米国の金利引き上げを目前に、途上国への資金フロー減少や、金融市場のボラティリティ上昇も
2015年、途上国は多くの難しい課題に直面している。原油などの主要一次産品の価格下落という新たな状況に適応が求められる中、借入コスト増が近いと見られ、経済成長率は4年連続で不本意な水準となるだろう、と世界銀行グループが本日発表した「世界経済見通し(GEP)」は指摘する。
こうした状況を受け、途上国の成長率は、2015年が4.4%、2016年が5.2%、2017年が5.4%と予測される。
米国の金利の引き上げが予測される事から、新興国・途上国にとっては、今後数カ月の間に借入コストが上昇する可能性がある。しかし、米国経済の回復が続き、世界の他の主要国の金利が依然として低水準にある事から、このプロセスは比較的円滑に進むと見られる。
ただし、こうした期待の裏には多大なリスクが潜んでいる、と同報告書は指摘する。2013年に量的緩和の段階的縮小政策を発表した途端に、後に「テーパー・タントラム」と呼ばれる金融市場の混乱が発生したことを思えば、米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融危機後初となる金利引き上げを実施することになれば、市場のボラティリティを誘発し、新興市場への資金フローを対GDP比で最大1.8ポイント減少させかねない、と同報告書は分析する。
米国の金利引き上げは、脆弱性を高め、成長見通しを弱めるなど、特に新興国にとって大きな打撃となる。既に一次産品価格の長期低迷への対応に苦慮している一次産品輸出の新興国や、政策不透明感の強い国では、資本フローの減少がさらなる政策課題となるであろう。
原油などの主要一次産品の価格下落は、こうした一次産品の輸出に依存する途上国の景気後退を加速させてきた。一方、 一次産品輸入国は、インフレ率低下、財政支出への圧力緩和、輸入コスト低下といった恩恵を享受しているが、これまでのところ原油安は経済活動の活性化に結び付いていない。多くの国が電力、運輸、灌漑などの基幹インフラ・サービスが慢性的に不足し、政治不安や、悪天候に起因する大洪水や干ばつに悩まされているからだ。
同報告書は、多くの低所得国が一次産品の輸出と投資に依存しているため、現在の環境に対して脆弱であるとの分析を特集している。一次産品価格が高騰した2000年代半ばには、主要な金属・鉱物の発見、資源への投資、一次産品の輸出拡大が続き、これらの国の経済は大きく発展した。従って、一次産品価格低迷の長期化の見通しにより政策担当者は、金属・鉱物に代わり、国の成長の原動力となるような他の優先課題に資源を振り向けるべきだと気付かされるだろう。またこれにより、移行期を乗り切るためにバッファーを構築するという政策や、非資源部門の成長を支える改革が重視されるだろう。
対照的に、高所得国では、回復に弾みがつき、ユーロ圏と日本の景気が回復し、年頭に軟調だった米国も成長が続いている。高所得国の成長率は、2015年は2.0%、2016年は2.4%、2017年は2.2%と順調に推移すると予測される。世界全体の経済成長率は、2015年は2.8%、2016年は3.3%、2017年は3.2%となるであろう(※1) 。
詳細、地域別の概要は、プレスリリース「2015年、借入コストの増大、原油などの一次産品の価格下落が途上国の移行を困難に」をご覧ください。
(※1) 2010年の購買力平価を基準にすると、世界成長率は2015年に3.4%、2016年と2017年はそれぞれ4.0%と予測。