安倍政権の進める「柔軟な働き方」は男性の育児参加に逆効果の場合も

安倍政権が掲げる「柔軟で多様な働き方」は、女性の活躍に逆効果の場合もある。どのような場合だろうか。
Shinzo Abe, Japan's prime minister, speaks during a session on the opening day of the World Economic Forum (WEF) in Davos, Switzerland, on Wednesday, Jan. 22, 2014. World leaders, influential executives, bankers and policy makers attend the 44th annual meeting of the World Economic Forum in Davos, the five day event runs from Jan. 22-25. Photographer: Jason Alden/Bloomberg via Getty Images
Shinzo Abe, Japan's prime minister, speaks during a session on the opening day of the World Economic Forum (WEF) in Davos, Switzerland, on Wednesday, Jan. 22, 2014. World leaders, influential executives, bankers and policy makers attend the 44th annual meeting of the World Economic Forum in Davos, the five day event runs from Jan. 22-25. Photographer: Jason Alden/Bloomberg via Getty Images
Bloomberg via Getty Images

安倍首相は1月22日のダボス会議での演説において、女性が活躍するためには「多様な労働環境」が必要だとし、雇用市場を改革すると述べた。しかし、安倍政権が掲げる「柔軟で多様な働き方」は、女性の活躍に逆効果の場合もある。どのような場合だろうか。

■安倍政権の推進する「柔軟な働き方」は逆効果の場合も

安倍政権は、ワークライフバランスを改善し労働者の生産性を高めることを目的に、様々な「柔軟で多様な働き方」を推進するとしている。一部の従業員を労働時間規制から外す裁量労働制をはじめ、家にいながら仕事をする在宅勤務、就業時間や時間を自由に選べるフレックスタイム制などがそれにあたり、働く人が多様な雇用形態を選択できるような環境づくりを目指すとしている。

しかし、「柔軟で多様な働き方」が「女性の活躍」を阻害する危険性がある。

安倍首相は、女性が活躍する社会を作るためには、「男性の育児参加」が重要だとしている。ところが、政府の政策企画のために調査・研究を行っている労働政策研究・研修機構は、裁量労働制などの柔軟性の高い働き方が、家事・育児と仕事との両立を目指す男性にとっては、マイナスになる場合もあると分析しているのだ。

そもそも裁量労働制は、労働者の働き方を時間ではなく成果で評価する制度であるため、時間をコントロールできる反面、厳しい成果を求められる。その結果、他の働き方に比べて、労働時間が長くなる傾向にある。

成果を出すために、仕事を自宅に持ち帰ることが考えられるが、男女別に「自宅に仕事を持ち帰る理由」を調べたところ、女性は育児など家庭の事情などのため職場では残業できないという理由をあげる人が多かった。しかし男性は、「自宅の方が効率が良いから」「自分が納得する成果を出したいから」という理由を上げる人が多くなっている。労働時間別に見ても、労働時間が長い人ほど「自宅の方が効率が良いから」「自分が納得する成果を出したいから」などの理由で、自宅に仕事を持ち帰っていることも分かった。

自宅に仕事を持ち帰ることが「たまにある」くらいであれば、むしろ生活にメリハリが出て、仕事と家庭の両立にマイナスにはならない。ところが、日常的に仕事を家庭に持ち込むことは、睡眠の量や質が阻害され、また、過度の成果を求められる環境下では、夫婦生活の質を阻害している。

■働き方の効率性に配慮した評価制度をつくる

厳しい成果を求められる環境下で「柔軟な働き方」をしても、会社でも家でも仕事ばかりになる。この状況を変えるには、育児支援制度の利用有無による人事評価の見直しや、法的整備、育児支援制度を利用しやすい雰囲気の醸成などが考えられる。

連合が1月23日に発表した20〜59歳の男性を対象にした調査によると、男性の子育てを支援する制度・仕組みが職場にあると回答した人は43.3%と半数以下となっていたが、さらに、制度が機能していると回答したのはわずか8.0%にとどまった。これは、OECDが日本の状況について、「政策的に父親の育児休暇を奨励してはいても、実際に利用すれば企業への忠誠心にかけると思われることを恐れるあまり、利用者数は少ない」と指摘するように、育児支援制度の利用が人事評価へ影響を与えていることが原因の一つとみられる。

このような状況は、人事評価制度を「同じ成果ならばより短い時間で達成することが望ましい」とするなど労働生産性を高めるような内容にすることで、長時間労働を避けるような働き方の見直しや、短時間勤務制度の利用促進へと変えることができると考えられる。

また、管理職のマネジメント能力についても、日立ソフトウェアエンジニアリングのように、管理職の評価項目で「部下がいたずらに長時間残業しないようにコントロールできたか」という視点からの評価を入れるなど、組織の効率性を高めるためのマネジメント、従業員個々の能力や家庭の事情などを勘案した仕事の配分などの的確な指示などが求められるだろう。

■長時間労働の是正や育児支援制度を利用しやすい雰囲気の醸成

長すぎる労働を法的に禁止することも、長時間労働を是正するきっかけになる。そのため、安倍政権が進めるとされる裁量労働制では、働き過ぎを防ぐため、一定の休日取得の義務づけや、翌日の労働開始まで健康安全確保のための最低限のインターバルの導入、長期連続休暇の義務化などの枠組みを作るべきなどの意見が出ている。

そして、育児支援制度を利用しやすい雰囲気の醸成も大きい。連合の調査によると「取得したことはないが、取得したかった」という男性は45.5%にのぼっており、育児支援制度を利用したいと考えている男性の割合が大きいことがわかった。しかし、職場で男性の育児参加を阻むような「パタハラ」をされた経験があると答えた人が11.6%存在しているように、男性の育休取得への偏見も存在している状況だ。

「日本の企業文化は、いまだにピンストライプ、ボタンダウンです」

安倍首相はダボス会議での演説において、女性の活用に遅れをとる日本の状況を“ピンストライプ、ボタンダウン”のシャツに例えた。「折り目正しいが、進化がない旧態依然な状態」を表現したと思われる。旧態依然な状態から抜け出すのは、一人一人の意識改革も、必要なのではないだろうか。

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