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2015年09月04日 23時18分 JST | 更新 2016年09月03日 18時12分 JST

自然の森へ アムールヒョウの再導入計画がスタート

2015年6月、WWFが長年にわたり提案し、実施を働きかけてきた「アムールヒョウの再導入計画」がロシア連邦天然資源・環境省により承認されました。この計画は、最大でも80頭前後といわれるアムールヒョウの保護活動の一環として、世界各地で飼育されている仔ヒョウをもらい受け、野生で生存するためのトレーニングを行ない、自然の森に再導入する、というものです。この再導入計画は、少なくとも今後12年をかけて行なわれる予定です。

「ヒョウの森国立公園」における保護の取り組み

極東ロシアと中国東北部に生息するアムールヒョウは、多くの亜種個体群が知られるヒョウの中でも、特に数が少なく、絶滅が心配されている亜種の1つです。

その保全のため、これまでさまざまな活動が、ロシア連邦政府、沿海地方政府、WWFのような民間団体の間で取り組まれてきました。

2012年には、WWFなどの長年の働きかけにより、大規模な保護区「ヒョウの森国立公園」の設立が実現。

隣接するケドロバヤ・パジ自然保護区や緩衝帯を含む、この保護エリアは、アムールヒョウの生息域全体の約70%をカバーするまでになりました。

こうした活動の結果、約30頭といわれたアムールヒョウの個体数は、この15年間で増加に転じ、同国立公園の中だけでも60~70頭に増加。

WWFが掲げてきた、野生のアムールヒョウの個体数を安定させ、増加に転じる、という最初の目標が達成されました。

しかし、現状の数字は、決して大きなものではありません。

WWFロシア・アムール支部代表のユーリ・ダーマンは、次のように警告します。

「アムールヒョウが依然として絶滅の淵にあるのは疑いようのない事実です。

たった1度でもジステンパーなどの伝染病が流行すれば、地球上からアムールヒョウは姿を決してしまうでしょう」

また、それなりの面積を持つとはいえ「ヒョウの森国立公園」の限られた地域だけでは、生息できる個体数にも上限があります。

そのため、保護活動の現場では、取り組みがうまく進むにつれ、「ヒョウの森国立公園」以外の場所にも、新たなヒョウの生息地を確保し、個体数を増やす必要性が大きくなってきました。

再導入計画承認までの道のり

この取り組みのために提案されたのが、飼育下にあるアムールヒョウを野生に復帰させる「再導入」の計画です。

これは、世界各地の動物園などからアムールヒョウの仔をもらい受け、かつてヒョウが生息していた地域に再び放し、野生の個体群を復活させよう、という試みです。

この構想は、1996年にWWFが主催した「国際アムールヒョウ会議」で初めて提案され、1998年の「アムールヒョウ保全のためのロシア国家戦略」でも保全策の項目の一つとして挙げられましたが、実現には至ってきませんでした。

しかし、2013年11月にロシアのプーチン大統領が、シベリアトラとアムールヒョウの保全に関する一連の法令に署名したことで、実現の可能性が開かれました。

この法令には、行動計画と再導入計画を含めた、新たな「アムールヒョウ保全戦略」の策定が盛り込まれていたためです。

そこで、WWFロシアは、専門家らと協力し、この「アムールヒョウ保全戦略」の案を作成。

これがロシア連邦の天然資源・環境省により、国の政策として承認されたことを受け、この保全戦略を基礎とした、行動計画と再導入計画が作成される運びとなったのです。

20年の活動を経て、動き始めた再導入計画

しかし、計画が実現を見るまでには、さらに月日を待たねばなりませんでした。

アムールヒョウの再導入計画が、沿海地方政府からロシア天然資源・環境省に提出されたのは、2013年12月のこと。

承認され、さらにその実現の目途が立つまでには、1年半以上の年月を要することになりました。

それでも、この取り組みの確実な前進について、1996年に初めて再導入計画を提案したWWFロシアのアムール支部代表ユーリ・ダーマンは、「専門家たちが20年間にわたって夢見てきたもの」と感慨を述べました。

「この歴史的な瞬間を迎えるために、私たちは努力を惜しまず、準備を行なってきたのです」。

それでも、計画の承認は、あくまでスタートに過ぎません。

飼育下にある動物を野生に還すことには、さまざまな困難があり、時間もかかります。

まず、飼育されているヒョウたちは、自然界で生きていく上で必要な、狩りの能力や、人間に対する恐怖心などを、身に付けねばなりません。

そのため、世界各地の動物園から提供された仔ヒョウは、再導入センターで特別なプログラムに沿ったトレーニングを受け、最終テストに合格することが求められます。

そして、条件を満たした個体のみが野生へと放され、その後も定着したかどうか、長期にわたる調査が継続されるのです。

計画が順調に進み、最初の野生への導入が成功するまでには、少なくとも3~4年を要すると見られています。

ヒョウとその森を守るために

こうした飼育個体のトレーニングと共に、この計画にはもう一つ、きわめて重要な点があります。

それは、ヒョウが安心して生きることのできる自然の森を、確保・保全できるかどうか、ということです。

そこで計画では、再導入に最も適した地域の選択が、慎重に行なわれました。

その結果、日本海に面した沿海地方南部のラゾフスキー地区とオルギンスキー地区にある、約7,000平方キロの地域が、再導入可能なエリアとして選ばれました。

ここには、ロシア連邦政府が管轄するラゾフスキー自然保護区とゾフ・ティグラ国立公園のほか、チェルニ・スカリー野生生物保護区、ヴァシルコフスキー野生生物保護区の計4つ、合計1,400平方キロの保護区があります。

また、ラゾフスキーには、再導入センターも建設される予定で、保全活動を継続していく上での核となることが期待されています。

少なくとも12年という月日を要するこのアムールヒョウ再導入計画には、今後もさまざまな困難が生じることでしょう。

それでも、計画が実現した暁には、これらの地域からシホテアリニ山脈南部までの沿海地方南部の森を、自由に行き来して生きる、第2のアムールヒョウ個体群が形成されるに違いありません。

多くの国々のWWFのサポーター、国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会やヨーロッパ動物園水族館協会、米国動物園水族館協会により支えられたこの挑戦は、今まさに始まったばかりです。

WWFは、今後もこの取り組みを支援していくと共に、ヒョウの生息地である森を守るため、日本でも持続可能な方法で生産された木材製品の購入を推進していきます。

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