世界銀行、史上初の感染症債を発行

世界銀行は、「パンデミック緊急ファシリティ」を資金面で支えることを目的とした債券を発行した。

世界銀行(国際復興開発銀行:IBRD)は、「パンデミック緊急ファシリティ(PEF: Pandemic Emergency Financing Facility)」を資金面で支えることを目的とした債券を発行した。PEFは、感染症のリスクに直面する途上国に資金を即座に提供するため世界銀行が設立したファシリティである。

感染症対策に世銀債が用いられる点、低所得国を対象とする感染症リスク対策に金融市場での資金調達が活用される点、いずれも今回が史上初の画期的な試みとなる。

PEFは、本日発行された大災害債券(キャット・ボンド)により調達された資金と保険デリバティブ取引、ならびに現金枠や将来的なドナー国による追加拠出のコミットメントを通じて、途上国が感染症大流行のリスクに対応できるよう今後5年間に5億ドル以上を提供する。

PEFを通じて数百万人の人命を救うことを可能とするための今回の債券発行は、投資家から圧倒的な支持を受けると共に世銀債としての高い信認を反映して、その結果起債額の二倍もの応募があった。このような底堅い需要を背景に、世界銀行は、市場の当初想定を下回る価格設定が可能となった。債券発行とデリバティブ取引により、総額4億2,500万ドル相当のリスクが市場に転嫁される。

「この新たなファシリティの設立により、我々は、世界が直面する最大級のシステミック・リスクから多くの人命と経済全体を守るための非常に大きな一歩を踏み出した。」と、ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は述べた。

「これまでの感染症対策は、危機時にはパニックに陥り危機終了後は適切な対応を怠るという悪循環を繰り返してきたが、こうした対応はもはや過去のものとなる。世界の最貧困層を支援するため、我々の有する資本市場における専門性、保健セクターに関する深い理解、開発面の難題を切り抜ける経験、さらにはドナーや保険業界との強固な関係をすべて活用してきた。こうして立ち上げることが出来たのが、感染症リスク保険という全く新たな市場である。2013年のエボラ危機の教訓を踏まえ、このファシリティにより、世界中の人々の健康安全保障が強化されるものと期待する。この新たな資金メカニズムの設立に当たって、世界保健機関(WHO)、日本、ドイツからご支援を賜ったことに心より感謝の意を表したい。」

世界銀行は、2016年5月の仙台におけるG7財務大臣・中央銀行総裁会議の場でPEFの設立を発表した。PEFは、大流行を引き起こす可能性が高い感染症が発生した国に即座に資金を提供する手段であり、その資金構造としては、本日発行された大災害債券(キャット・ボンド)により調達された資金と、保険デリバティブ取引を活用した保険金の両方が、大流行発生の際に感染症発生国への支払い原資となる。この独自の資金構造は、より幅広い多様な投資家層を動員できるよう設計されている。

PEFには「保険」枠と「現金」枠の2つの枠がある。保険枠は、日本とドイツからの拠出金で保険料を賄い、具体的には本日発行分を含む世銀債及び保険スワップ取引で構成される。一方、現金枠はドイツが初期拠出金として5,000万ユーロを提供して2018年から始動予定であり、保険枠の発動規準を満たさない感染症の流行に対応する。

PEF保険枠の債券と保険デリバティブは、世界銀行財務局が、再保険大手のミュンヘン再保険とスイス・リーと共同で開発した。AIRワールドワイド社は、専門的なリスク分析手法をAIRパンデミック・モデルを通じて提供し、必要保険金額の算定に関与した。同モデル開発の第一フェーズの資金はスイス政府が提供した。

本件の単独主幹事には、スイス・リー・キャピタルマーケッツが指名され、組成はスイス・リー・キャピタルマーケッツとミュンヘン再保険が共同で担当した。ミュンヘン再保険及びGC セキュリティーズ(MMC セキュリティーズの一部門)が副幹事を務める。

スイス・リー・キャピタルマーケッツ、ミュンヘン再保険及びGCセキュリティーズは、共同で保険デリバティブ取引のアレンジャー役も担った。

今回の世銀債は、「キャピタル・アット・リスク(CAR)プログラム」に基づいて発行される。これは、感染症が発生して予め設定されたトリガーが発動されると、PEF対象国に保険金が支払われ、投資家の投資元本の一部または全額が棄損する可能性があるためで、元本保証を原則とする一般の世銀債発行プログラムとは別枠での発行となる。

PEFの対象となる感染症は、大流行を引き起こす可能性の高い6種類のウイルス、すなわち、新型オルソミクソウイルス(例: A型の新型インフルエンザウイルス)、コロナウイルス(例:重症急性呼吸器症候群:SARS、中東呼吸器症候群:MERS)、フィロウイルス(例:エボラ出血熱、マールブルグ熱)、その他の動物由来性感染症(例:クリミア・コンゴ出血熱、リフトバレー熱、ラッサ熱)である。

PEFの資金は、死者数や蔓延の速度、蔓延が国境を跨っているかなど、予め一定の要件をトリガーとして設定し、WHOが公表しているデータを基に、トリガーの水準を上回ったと判断されると対象国に提供される。

PEFの保険枠から資金を受け取る資格を有するのは、世界の最貧国に譲許的融資を提供する世界銀行グループの組織である国際開発協会(IDA)の融資適格国である。PEFは運営グループにより管理され、同グループは、投票権を持つ日本とドイツ、投票権を持たないWHOと世界銀行等で構成される。

世界銀行はこれまで、途上国のリスク管理を支援するため、保険市場で革新的な自然災害リスク保険商品を開発してきた。世界銀行が過去10年間に実行した自然災害リスク保険取引は約16億ドルに達する。

投資家のタイプと地域

起債概要*

◆関連ビデオ(英語)

◆2016年5月プレスリリース "世界銀行グループ 感染症から最貧国を守る画期的な資金動員メカニズムを導入"

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