日銀の黒田東彦総裁は21日の記者会見でアベノミクスの「第3の矢」である成長戦略の重要性を訴えた。
産業育成や規制緩和を柱とする成長戦略は足踏み気味で、政府内部には日銀による追加緩和への期待もある。同総裁発言からは「第3の矢」なしには日本経済の成長期待が萎み、ひいては日銀の物価目標の実現も視界不良に陥りかねないとの危機感も透けて見える。
この日の会見でアベノミクスの評価を問われた黒田総裁は、「第1の矢」の金融緩和、「第2の矢」の財政出動を含めて「日本経済を緩やかに回復させており、今後も回復が持続すると思っている」と成果を強調。その上で「なかんずく第3の矢といわれている成長戦略が非常に重要」と切り出し、「成長力を底上げするための成長戦略の実行を加速し、強化することが極めて重要だ」と訴えた。
アベノミクスの「第1の矢」として今年4月に放たれた異次元緩和は、市場の期待を超える大胆な政策と受け止められ、円安・株高が進行。家計や企業のマインド好転に効果を発揮するとともに、企業収益の増加や資産効果による消費拡大をもたらした。2012年度補正予算を始めとした財政出動も、公共事業を中心に地方経済に恩恵をもたらすなど、2本の矢が日本経済を回復局面に押し上げたといえる。
しかし、経済成長を持続させるための本丸と位置づけられる「第3の矢」は失速気味だ。TPP(環太平洋連携協定)への交渉参加や、コメの生産調整(減反)の廃止方針などを評価する声も聞かれるが、鳴り物入りで打ち出した「国家戦略特区」や医療分野など他の「岩盤規制」に切り込み不足との指摘も多い。
日銀は10月31日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、日本経済の先行きについて、生産・所得・支出の好循環が持続し、2015年度にも2%の物価安定目標が実現できるとの見通しを示した。その前提として「政府による規制・制度改革の各種経済対策の効果」などによって、「企業や家計の中長期的な成長期待は、緩やかに高まっていく」ことを見込んでいる。
日銀が掲げる2%の物価目標は一時的な2%到達ではなく、中長期的なインフレ期待を2%程度で安定させることが狙いだ。政府の成長戦略が掛け声倒れに終われば、こうした日銀の政策目標の達成もおぼつかなくなる。
同総裁は会見で、今後の金融政策について「上下双方に政策の余地はあると思う」と追加緩和の実施に含みをもたせた。しかし、こうしたカンフル効果で景気拡大をつなぐには限界がある。黒田総裁の発言は金融偏重に傾きつつあるアベノミクスへの苦言ともいえそうだ。
[東京 21日 ロイター]
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