少し前だが、「ネット依存症」の青少年が増えており、東京都青少年問題協議会が、東京都に対して緊急提言をしたというニュースが報道された。
"都では当初、今期の検討結果が出されるのを待って具体的な対策の議論に入る予定だったが、ネット依存で実際に心身に問題を抱えて医療機関を受診する事例が増えていること、スマートフォンが急速に普及している中でネット依存に陥る子供が増える懸念があることが中間報告をとりまとめる段階で見えてきたことから、協議会では緊急提言というかたちで早急な取り組みを促すこととした。"
ふーん、という感じである。必然的に、「ネット依存とはなんぞや?」ということが気になる。
上の記事によれば、彼らが「ネット依存」の定義の根拠としているのが、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターのネット依存治療研究部門の資料らしい。覗いてみる。
すると、おや?と思う。久里浜医療センターのページには、
"インターネット依存(嗜癖)に関しては、現時点で世界的に認められた診断基準はありません。したがって、依存の程度などを評価する目的で、スクリーニングテストが使われることがあります。以下に、世界的によく使われている2種類のスクリーニングテストをお示しします。お試しいただく前に、以下の点にご注意ください。
a. いずれも、本邦で作成されたものではありません。
b. テストの原版を私どもができるだけ原文に忠実に邦訳し、邦訳版を専門家に原文にバックトランスレーション(原文戻し翻訳)いただき、私どもの邦訳の妥当性を確認しています。
c. 点数の評価は原版そのままになっています。わが国の状況が加味されていませんので、あくまでも評価の「参考」と考えてください。"
どうやら「ネット依存」の診断基準もなければ、根拠もないらしい。どういうことだろうか。
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私見だが、彼らが言いたいことを総合すると、
「なんか最近子供がスマホいじりすぎじゃない?」
という声を受けて、「ちょっと規制しておこう」という話になったのではないかと思う。
確かに彼らの主張する「自主ルール」は至極はまっとうである。
第1条 人の悪口や欠点などの書き込み、LINE(ライン)などで特定の人を無視したり、グループから仲間はずれにする行為など、人の心を傷つけたり悲しませたりすることは絶対に許しません。
第2条 SNSサイトや掲示板などに、自分や他人の個人情報(氏名・住所・電話番号・メールアドレス、LINEのなどの各種ID、顔写真など)は書き込みません。
第3条 ネット上で知り合った人に、自分の個人情報を教えたり実際に出会うことは、犯罪に巻き込まれる危険があることを十分理解し、慎重に行動します。
第4条 夜○時から朝○時までの間は、ケータイ・スマホ、PCの使用はしません(LINEも夜○時で終了します)。
第5条 このルールは最低限のものであり、このルールにないことや、このルールより厳しいことを、保護者と話し合って家庭のルールとして定め、これを守ります。
だが、これは別に「ネット依存」の話ではない。太字の部分を消してみれば、「スマホ」の話ですら無い。ためしに太字を削除しても、十分意味は通る。
「人を傷つけるな」「知らない人に情報を渡すな、ついていくな」「時間を決めて遊べ」という、昔からある、小学生でも知っているルールである。実際はそれをきちんと親が教育していない、という話なのだろう。
だから、一見スマートフォンとネット依存を悪者にしているけれど、ほんとうに言いたいのは、「スマホがダメ」ではなく、「ダメな親に任せておけない」ってことなのではないのかと勘ぐってしまう。
実際、少し前、公園で遊んでいた小学生の女の子がこんなことを言うのを耳にした。
友達「あれ、さっきまでお母さんと一緒だったんでしょう?ウチにくること、お母さんに言わなくてもいいの?」
女の子「いいのいいの、どうせスマホでゲームやってるだけだから。こっちのことなんて気にしてないよ」
スマホ依存を問題視して「自主ルール」を子供に守らせる、ということは、先に親自身がスマホ利用のルールを守ってくださいよ、というメッセージであるというのは、考えすぎだろうか。
(2014年2月25日 Books&Apps に加筆・修正)