先日、「自殺について誤解されている5つのこと」という記事を書きました。その後、身内を自殺で失ったという人たちからたくさんのコメントをいただき、自殺は想像以上に身近なものなのだと実感しました。
そこで気になったのが、残された人たちのグリーフです。グリーフとは、直訳すれば「深い悲しみ」や「悲嘆」を意味する言葉で、大切な人を失ったときに起こる身体上・精神上の変化を指します。大切な人を失うことは、言うまでもなくつらい経験です。その原因が自殺などの場合、グリーフは非常に複雑になります。
グリーフの症状は人によって違いますが、大まかに「普通のグリーフ」と「複雑なグリーフ」にわけることができます(普通のグリーフの症状についてはこちらをご覧ください→「グリーフQ&A」)。自殺以外でも、残された人々のグリーフが複雑になる原因は多々あります。今回は複雑なグリーフとは何かについてお話します。
複雑なグリーフの症状とは?
普通のグリーフは、時間が経つごとに少しずつよくなっていきます。しかし、複雑なグリーフの場合は、時間が経っても症状が改善されず、よけいにひどくなっていく場合もあります。下記のような症状が挙げられます。
・ 強烈な悲しみや苦しみを感じる
・ その人の死以外に何も考えられない
・ 人を信用できない
・ 死を認めることができない
・ 人生が無意味に感じる
・ 死んだ人との楽しい思い出を思い出すことができない
・ 自分も一緒に死にたかったと思う
・ 普通の生活ができなくなる
・ 亡くなった人の死は自分のせいだと思っている
グリーフが複雑になる理由とは?
では、どのような場合にグリーフが複雑になるのでしょうか? その理由はさまざまですが、主に下記の理由が挙げられます。
1. 社会的に認められない死
自殺など、社会的に認めらない死によって大切な人を失った場合、残された人のグリーフは複雑になります。グリーフを乗り越えるためには、「社会的なサポート」が必要だからです。特に欧米では宗教的な理由から、「自殺は罪である」と考える人が多いため、遺族は周りから批判的な目で見られることがあります。日本でも多かれ少なかれ似たような現状があると思います。
2. 殺人
大切な人が殺された場合、家族や友人はグリーフと同時にトラウマを経験することになります。突然殺人によって大切な人を失ったら、ショックで信じられない気持ちが続くでしょう。加害者に対する怒りとともに、殺された人を守れなかった罪の意識に悩まされるかもしれません。また、殺人事件の場合は裁判やメディアなどが関わるため、グリーフの過程はさらに複雑になります。殺人によって家族や友人を亡くした人たちには格別の配慮が必要です。
3. 死の不確かさ
その人が死に至った状況が不確かな場合、グリーフは複雑になります。例としては、誘拐された子どもが見つからない場合や、戦死した軍人の遺体が発見されない場合などです。
お葬式では大抵の場合遺体があります。日本の仏教のお葬式では、火葬した後骨を遺族に見せます。これは、「死を認識する」という意味で、とても重要な役割を果たします。亡くなった人の骨を見れば、死を認識せざるを得えないからです。でも、遺体がない場合、「もしかしたらまだ生きているかもしれない」という期待を完全に捨てることができないため、グリーフの過程が難しくなるのです。
4. 多くの死を同時に経験した場合
飛行機事故や交通事故で数人の家族を同時に失った場合、当然グリーフも複雑になります。地震などの災害で多くの人が同時に死んだ場合も同じです。彼らがが経験するグリーフは、計り知れません。
東日本大震災以来、グリーフに苦しんでいる人が大勢います。本人がそれをグリーフだと認識していなくてもです。津波で家族を亡くし遺体が見つからない場合などは、その人の死を受け入れるのがさらに困難になるでしょう。震災で犠牲になった人々には、今後長期にわたってのサポートが必要です。
5. 死んだ人との関係
亡くなった人との関係が良好であった場合、それだけグリーフが深くなるのではないかと思われがちですが、実は逆です。故人との関係がこじれていた場合、2度とそれを問いただすことができないため、後悔や怒りが残ります。死んだ人との関係を修復することはできないのです。だからこそ、生きているうちに家族や友人との関係を改善しておくことが大切です。
6. その人の精神状態
もともとうつであったり、精神的にバランスがとれていない人は、大切な人を失ったときに対応できないかもしれません。また、以前に複雑なグリーフを経験した人は、またそうなる可能性があります。
グリーフは誰もがいつかは経験する道のりですが、複雑なグリーフの症状が出ている場合、専門家の力を借りることをお薦めします。また、グリーフになっている人たち同士が支えあう、サポートグループに参加するのも効果的です。
アメリカのホスピスでは必ずグリーフカウンセラーがいて、グリーフのサポートグループも地域にたくさんあります。しかし、国内ではグリーフケア(グリーフになっている人へのサポート)が普及していません。今後、グリーフに対する認識が高まり、グリーフケアがもっと普及することを願います。
強く愛することができる人だけが、大きな悲しみを経験する。しかし、その愛こそがグリーフを乗り越える力となる。~レフ・トルストイ
(「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)
著書『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)
Facebook: Yumiko Sato Music Therapy
Twitter ID: @YumikoSatoMTBC