2015年10月19~23日、ドイツ・ボンにおいて、2015年4回目の国連気候変動会議が開催されています。2015年は12月にフランス・パリでCOP21・COP/MOP11(国連気候変動枠組条約締約国会議第21回会合・京都議定書締約国会議第11回会合)が開催されますが、このCOP21では、世界各国が地球温暖化防止に関する2020年以降の「新しい国際枠組み」を合意する予定です。COP21前に開催される準備会合としては、最後となる今回のボン会議は、パリ会議で合意可能な合意文書の素案を作り出せるかどうかが大きな課題です。
現在の国連気候変動交渉の流れ
2015年10月19日~23日、ドイツ・ボンにおいて、2015年4回目の国連気候変動会議が開催されています。
現在、国連では、気候変動(温暖化)に関する、2020年以降の新規かつ包括的な国際枠組みを作るための国際交渉が続けられています。
その枠組みとは、国際的な地球温暖化対策のルール、目標、支援の仕組み等全体を指し、2015年12月に、フランス・パリで開催されるCOP21・COP/MOP11(国連気候変動枠組条約締約国会議第21回会合・京都議定書締約国会議第11回会合)において合意しようとしています。
このため、その枠組みは「2015年合意」や「パリ合意」と呼ばれることもあります。成立すれば、1997年に京都議定書が採択されて以降、最も重要な気候変動に関する国際合意となるため、国際社会の注目が集まっています。
これまでの国際社会の気候変動に対する取り組みを振り返ると、まず、2008年~2012年を対象とした京都議定書の第1約束期間がありました。この期間には、主に先進国を対象に削減義務が課せられていました。
しかし、その後、それに続く国際枠組みを作ろうとしましたが、国々の間での対立が激しくうまくいかなかったため、2013年~2020年までの期間は、各国による自主的な温室効果ガスの削減目標を基礎とした体制で取り組むことになっています(EU等一部の国は2013~2020年も京都議定書の第2約束期間を継続しています)。
そして現在の交渉は、2020年以降の国際的な取り組みを議論の対象としています。その交渉の場として、2011年に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17・COP/MOP7での合意に基づき、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)が設けられ、その場で交渉が行なわれています。。
今回の会議も、そのADPの会合の第2回第11セッションとして開催されるので「ADP2.11」と呼ばれます。
ADPの2つの「ワークストリーム」と交渉の流れ
2015年12月に国際社会が合意をしようとしている新しい国際枠組みの目的は、端的に言えば、「危険な気候変動(温暖化)を防ぐこと」です。
そのためには、一方では、原因である温室効果ガス排出量の削減を国際的に進め、他方では、それでも進行してしまう気候変動(温暖化)の影響に対処していくための対策をとっていくことが必要です。
現在の交渉は、そのための原則やルールといった事項を議論しています。
より詳しくは下記で説明しますが、交渉の舞台であるADPには、2つの大きな論点分野があり、それぞれ「ワークストリーム1、2」と呼ばれています。
ワークストリーム1は、2015年12月までに合意する、2020年からの新しい国際枠組みの中身を詰めていく交渉を、ワークストリーム2は、2020年までの各国の取り組みの「底上げ」を議論しています。
ワークストリーム2において、なぜ「底上げ」が必要になるかといえば、現在各国が自主的に約束している取り組みでは、あきらかに、「地球温暖化による平均気温上昇を2度未満に抑える」という世界の目標に足りないためです。
2度未満に抑えるために必要な削減量と、約束されている削減量との差(ギャップ)は、2020年時点で80~120億トンにも上ると試算されており、これは、現在のアメリカ1国分の排出量より大きい数字で、国際的な課題として取り組まれています。
2015年の交渉では、2月にスイス・ジュネーブで開催されたADP2.9において、各国の意見を入れ込んだ「交渉テキスト」と呼ばれる合意の下書きが準備されました。
しかし、各国の意見をそのまま書き込んだ形であり、交渉にも難しさがあったため、6月に開催されたADP2.9において、ADPの2人の共同議長に対して、選択肢等がよりわかりやすくなるように、交渉テキストを再整理する権限が与えられました。
7月下旬にその共同議長によるテキスト案が条約事務局のウェブサイトに掲載され、8月末から9月上旬に開催されたADP2.10で、このテキスト案が議論されました。
その後、ADP2.10の議論を踏まえて、新しいテキスト案を作ることが、再度共同議長に要請されました。
