防衛相、民間船員の徴用否定「有事は自衛官が運航」

民間船員の予備自衛官化に対して「全日本海員組合」が、「事実上、民間人の徴用につながる」として先月15日防衛省に反対を申し入れた。

以前にも記事で取り上げた民間船員の予備自衛官化だが(関連記事:防衛省、民間船員を予備自衛官化ー「事実上の徴用」か)、16日の衆院予算委員会でこの問題が取り上げられた。

民間船員の予備自衛官化の詳細は上記記事を読んでほしいが、簡単にいうと、海自の予算や船・操船者が足りない現状の中で、民間船員を海上自衛隊の予備自衛官とするというものだ。

これに対し、貨物船の乗組員などで作る「全日本海員組合」が、「事実上、民間人の徴用につながる」として先月15日防衛省に反対を申し入れた。

そして、2月16日、民主党の長島昭久議員は、中谷元防衛相に「有事に民間船員が活用されるのではないかと懸念が広がっているが、防衛相としてどのようにお答えになるか。

こういった船員の不安にどう応えるか、お答え頂きたいと思います」と質問を行った。

これに対し、中谷防衛相は

「長島議員がご指摘のとおり、やはり有事とか、災害緊急事態において補給とか輸送手段、輸送路、これを確保するというのは非常に大事なことであります。

このことは既に防衛大綱、民主党時代の22大綱、また現行の25大綱の中にも迅速かつ大規模な輸送展開能力を確保、平素から民間輸送力との連携、ということが記述されていまして、この民間船舶の運航管理事業というのは迅速かつ大規模な輸送を民間の資金や能力で確保するPFI方式、これによりまして効率的に確保しましょうというものでございます。

具体的には、民間事業社から2隻の船舶の維持管理をし、訓練や災害派遣など平素については当事業者が運航するものでありますが、防衛出動時の有事におきましては、自衛隊が民間事業社から船舶そのものをうけて、自衛官が乗り込んで運航する、ということを想定いたしております。

このように有事の際に船舶を民間船員によって運航するということは考えておらず、ご指摘のような事実上の徴用にあたるものである、とは考えておりません。」

と答えた。

海技資格を保有する予備自衛官は不足

しかし、そもそもこの民間船員の予備自衛官化という話は海上自衛隊の人材不足が原因であったため、長島議員は「有事の際に本当に自衛官だけで足りるのか?

大型の民間船舶を運航するには海技資格という国家資格が必要だが、その資格を持つ民間人が予備自衛官であれば、有事に招集してフェリーを運航させることができる。

しかし、この資格を持った海上自衛隊の予備自衛官は10人ぐらいしかいない、という報道がある。したがって、海上自衛隊のOBだけでは、例えば今有事が起こった際には運航が困難だと、こういう指摘があります。

予備自衛官というのは自衛隊員としての経験が一年間ある方だと。そういう人たちをかき集めても、民間の船を運航できるのはたった10人しかいない。

こういう事実から海員組合はじめ船員のみなさん達は、結局足りないからといって船ばかりでなくて、船員も駆り出されることになるのではないかと、こういう不安が広がっている。防衛大臣はどうお答えになりますか?」と質問。

中谷防衛相「現在、海技資格を保有する海上自衛隊の予備自衛官は少ない状態でございます。この運用につきまして、有事におきましては、現職の自衛官を持って充てるところでございます。

ですが、それだけでは足りない場合におきましては、予備自衛官の活用、そしてその場合も基本的には退職した元自衛官が志願をして採用される、ということを想定しております。

海技資格の問題につきましては、今回のPFI事業によりまして、自衛隊による経験を活かし退職後に予備自衛官として本事業に従事するということを今後隊員が希望するということもあると考えておりまして、高い等級を含む海技資格を保有する退職自衛官から採用された予備自衛官、これが増えれば当該の予備自衛官をもって本事業に使用される民間船舶を運航する要員を充足させることができると考えている次第でございます。」

中谷防衛相はこのように答えたが、あくまでこれは希望的観測である。現状としては不足する可能性が高く、足りなければ民間の船員を活用せざるを得ないであろう。また、少子高齢化や志願者減により、海自出身の予備自衛官は新任を退任が上回り、毎年約50人ずつ減少している。

長島議員もこの回答後、「OBから採用するとお答えになりましたが、そもそも海技資格を保有する人数が限られている」と指摘している。

そして防衛省の深山教育人事局長は海技資格を保有する予備自衛官は「8名」だと回答。一方、フェリーを一隻運航するのに必要な船員は「一号船舶で21名、二号船泊で20名」だ。

自衛隊の艦船と民間のフェリーでは操船技術が大きく異なることもあり、自衛隊OBでまかなうのは難しいとみられる(2012年度の海自予備自衛官は682人)。

さらに、防衛省は陸上自衛隊で取り入れられていた「予備自衛官補」を海上自衛隊にも導入し、民間船員21人を海上自衛隊の予備自衛官補とする費用を来年度予算案に盛り込む予定である。

予備自衛官は自衛隊員の経験が必要だが、予備自衛官補は海技資格を保有する民間の船員であれば採用されるというものだ。そしてこの予備自衛官補は平時と有事、どちらでも操船させる方針だとされている。

だが、中谷防衛相は「予備自衛官は海技資格を保有していなくてもなれるもの」、「予備自衛官だけで足りる」と回答している。

しかし、「予備自衛官だけで足りる」のであれば、「予備自衛官補」は必要なく、予備自衛官が海技資格を有していなければ運航要員が足りなくなる可能性は高い。

さらに、「予備自衛官補も本人の希望によるもので、強制的に乗船させることは考えられない」、「入札の際に予備自衛官補を希望しなければ採用しない」としたが、民間企業が入札の際に不利になりうる予備自衛官補の拒否をすることが難しいのは想像に難しくない。

そして、同じ船員が予備自衛官補になった場合や会社に予備自衛官補になれと言われたら、チームである船舶運航で自分だけ断るのは難しい。

今回の答弁で中谷防衛相は民間人の有事の活用を否定したが、これらの回答内容では「事実上の徴用」ではないかという船員の不安は払拭されないだろう。

最後に中谷防衛相は長島議員の指摘をうけて「現在早急に資格制限を緩め現役自衛官から有資格者を増やす予定」だと回答したが、今後も引き続き、有事の際の人員をどう具体的に確保するのか議論していくべきだ。

(2016年2月17日「Platnews」より転載)

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