【AV強要】現役女優・香西咲「文春砲」で脅迫も 「海に沈められる...」

業界人から「騒ぎ立てると危ない。東京湾に沈められることもあり得る」と、脅迫とも取れる言葉を言われるなど、告発の余波は大きかった。

文春での告発に踏み切った香西さんに対し、脅迫めいた言葉を投げる人もいたという

10月1日でデビュー5年を迎える現役AV女優の香西咲さん(30)は7月、週刊文春で前所属事務所社長の実名を出し、8カ月にわたる「洗脳」によってAVに出演させられたと告発した。業界人から「騒ぎ立てると危ない。東京湾に沈められることもあり得る」と、脅迫とも取れる言葉を言われるなど、告発の余波は大きかった。「文春砲」に込めた決意、その反響と将来に向けた思いを聞いた。(朝日新聞経済部記者・高野真吾)

規制論議に業界側から訴える

今年3月3日、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)が報告書を公表した。タレントやモデルとしてスカウトされた女性が、AVへの出演を強要されている被害が相次いでいると訴えた。監督官庁の設置や新たな法整備が必要だという提言も含まれていた。

これに対し、AV業界から猛反発が起きる。代表的な指摘が、被害者支援団体への相談件数が、毎年4千人から6千人誕生するとされる新たなAV女優に比べて、極めて少ないというものだ。「氷山の一角であり、実際の被害者はもっと多いと見るべき」というHRN側と大きな論争が起きた。

香西さんは報告書公表の半月後、スポーツ紙「東京スポーツ」で、「法律や規制を作るのはやり過ぎ」などと業界側に立って訴えた。自ら同紙に売り込んだ。同時に、自分自身が前所属事務所社長からだまされてAV出演をすることになった過去も告白した。ただし、この時は「社長B氏」という匿名での掲載だった。

文春による20時間超の取材

香西さんによると、この記事を契機に週刊文春とつながった。

20時間超、社長からの8カ月に及ぶ「洗脳」や、社長に命じられた「性接待」を詳細に語った。自分の夢を実現させる過程を記した「ビジョンブック」も見せた。告発記事は、同じように社長からAV出演強要の被害にあった20代後半の女性の話をもとに、7月に2週にわたって掲載された。

反響はすさまじかった。最初に文春記事が出た日、就寝してから目覚めるまでの6時間で、300を超すコメントが自身のツイッターアカウントに寄せられた。ネットの色々なところで、ニュースとして取り上げられた。一般紙を含むメディアからの取材依頼も急増する。

「人一人消えてもおかしくない」

ファンからの「過去の経緯がどうであれ、これからも応援する」という温かいメッセージは励みになった。ネガティブな書き込みは無視した。しかし、何人かの業界関係者の反応に心が傷ついた。

以前から仲の良かった一人に食事に誘われた。普通の会話が続いたが、文春記事の話になると相手の口調が変わり、脅迫とも受け取れる言葉が出てきた。「この業界、誰がどう関わっているか分からないし、利権の問題もあるかもしれない。あまり騒ぎ立てると危ないよ。人一人消えてもおかしくない。東京湾に沈められることもあり得る」。

さらに別の日に突然、電話をよこし、「そろそろ自分の立ち位置をはっきりさせた方がいいんじゃない?」とも言ってきた。香西さんは「業界のおきてに従って従順になるか、辞めるかの選択をしろ」ということだと受け止めた。

「過去と決着つけたい」

逆風もあったが、前所属事務所社長を告発したことに後悔はない。「AV出演強要が社会問題化している今が、告発と刑事、民事で訴訟を起こすことを決断する唯一のチャンス」だと考えるからだ。「『洗脳』を受けた過去とも向き合わないといけない。決着をつけたい」とも話す。

訴訟相手となる社長は9月、朝日新聞の電話取材に対し、香西さん、20代後半の女性を「洗脳」して、無理やりにAVに出させた認識は「ない」と回答。「弁護士の先生から取材(対応)は控えるように言われている。申し訳ありません」と繰り返しただけで、詳しい説明を拒んだ。

香西さんは現在、心と体のバランスを取るように努めながら、AV女優の仕事に向かっている。映画やVシネマを撮ったことのあるベテラン監督らとの仕事は刺激になる、という。「彼らは情熱をかけ、徹底的にこだわって作品を作ろうとしている」。人生訓なども教わることができる、そうした現場には前向きな思いで足を運んでいる。

夢の一部がかなった

7月には撮影以外で、うれしいできごとがあった。遠回りしてきたが、「雑貨屋を開きたい」という昔からの夢の一部がかなった。大阪・梅田にできた、アダルトグッズショップを扱う「LOVE TOYS SHOP MAX」の6階部分に女性専用フロアを監修して開いた。

昨年から、運営会社の役員に何度も提案してきたことを形にできた。グッズ以外に化粧品や入浴剤なども置いた。1対1で相談できるソファを設け、月に2回は自身がお店に出向き、時には女子会を開催している。彼氏との性の話、ムダ毛処理など一般の女性からの相談に乗っている。女性たちの「駆け込み寺」になっているという。

「性のプロ」自分の経歴役立てる

「性のプロ」として、さらに先も見つめている。将来的に、性教育に関わりたいという。性教育が不十分な男性が、AVを教本にしてパートナーが望まない行為をしてしまう。AV女優として作品をつくる側にいるだけに、いかに過剰に演出しているか分かっている。

AVを妄信しないように注意し、正しい知識、マナーを教えることに自分の経歴が役立つと考えている。

多くの女性向けに発信したい

独立前の一時期、毎日のように思っていた「事故で命が尽きてしまっていい」「自ら命を絶ちたい」という願望は、今でも時に襲ってくる。ファンに囲まれている時、多くの人と一緒の撮影中にはないが、自宅に帰り、ふと我に返った瞬間にくる。毎朝、起床してから活動的になるまでに栄養ドリンクや海外サプリメントの力を借りている。

前事務所社長の出演強要から業界に入ったため、AVに出たことを「消せるものなら消したい過去」という思いは持ち続けている。一方、ベテラン監督たちから得た人生訓、AV女優として得た性への知識は、これからも大事にしていくつもりだ。

10月1日で、デビューから丸5年となる。気づけば「ベテラン女優」扱いされる場面も増えてきた。AV女優の仕事にまつわる華やかさと同時に背負う重さも痛感している。「セックスワーカーの中でも、表に出るだけに特殊な立ち位置にあると思う」

複雑な思いを抱えてAV女優を続けているだけに、業界に入ってくる一部の新人女優たちの「軽さ」が気になる。あまりにも「あっけらかーん」としているからだ。「一時的な決断で出演するだけでなく、映像は一生残るものだと覚悟はできていますか」

他の女性よりも「性」に向き合ってきた時間が長いと自認する。それだけに、世の中の若い女性の一部が自分の性を「ぞんざい」に扱っていないか気になる。「女性の体はすり減るものだし、病気や妊娠のリスクを負うのも女性です。本当に分かっているのかな。性の大切さを、多くの女性に向けて発信していきたいです」

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