2000年~2010年の期間に東アジアの都市圏に移り住んだ人は2億人近く(世界で6番目の国の人口に相当)に上る、と世界銀行が発表した報告書「東アジアの都市変遷:10年の歩み(仮題):East Asia's Changing Urban Landscape: Measuring a Decade of Spatial Growth」は指摘しています。
東アジアの都市圏の面積と人口を、同条件で比較したデータが発表されるのは今回が初めてとなります。これには、政府や自治体の長が各都市の拡大の状況と規模をより正確に把握し、全ての人が平等に機会を与えられるという都市化のあるべき姿を実現する狙いがあります。
同報告書の分析によると、アジアの都市圏は全体として、調査の対象となった10年間に年間平均2.4%の割合で拡大し、2010年の都市圏総面積は13万4,800平方キロに達しました。
都市人口は、年間平均3%とさらに速いペースで伸び、2010年には世界のどの地域よりも多い7億7,800万人に達しました。一説には、ヨーロッパでは同規模の都市人口に達するのに50年以上かかったとされています。
同報告はまた、都市人口の増加に伴い、域内の1人当たり生産量が増えたとするデータを示し、都市化と所得の伸びの間に直接的な相関関係があるとしています。
さらに、東アジア地域には人口10万人を超える都市圏が869ありますが、この中には人口1千万人以上の巨大都市が、珠江デルタ、上海、北京、東京、大阪、ジャカルタ、ソウル、マニラの合計8都市含まれます。中国の珠江デルタは、面積・人口共に東京を抜いて世界最大の都市圏となりました。
また、小規模な都市圏の目覚ましい拡大も見られました。事実、人口10万人~50万人の小規模な都市圏572と、人口100万人~500万人の中規模な都市圏106を合計した面積は、上記8つの巨大都市の総面積を上回ります。
こうした都市圏拡大の顕著な特徴として、都市圏の平均人口密度の上昇が挙げられます。この傾向は、適切に管理されれば環境にとって望ましい上、効率的な行政サービスの提供も可能となりますが、他方で、都市の細分化による深刻な問題も引き起こします。350近い都市圏が行政区画の境界線を越えて広がっており、行政区画を変更しないまま複数の都市が一つに併合された例もあります。
都市化が東アジア地域全体を変貌させる中、政府や自治体の長が状況を把握し対策を講じようにも、各国間で比較可能なデータが存在しないという問題があります。都市圏と人口の定義は、国によって異なるからです。
この問題を解消するために今回作成されたデータセットは、衛星画像や人口分布モデル作成技術を駆使し、人が住む地域すべてをマッピングして作られており、都市化の動向について理解の共有を図るものです。このアプローチを用いることで、都市化の進む場所と速度、人口増加と都市圏面積拡大の相関関係などを体系的に把握することが可能になります。
これほど大規模かつ急速な発展を遂げているにもかかわらず、東アジアの総面積に占める都市の割合は1%に満たない上、都市の人口は全体のわずか36%に過ぎない、とデータは明らかにしています。つまり、東アジアの都市拡大はまだ始まったばかりということになります。これまで域内での都市化は主に市場が牽引する形で進んできました。しかし、持続可能で貧困層に配慮した都市化を推進するためには、政府や自治体の政策担当者が重要な役割を担っています。
- 今後の都市拡大に向けた周到な準備 都市拡大が効率的に進むよう、土地開発指導、土地再配分および区画整理、土地共有、開発権の移転といったメカニズムを用いた土地アクセスの促進
- 経済効率の高い都市化の実現 国家都市化戦略を通じて都市システム全体に取り組み、各種の経済活動を促進するための各規模の都市への公共投資の奨励
- 貧困層に配慮した都市化の実現 経済的機会アクセスの不平等を是正し、都市に移住してきたばかりの人たちの脆弱性を解消するような都市拡大計画の策定
- 持続可能な都市化の推進 人口密度の高い都市圏が、移動が容易で住みやすい環境となるよう、良好な立地を確保し、企画、調整を実施
- 都市細分化への取り組み 地方政府の権限など各種メカニズムを用いて、自治体の境界線を越えた都市サービス提供に向けた調整
今回の調査は、オーストラリア国際開発庁のご支援により実現したものです。
報告書「東アジアの都市変遷:10年の歩み(仮題):East Asia's Changing Urban Landscape: Measuring a Decade of Spatial Growth」(英語)
地図の閲覧やデータのダウンロードはこちらをご覧ください。
都市拡大についてさらに理解を深めるため、世界銀行はデータ分析コンクールを実施します。応募される方は、本報告書「東アジアの都市変遷:10年の歩み」の中で紹介している新しいデータセットを用いた(1)データ・ビジュアリゼーション、2)政策リサーチペーパーについてのプロポーザルをお送りください。詳細はウェブサイトにてご確認いただけます。