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2018年06月07日 11時12分 JST | 更新 2018年06月07日 11時14分 JST

異端的論考27:75歳以上の後期高齢者への対応に焦点を当てた社会保障改革が急務

75歳以上には、医療・介護・生活保護の切り分けは意味をなさない

3月14日にアップした「異端的論考26:少子超高齢貧困社会におけるBI(ベーシックインカム)を考える」 から少々時間があいてしまったが、今回はその後編である。

政府は5月21日の経済財政諮問会議で、2040年度までの社会保障給付費の将来推計を初めて公表した(2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)-概要-)。

低成長下で現行の社会保障改革の計画を実行すると想定した場合、給付費は2040年度に188.2~190兆円まで増加し、2018年度(121.3兆円)の約1.6倍に達するとしている。75歳以上の後期高齢者が急増するのであるから当然である。

190兆円の給付費の内訳を見ると、高齢者が主たる対象となる年金73.2兆円、医療66.7~68.5兆円、介護25.8兆円とある。2018年度からのGDP比率をみると、年金は支給開始年齢の引き上げやマクロ経済スライドの実施などで10.1%から9.3%に抑制されるが、医療は7.0%から8.4~8.7%と約1.25倍、介護は1.9%から3.3%と約1.7倍となる。

一方、2040年度の給付額の原資(国の年金積立金の運用益などを差し引く)は187.3兆円となり、80.3兆円は公費、107兆円は保険料で賄われるとのことである。

現在の税収規模と巨大な財政赤字の解消の目途がたたない中での国債発行の限界を考えると、この80兆円の公費をどのように賄うのかは大きな疑問である。現役世代が中心となる保険料増額もしかりである。

政府は、2018年度から3年間の「ベースライン」名目経済成長率を2.5%、2.4%、2.2%としており、現状の成長率(2016年度、2017年度の名目成長率は、1.0%と1.6%)と比べると、政府に都合の良いかなりの楽観シナリオといえる。(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/gaiyou/pdf/main_1.pdf)さらに楽観的な「成長実現シナリオ」を合わせて提示しているのは、「ベースライン」シナリオの楽観性を隠蔽するためかと疑われる。また、変化に保守的な高齢者が有権者の多数を占め、整備された法制度による規制が完備している状況は、一般的に言って技術革新を阻害するので、人口減少を大きく上回る生産性向上の可能性は相対的に見て低いことを考えると、現実の日本社会は、政府のいうベースラインシナリオでさえ達成するのは厳しい経済状況にあると考えるのが自然なのではないだろうか。

世代間不平等の是正というのであれば、単なる増税(今回の消費税引上げに伴う軽減税率の導入は、実質税収増の意味が大きく薄れるばかりか、一律税率には戻れないという将来に禍根を残すという意味で、先のことは考えない目先の人気取り、あるのは政治家の利権の拡大のみと言う愚策中の愚策)よりも、まずは世代間不平等の原因とされている年金、医療、介護といった高齢者対象の社会保障制度のあり方を是正した方がよほど効果的と言えるのではないか。

2020年代前半には75歳以上の後期高齢者人口が75歳未満の前期高齢者人口を上回り、その後も増加を続け、2055年頃に2400万人台とピークとなる。総人口は現在の1億2600万人から2055年には9700万人へ3000万人減少すると予測されている。それ以降は、国民の4人に1人が75歳以上という状態で安定する。その一方で、社会保障費受給の比較的少ない75歳未満の前期高齢者は減少傾向に転ずる。当たり前であるが、このような人口構造のもとでは、今ですら財源の問題を抱える現役世代が支える高齢者向けの社会保障制度を維持できるわけがない。

前編と後編からなる本論考の趣旨は、日本の社会保障制度の持続性のために、小出しの増税と小手先の制度変更で衰弱する社会保障制度の延命をするのではなく、大幅に増加し、かつ貧しくなることが想定される75歳以上の後期高齢者に的を絞った社会保障制度の抜本的な再構築を如何に行うか、その考え方の方向性を提示することである。この文脈で、前編では、高齢者の貧困化が明白であるなか、75歳以上の高齢者に対する年金支給を消費税で担保するBI(ベーシックインカム)という提案を行った。 

 今回の後編では、後期高齢者、それも貧しい高齢者が急増する中で、大きな問題となる医療・介護・生活保護制度を取り上げる。日本が直面する少子超高齢貧困社会という問題はBIだけでは解決できないので、75歳以上の後期高齢者に対するBIの支給(額も含めて)に応じて、現行の医療、介護、生活保護制度も抜本的に見直すことが必須となる。

75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の財源は公費が50%、大企業の健保組合からの支援金という名の強制的な冥加金が40%(健保組合の財政はすでに健全な状態ではなく解散が相次ぐ可能性が高く、現在の政府の健保組合からの搾り取りモデルは早晩機能しなくなる)、後期高齢者による保険料は残りの10%である。平均して、生涯にかかる医療費の半分以上は75歳以上で発生している。公費依存の財源状態での75歳以上の後期高齢者の急増を考えれば、この制度に持続性がないのは明白であろう。

