ではありません。全世界で10億人が、魚に主たるタンパク源を、そして海に生計を依存していると見られるからです。
私たちは同時に、海の熱帯雨林と言われるサンゴ礁が、海洋の温暖化によって死滅しつつあることも発見しました。
最近、ダミアン・ケイブ、ジャスティン・ギリスの両氏が『ニューヨークタイムズ』紙で2、テリー・P・ヒューズ氏その他が『ネイチャー』紙でそれぞれ指摘しているとおり、世界最大のサンゴ礁システムであるオーストラリアのグレートバリアリーフは、全世界で1998年以来3度目に当たるサンゴ白化により、極めて大きな部分が死滅してしまいました。
この大惨事の深刻さは、いくら強調しても足りません。
オーストリアのタウンズビルにあるジェームズ・クック大学オーストラリア研究評議会・サンゴ礁拠点所長を務めるヒューズ氏とその同僚たちは、汚染や乱獲といった他の圧力ではなく、気候変動に誘発された海水温の上昇が、大規模なサンゴ礁個体減少の根本的原因となっていることを突き止めました。
これらの著者は「サンゴ礁の未来を確保」できるのは「今後の温暖化を抑制する」グローバルな取り組みだけではないかと述べています3。
私は生物多様性を担当する国連親善大使として、全世界を旅し、私たちの世代を決定づける課題について人々に語りかけてきました。
それは、私たちの暮らし方を、地球との持続可能な相互作用に基づくものとすることです。
皮肉なことに、そして悲しいことに、気候変動へのグローバルな対策の必要性がさらに高まる中で、米新政権からの政治的な反発はさらに強まっています。
よって、私たちはこれまでにも増して、愛知目標[=第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で合意された目標]に基づき各国が行った約束により設置された、コミュニティー管理型のサンゴ礁・海洋保護区設置を含め、最近になって採択された持続可能な開発目標(SDGs)、特に海洋に関する目標14と関連づけられた保全協定を今こそ遵守しなければなりません。
海洋生態系が、現時点で海の豊かさに依存している10億人をさらに超える人々の食料と生活の安定を引き続き確保し、50年以上前にケネディ大統領があれほど感動的に表現した海との時を超えたつながりを子どもたちが作り出せるよう、私たちの海の存続を助け、失われた生産性を回復できるチャンスは、もう二度と来ないのですから。
注
1 Elizabeth Kolbert, "'The scales fall: is there any hope for our overfished oceans?", The New Yorker (2 August 2010) で引用
2 Damien Cave and Justin Gillis, "Large sections of Australia's great reef are now dead, scientists find", New York Times, 15 March 2017.
3 Terry P. Hughes and others, "Global warming and recurrent mass bleaching of corals", Nature, vol. 543, no. 7654 (16 March 2017). pp. 373-377 (373).
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著者紹介
エドワード・ノートン氏は、アカデミー賞にも3回ノミネートされ、高い評価を受けている俳優。生物多様性の国連親善大使として、ノートン氏は国連システムや生物多様性条約と連携し、生物多様性の保全と持続可能な利用、持続可能な開発の推進を訴えています。