中国、商船三井で勢いづく戦時賠償訴訟 日中関係の悪化も〝弾み〟

日中関係に改善の兆しが見られない中、戦時中の日本で強制労働に従事させられたとする中国人の遺族らが、日本の大手企業を相手に訴訟を起こすケースが相次いでいる。
Reuters

[北京 13日 ロイター] - 日中関係に改善の兆しが見られない中、戦時中の日本で強制労働に従事させられたとする中国人の遺族らが、日本の大手企業を相手に訴訟を起こすケースが相次いでいる。

日本は1937年に中国に侵攻し、その後8年にわたり同国の一部を占領。中国の歴史家は、約4万人の中国人男性が日本に連行され、炭鉱や建設現場での労働を強いられたとしている。

今年4月には、山東省で元労働者や遺族ら約700人が日系企業2社を相手取り提訴。代理人の傅強弁護士によると、受理されれば中国で過去最大の集団訴訟になるという。

訴えられたのは、三菱商事

今回の提訴や他の小規模な訴えを、裁判所が受理するかどうかは依然不透明だ。しかし、上海の裁判所は先月、日中戦争勃発の前年に中国の会社が日本の海運会社にリースした船舶をめぐり、商船三井

こうした訴訟が日中の外交関係をさらに刺激する可能性もある。中国は先月、日本軍の慰安所で女性らが強制的に働かされていたことを示すとする戦時中の資料などを公表。この中には、両国で論争となっている南京大虐殺に関する資料も含まれていた。

弁護士によると、戦時賠償を求める訴訟の原告を合わせると、少なくとも940人に上り、賠償請求総額は8億6500万元になるという。傅弁護士は、山東省出身の強制労働従事者は8000人近くいたことから、この額はさらに増える可能性もあると指摘する。

<変化の兆し>

弁護士らは、最近起こされた訴訟が受理されるだろうと楽観的な見方を強めている。それは、裁判所が原告側にさらなる証拠を提出するよう求めているからだ。

傅弁護士によると、裁判所は2010年、元労働者ら約1000人が三菱商事と三菱マテリアルの現地法人を相手取って起こした訴訟を棄却。しかし、商船三井に対する差し押さえ決定が希望になっていると弁護士らは話す。商船三井はその後、供託金の支払いに応じ、輸送船の差し押さえは解除された。

一方、北京では今年2月、原告40人が三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)

米ケース・ウエスタン・リザーブ大学のティモシー・ウェブスター氏は、同訴訟と輸送船差し押さえの重要度は、現時点で完全にははっきりしないとしながらも、「やがて賠償命令が出ることを強く示唆している」との考えを示した。

<過去の訴訟>

対日賠償訴訟で指導的な立場にある活動家の童増氏は、日中関係の悪化が賠償を勝ち取ろうと闘う活動家の弾みになっていると語る。

原告らに助言を行っている童氏によると、中国政府もかつては対日関係に与える悪影響を懸念し、遺族らに訴訟を起こさないよう指導していたという。

日本でもこれまでに、政府や企業を相手に多くの戦時賠償を求める裁判が起こされてきたが、ほとんどすべての訴えが棄却された。

日本政府は戦後補償問題について、1951年のサンフランシスコ平和条約とその後の二国間条約により決着済みとの立場を取っている。日本の最高裁も2007年、中国国民が日本や日本企業に戦後補償を請求する権利は、1972年の日中共同声明によって失効したと判断した。

中国の強制労働訴訟に関する執筆があるニューヨークのホフストラ大学のジュリアン・クー教授は、「中国の裁判所が審理開始を決めれば、訴訟には大きな可能性があると思う」と語る。

その場合、「裁判所が日中共同声明やその後の平和友好条約について、すべての戦後補償問題を決着させるものではないと解釈していることになる」と同教授は述べ、「もちろん、中国の裁判所がこうした訴訟を受理すれば、日中関係の深刻な障害になるだろう」とみる。

遺族らは中国政府が個人の賠償請求権まで放棄したわけではないという信念に基づいて訴えを起こしていると、童氏は話す。

また、カリフォルニア大学バークレー校の法科大学院の元教授リチャード・バクスバウム氏によると、ドイツの裁判所の場合、条約が個人の賠償請求権を放棄したわけではないと解釈する一方、時効など別の根拠で訴訟に制約をかけているという。

<日本企業への圧力>

尖閣諸島(中国名:釣魚島)や靖国神社参拝をめぐる日本との対立にいら立つ中国では現在、企業への圧力が特に高まりを見せている。

三菱マテリアルと日本コークス工業への訴訟で原告の代理人を務める康健弁護士は、三菱マテリアルの担当者と面会したが、話し合いは不調に終わったと明かす。

原告らは1人当たり100万元の賠償を求めているが、三菱マテリアルが提示した額は「極めて低かった」と説明。協議が続いていることから、額は明らかにしなかった。

(Sui-Lee Wee記者、Li Hui記者)

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