NHK朝ドラ『半分、青い。』 その風変わりなタイトルに込められた生活哲学

この世は肯定的にも否定的にも映る。

いよいよスタートしたNHK連続テレビ小説『半分、青い。』。主人公が胎児のまま、この世にまだ存在しないうちから登場という斬新なスタート。

楡野鈴愛役の永野芽郁と萩尾律役の佐藤健が、胎児の声のナレーションをする、という面白い趣向。それだけではありません。ナレーション担当が次々に替わっていくのもユニーク。ピンピンコロリと亡くなった祖母が、空の上からみんなを眺めつつ語る。

というように、今回の朝ドラは異色のチャレンジが満載。早くも視聴者の関心を惹きつけています。

時代考証でもカンカンガクガク、議論がわき起こっています。例えば1960年代に放送された「マグマ大使」の特撮ネタを80年代の小学生・鈴愛が知っているのは時代的にヘン、といった指摘。あるいは昭和の時代にビニール傘はおかしい、普及していなかったのでは、という声。つまり、実に細かい点まで視聴者の関心が及んでいる。言ってみればそれは「関心度の高さ」を示している。

制作側の狙い通り、ということ。つっこみも含め話題になればなるほど、まだ見ていないという視聴者も「ちょっと見てみようか」と興味をそそられるのですから。

というように、ナレーションや時代の細かい作り込みも魅力的ですが、それ以上に注目すべきことがあります。この朝ドラの大きな可能性を指し示しているポイントがあります。

それは『半分、青い。』というちょっと風変わりなタイトル。

最初に耳にした時、みなさんは何を思い浮かべたでしょうか? 甘酸っぱい青春、まだ大人になりきっていないみずみずしさ、青臭さ、未成熟ゆえの葛藤......私はそんなことを連想しました。でも、表層的なこと以上にもっと深い何かが埋まっていそうなのです。

脚本担当・北川悦吏子さんはNHKの番組Webサイトでこう答えています。

「私自身もこのドラマのヒロインのように左耳を失聴しました。ある雨の日に傘をさしていると、左側だけ雨の音がしないんですね。私的には、それがちょっとおもしろいなと感じていて、これはドラマになるんじゃないかと思っていました。タイトルの『半分、青い。』もそのとき一緒に思いついたんです」

半分の空は、雨音がしている。雨が降っている。

しかし、半分は雨音がしなくて、青い。

雨天か晴天か。面白いと思うか、悲観的になるか。この世は肯定的にも否定的にも映る。天国にも地獄にもなりうる。

つまり一つの状況下(片耳が聞こえない)でも、それをどう捉えるかによってまったく違う印象が生まれてくる、ということ。『半分、青い。』という一見シンプルなタイトルにそうした深遠なる意味が含まれている、と。

特に今の時代の日本人にとって「重要な問いかけ」になっていることがポイントです。なぜなら、人生について多くの人が悲観的になりがちだから。否定的になりがちだから。

生真面目な性格の人が多いと言われるこの国。秩序を尊重し道徳を守って、コツコツと真面目に努力し生きていく。他人との調和を大事にする傾向も強い。それは外国から高く評価される、いわば日本人の美徳でしょう。

しかしそれは一方で、世間一般のものの見方を疑わず受け入れる生き方につながり、違う個性を認められず集団の中で同調圧力を生じさせることにもつながることがあります。一元的な見方に流されがち、ということにも。壁が立ちはだかるとすぐ否定的なことをイメージしたり悲観的になってしまうのも、生真面目で決まりごとを疑うことが苦手な人の習性なのかもしれません。

タイトルの『半分、青い。』は鋭く問いかけてくる。本当にそうなの? それでいいの? と。雨音を聞き「今日は天気が良くないな」と悲観するあなた、それは本当なの?

今日は雨。しずくが光っていて特にキレイ、しっとり湿った葉っぱや石が輝いている。お肌も乾燥せずつるつるでいられる......と、面白いことはどこにでもありどこにでも見つかる。全ては自分がどう捉えるか、どう感じ取るかにかかっている。

『半分、青い。』に込められたそんな生活哲学。このドラマに大きな期待を感じる理由です。

この問いかけは、禅宗の有名な言葉「日々是好日(にちにちこれこうにち)」にも通じます。

意味するところは、晴天であろうと嵐であろうと何かを失った日だろうと何かを得た日だろうと、ただ毎日は好日である、ということ。その「好」も、良いとか好きという一般的な意味あいを越えて、全てを好しとして受け入れる姿勢。「今日は雨が降っている、雨もまた楽しい」と過ごす。「雨の日=マイナス」と捉えてしまうワンパターンの発想そのものを、よし超えてしまえ、といった感覚です。

ちなみに第一週目金曜日のラストシーンは糸電話。

鈴愛と律は糸電話を使って名前を呼び合いました。そう、まさしくお互い「一つの耳」を使っての温かなコミュニケーション。見過ごすことのできない、意味深なシーンでした。

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