地方の問題を置き去りにしているのは、霞ヶ関ではなく、地方の政治家たちではないか

候補者の公開討論会をやってほしい。
前知事の辞職に伴う新潟県知事選が告示された。県選管は看板などで投票を呼び掛けている=24日、新潟県庁
前知事の辞職に伴う新潟県知事選が告示された。県選管は看板などで投票を呼び掛けている=24日、新潟県庁
時事通信社

よく、地方の政治家は「東京一極集中で地方の問題が置き去りにされている」と言うけど、6月10日に投開票される新潟県知事選挙を見ると、置き去りにしているのは当の地方の政治家なのではないかと思ってしまう。

知事選は事実上、与野党の一騎打ちと言われており、選挙公報や政見放送で主要候補2人が強調した点を見てみよう。

まず、与党の男性候補

●県民の県政に対する信頼を取り戻す

●副知事としての行政経験を活かす

●将来的な脱原発

●地域力を高める

●利便性向上

次に野党の女性候補。

●女性の知事を誕生させよう

●柏崎市で生まれ育ち、22年歯科保健の仕事をし、市議会議員になった

●原発ゼロの新潟

●真の豊かさを実感できる新潟

●質の高い教育を受けられる新潟

●県民にもっとも近い対話型県政の新潟

2人とも漠然としたことしか書いておらず、「今新潟は〇〇な問題を抱えていて、私が知事になったら〇〇する」という具体策が乏しい。まず、大きな争点になりうる原発問題は、両候補とも脱原発を掲げたため、争点になりづらくなった。

野党系の前知事が女性スキャンダルで辞職したため、与党系候補は「信頼を取り戻す」と言い、前知事も野党系候補も行政経験がないことを意識してか、元官僚で新潟の副知事までやったことのある「手堅さ」を強調する。

野党は前知事の女性スキャンダルに対する疑念払拭のためか、候補者選定の段階から女性に絞り、候補者が決まってからは「新潟初の女性知事を」を前面に出す。与党系候補が高校卒業してから東京へ出たことを意識してか、候補者がずっと新潟にいたことを強調する。さらに、与党系候補が元官僚であることから、最近の文書改ざん問題などと結びつけ、野党側は「官僚は政治の言いなり。新潟県のことは新潟県で決めれるようにしましょう」を強調する。

確かに、前知事の辞職も文書の改ざんも私はショックだった。次の知事を選ぶ際の判断材料にはなるかもしれないが、でもそれ以上に、候補者が新潟をどう変えたいと思っているのか具体的に知りたい。

新潟が抱える問題は多岐に渡る。225万人が暮らす新潟県だが、1年間で2万人の人口が減るようになった。私が生まれ育った旧大和町の人口が1万5000人だったから、故郷が1年足らずで消えているのだ。自殺率は全国でもトップクラス。30年連続で最高級の特Aランク付けだった「魚沼産コシヒカリ」が初めてランク落ちになった。日本へ来る外国人観光客は過去最高を記録しているが、近隣の県と比べると、なぜか、新潟だけ外国人観光客数があまり増えていない。

私は15歳で新潟を出て、一昨年戻って来た。それからの1年9か月間、色々な問題に出くわした。人口減少がこれだけ顕著なのに、必要とは思えない道路がどんどん作られる。「若者が戻ってくる町にしたい」という市長が、なぜか、一番若者が多く暮らす地域にごみ処理施設を作ろうとしている。国際理解教育が市の特色と言いながら、全園児の2割が外国籍の保育園の入園式で、外国籍児童の名前だけニックネームで呼ばれる(あなたの息子だけ入園式でニックネームで呼ばれたらどう感じますか?)。外国人観光客を増やしたいと言いながら、「雪景色を見たいからリフトに乗せて」とお願いする外国人に対し「スキーかスノボを履いてない限りダメ」と言う(雪を観光資源にしましょうよ!)。地域の魅力を海外に発信したいと言いながら、魚沼地域に留学しに来る外国人が「コシヒカリ」の意味を知らずに帰国していく(有名なのだから住めば自動的に知ってもらえると思うのは傲慢です)。

220万人が抱くそれぞれの問題意識に対し、すべて答えるのは無理でも、一つでも多くの問題に対し、「知事になったらこうやっていきます」と具体的に言ってくれる候補者に投票したい。イメージ戦略は大事だが、政策さえしっかりしていれば、女性だろうが男性だろうが、元官僚だろうが元市議だろうが、人生のどれくらいを新潟で過ごしているかどうかなんて、私にとってはあまり関係ない。

そこで提案したい。候補者の公開討論会をやってほしい。日本では司会者の質問に答える形式が多いが、できれば、有権者が自由に候補者全員に同じ質問をできるような空間を作ってほしい。東京から駆けつけてくる有名な政治家の応援演説も大事だが、新潟で長年暮らす有権者の声もしっかり届くシステムを作ってほしい。

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