そして、今回の会議の直前の10月5日に、そのテキスト案が各国に対して提示されました。
今回の焦点:新しい共同議長案への反応
今回の会議の焦点は、前述したADPの2人の共同議長が用意した、新しい合意の共同議長テキスト案をめぐって、どのような議論が展開されるかです。
新しい共同議長テキスト案は、これまで80ページあったものを約20ページにまで削りこんでいます。
残りの実質的な交渉日数が20日を切っていることを踏まえると、パリでのCOP21で合意可能な文書の長さにまで絞ったとも言えるのですが、各国の意見が削られている面もあるので、交渉の基礎として受入れられるかは一種のかけとなります。
重要な論点の例:中長期的な削減目標と資金支援
たとえば、国際社会全体として、2050年や2100年といった長期にどれくらい温室効果ガス排出量を削減していくのかを、目標としてパリ合意の中に書くのか書かないのかというのは、1つの大きな論点です。
6月に開催されたドイツG7では、IPCC第5次評価報告書が、「2℃未満に気温上昇を抑える」ということを前提としたシナリオの数字として示した「2050年までに2010年比で40~70%削減する」という数字が宣言の中に盛り込まれました。
これをうけると、G7に参加していた先進国はおそらくこうした方針に合意はできるものとみられますが、中国やインドも含んだ途上国は、先進国との責任の差が明確にならない限りは、こうした長期目標に合意できないと主張することも予想されます。
このほか、各国が国連に提出している2025年もしくは2030年に向けた、温室効果ガス排出量の削減目標は、最終的にはどのような扱いとするのか、というのも大きな論点です。
京都議定書と同じように国際合意の中に書くのか、それとも、目標を持つことは決めつつも、国際合意の外で管理していくのか。
これには、現在のアメリカの状況では、具体的な数値目標を国際合意の中に書いた状態では、正式に合意に参加する(批准する)ことができない可能性があるという事情も背景にあります。
また、途上国が温暖化対策やその影響に対する適応に必要とする資金や技術をどう支援するのか、そのあり方についても、今後、大きな論点になってくると予想されます。
2010年の時の決定で、世界全体で「2020年までに年間1000億ドルの資金を動員する」という目標が設定されています。
この「1000億ドル」には、先進国政府が公的資金で途上国を支援するものも当然含みますが、民間が途上国に直接投資するお金も含むことになっています。
このような資金支援について、新たな合意をするのかどうかということも、大きな論点です。
先進国としては、いたずらに資金支援の金額を増やすことには消極的な一方で、途上国に適切に温室効果ガス排出量削減を進めてもらうためには、たしかに資金支援が必要な部分があることを認めています。
このため、今回の議長国であるフランスは、この資金支援を、重要な合意の柱の1つとして位置付けています。
ここで列記したのは、いずれも大きな論点ですが、それでも、議論されている論点のほんの一部で、その他にも多種多様な論点があり、それぞれについて国々の立場が違うため、交渉が大変に複雑化しています。
しかし、パリでの会議までは、残すところあと約1か月となり、最終的な着地点を見据え、交渉を詰めることが必要です。
WWFの視点:日本がやるべきこと
WWFジャパンは引き続き、世界各国のWWFのオフィスと協力して、新しい国際枠組みが、気候変動による脅威を食い止めるに足る枠組みとなるように、各国政府に働き掛けていきます。
ADPでの交渉は、基本的に、2015年12月までに新しい国際枠組みの合意を目指しつつ、2020年までの取り組みの底上げを図るという流れで来ています。
その中で、各国は、いよいよ、新しい枠組みにおいてどのように排出量削減に貢献することができるのか具体的な対応を問われる時期となりました。
今回の会議までに、120を超える国々が(日本も含めて)、次期枠組みに向けての温室効果ガス排出量削減目標を提出しています。
世界の温室効果ガス排出量の約8割を超える国々が、すでに2015年合意成立へ向けての強い意志を示していると言えます。
しかし、日本の「2030年までに2013年比で26%削減する」という目標は、気候変動の脅威を食い止めるという観点からは、あきらかに不十分な目標であり、日本の責任や能力から考えれば、もっと野心的な目標を掲げるべきでした。
また、アメリカ、中国、EU、インドなど、既に目標を提出している各国の目標も、決して充分ではありません。
このため、COP21での合意では、単にこうした削減目標を登録し、実施していくための仕組みだけではなく、将来に向けて、世界各国の努力の水準を引き上げていくための仕組みも組み込んでいくこともが非常に重要です。
WWFジャパンは、そのための提言活動をCOP21に向けて行なっていきます。