介護保険の財源も50%が公費、高齢者による保険料が25%、40歳以上の現役による保険料が25%となっている。今後、要介護認定率が上昇する後期高齢者が急増するなかで、認定を厳しくするなどの抑制策やごく少数の豊かな後期高齢者の自己負担率を上げるという策を講じたとしても、給付費の増加は避けがたく、20歳以上からも保険料を徴収するとしても、保険料依存には限界があるので公費の比率が高まるばかりであり、保険制度として自律的に機能することは難しく公的扶助の側面が一段と強くなるであろう。

そもそも、後期高齢者にとって、生活を分断し、単体の病気を治療・完治させるCure的医療は意味をなさないといえる。むしろ、複数の病気と機能低下に対して折り合いをつけながら生活を維持していくCare的考えが重要になる。現在の医療と介護を別の制度として後期高齢者に対応しようとすることは、現実的ではない。

生活保護を見てみると、生活保護世帯の半数を65歳以上が占めているのが現状である。高齢者は貧困から抜け出ることが難しいので、高齢者数の増加に伴い生活保護世帯における高齢者比率は増加していく。

このような後期高齢者医療制度、介護保険制度、生活保護制度が直面する構造的な問題を考えると、その改革は急務である。抜本的な改革を避けて、75歳以上の後期高齢者に対して、医療、介護、生活保護(高齢の生活保護者の医療支出は極めて高い)それぞれの制度で対応することは、きわめて非効率的である。むしろ、医療・介護・生活保護を一体化した社会保障サービスを提供するほうが望ましいのではないか。

具体的に、筆者達は、以下のような制度変更を考えているが、読者諸兄はどのように受け取られるであろうか。

  • 現行の75歳以上を対象とした後期高齢者医療保険制度を改組し、医療・介護・生活保護を一体化し、原則無償化する。
  • GP(かかりつけ医)登録制とする。GPを医療・介護機関・サービスへのアクセスへのゲートキーパー(医療・介護データの一元化)とし、現行のフリーアクセスを禁止することで、医療費(現在極めて非効率な薬剤費を含む)、介護費を最適化する。GPは医療に加えて介護にも詳しくなければいけないので、看護士などを含めたチームとするのが望ましい。
  • 混合医療、混合介護を可能とするようにミニマムの無償サービス(たとえば、風邪は自己負担とするなど現行の医療報酬対象を大幅に見直し、処方薬はジェネリックとする等)を定義する。
  • 資産が全くない者については、本人の要請に応じて、最低限の住居も手当てする。
  • 現行の介護保険は廃止する。75歳未満で介護保険を必要とすると判断されたケースは例外として、75歳以上の統合制度に組み入れる。現在75歳未満が支払っている介護保険料は、この統合制度を支える財源(たとえば社会保障税など)として継続することも検討する。
  • 一方、財源は後述する遺産税と消費増税などで賄い企業の健保組合による支援金(6兆円規模)をなくすことで、現役世代の健康保険料は相当程度低くなる。
  • 生活保護制度は75歳未満を対象とする制度とし、本来の制度の趣旨にのっとり、保護期間を設定し、厳格な社会復帰プログラムを義務づける。
  • 原則無償であるが、基準値以上の裕福な高齢者は、応能診療負担(1割から3割)とする。
  • 死亡時に一律20%の遺産税を徴収して制度の財源(年間60兆円程度と推定される相続額の2割を一律で課税すると税収は12兆円)に充て、世代内での支え合いを徹底する。これによって相続税は廃止する。これを避けて生前に贈与や消費を行うのであれば、それは、高齢者によって死蔵されているといわれる金融資産の流動化につながる。
  • 制度に加入する前提として、金融・不動産資産など全資産についてマイナンバーでの登録を義務付ける。

上記の統合医療・介護・生活保護システムの実施体制は国と地方自治体の役割分担とも関連するので、道州制を含め公共部門の再構築についても検討する必要がある。

現状、後期高齢者医療保険の給付は14兆円(公費が50%)、生活保護医療費が3兆円(100%公費。半数が高齢者)、介護保険給付費(65歳以上)が10兆円(公費が5兆円、高齢者保険料が2.5兆円)で総額27兆円(そのうち公費が15兆円)の規模であるが、上記の制度の統合やサービスの見直しで、どの程度効率化できるかが鍵となるが、ゲートキーパーを設けてフリーアクセスを禁止することで、大幅な効率化は可能であろう。

団塊の世代すべてが後期高齢者になる2025年までに、大きな制度改革を行えなければ、この国の社会保障制度の未来はなく、我々に残された時間は限られていることを強く認識する必要がある。

さて、この75歳以上を対象にした医療・介護・生活保護を統合した無償制度に読者諸兄は賛成であろうか、反対であろうか。