東京国立博物館に国宝「土偶」5体が集結 "土偶女子"に聞いたその魅力とは?

国宝に指定されている「土偶」5体すべてが今、東京・上野の東京国立博物館で開催中の「日本国宝展」(12月7日まで)で史上初めて、一堂に会している。「はじめての土偶」(武藤康弘監修、世界文化社)の著者で、「土偶女子」代表の譽田亜紀子さんにその魅力と見どころを聞いた。

元祖ゆるキャラか、フィギュアの源流か。 国宝に指定されている「土偶」5体すべてが今、東京・上野の東京国立博物館で開催中の「日本国宝展」(12月7日まで)で史上初めて、一堂に会している。ひとくちに「土偶」といっても2万点以上が出土。1万年以上続いた縄文時代を通して各地で作られていたため、実は時期や地域によってかなり多種多様だ。見事なプロポーションのグラビアアイドルのような土偶から、現在のゆるキャラのようにかわいらしい土偶まで、どの土偶も個性的であることはあまり知られていない。

考古学の知識がない初心者でも楽しめるよう、そんな各地の土偶を紹介した「はじめての土偶」(武藤康弘監修、世界文化社)を2014年8月に上梓した譽田亜紀子(こんだ・あきこ)さんとともに、土偶の最高峰が集結している「日本国宝展」を訪問。“土偶女子”の代表である譽田さんに、その魅力と見どころを聞いた。

■女子力が高くてかわいい「縄文のビーナス」

土偶「縄文のビーナス」

(縄文時代中期(前3000〜前2000年)、長野県茅野市棚畑遺跡出土、茅野市蔵、尖石縄文考古館保管)

−−まずは、長野県茅野市から出土した「縄文のビーナス」です。これはいわゆる妊婦をかたどったといわれる土偶のイメージそのままの土偶ですね。

「これはもう『THE 土偶』ですよね。このお腹の膨らみ具合といい、妊娠中の女性の下っ腹が出ているように、ちょっと垂れ下がっているのもリアルなんですよ。お母さんなのか奥さんなのか、わかりませんが、土偶の作り手が自分の身近にいた女性を見て作ったんだろうなと思わせる柔らかい雰囲気があって、本当に『ビーナス』です。

できればこの土偶は、正面以外の角度からも見て頂きたいです。お尻の丸くてぷりっとしたところがかわいいですし、背中から腰にかけてのツルッとしたラインもよく作られているなと感じます。光沢もあって、絶対に背中を撫でられていたと思いますね。当時の人たちの愛情を感じます」

土偶「縄文のビーナス」(縄文時代中期(前3000〜前2000年)、長野県茅野市棚畑遺跡出土、茅野市蔵、尖石縄文考古館保管)

−−よく見ると、全身も何だかキラキラしていますね。

「粘土に雲母が混ぜられているということなのですが、作り手がどこまで効果を計算していたのか……。今の女性のメイクにもあるラメな感じですかね?(笑)。頭のデザインもかわいくて、ヘルメットかぶっているような形で結髪が表現されています。それから、よく見ると内股なんですよ。左右高さが違って、内股なんです」

−−すごく女子っぽいですね!

「顔もハートの形だし、女子力が高いんです(笑)。写真で見てから実物をみると、こんなに小さいのかって思われる方が多いと思います。けっこう小作りな感じですね。写真だとエッジが立ってしまうのですが、実物は土で作られた柔らかい雰囲気があります。そんなところも、実物を見る時の面白さです」

■現代人も脱帽するデザイン性の高さ「縄文の女神」

土偶「縄文の女神」

(縄文時代中期(前3000〜前2000年)、山形県舟形町西ノ前遺跡出土、山形県蔵、山形県立博物館保管)

−−これは「はじめての土偶」の表紙にもなっている土偶ですね。デフォルメがすごくて、これが「女神」なの?とつい思ってしまいますが……

「デフォルメ、すごいですよね。縄文時代の人たちがどうやってモノを見ていたのかが気になります。ここまで来ると、明らかに違うものを見てますよね。この土偶は一応、胸があり、妊娠中に濃くなる正中線があり、女性ということになっています。

ただ、顔がまったく表現されていないというところに、ミステリアスなものを感じますよね。腰回りはかなり細かくデザインされているのに、顔がのっぺらぼうで。彼らの美意識では、顔は関係なく、女性というものを生殖する者という感覚で見ていたのか、ちょっとわかりません。でも、そのこだわり具合に驚きがあります」

−−驚かされるのは、上半身から下半身にかけてのラインですよね。

「現代美術に通じると思います。上半身はあっさりしているのに、下半身はどっしり。後ろの方から見ると、ウエストのくびれ具合がすごいんです。そのバランスは素晴らしいですね。一体、どういう人が作ったのだろうかと考えてしまいます。でも、こういう土偶があると、『宇宙人じゃね?』っていう話が出てくるんですけどね(笑)。

−−大体、小学生の頃に「遮光器土偶」を見て「宇宙人」説の洗礼を受けますよね(笑)。

「そうそう。土偶はそこから始まりますよね(笑)。大人になってからもそのイメージで『土偶って宇宙人なわけ?』『いや、違うやろ!』って。でも、言いたくなるのもわかります。私たちは今、あらゆるデザインに囲まれて暮らしています。何か作ろうとした時に、知らない間にそうしたデザインが組み合わさって出てくることがありますが、縄文時代人が暮らしていた自然の中では、デザインされたものがあったわけではない。完全なオリジナルです。そのイマジネーションやインスピレーションは、想像を絶するものがありますね」

■縄文時代人の工夫が伝わる最大の「中空土偶」

土偶「中空土偶」

(縄文時代後期(前2000〜前1000年)、北海道函館市著保内野遺跡出土、函館市蔵、函館市縄文文化交流センター保管)

−−さて、次は「中空土偶」です。体の内部が中空に作られている土偶の中では、日本最大だそうですね。見どころは?

「中空土偶の見どころは、下半身のデザインの素晴らしさがひとつあります。他の土偶もデザインは素晴らしいのですが、この中空土偶は特に入り組んだデザインがされています。それから、足に薄さ2ミリという部分があるのですが、よく割れずに出てきたなと。お墓と思われるところから出土していますが、あまり壊れていなかったのは『奇跡の一体』といってもいいぐらいです。幸か不幸か、腕のあたりが欠損してまして、そこから中がよく見えます。

その特徴としては、両足の間に『環』があるのですが、MRIで撮影すると、両足の内部の空気がつながるようになっています。土偶を野焼きする時に、うまく火が回るようにする工夫だと思います。ものすごいトライ&エラーを繰り返して、熱い空気が体内にすーっとまわって、割れることなくきっちり焼ける工夫を縄文時代の人たちが考えだしたことがすごいなと」

−−非常に装飾性も高くて、全身に模様が施されてますね。おへその周りにある「ポツポツ」は何でしょうか?

「口の周りにもあるのですが、当時の刺青を表しているのではなかと言われています。パッと見て男性なんですけど、真ん中に正中線がありますし、横から見たらちょっとお腹も出てる気もするので、妊娠中の女性なのかもしれません。ただ、資料によっては中性扱いにもされています。明らかに妊娠している状態に見えなければ、目に見えない中性の精霊を表現したという立場の先生もいらっしゃいますね」

■トランスしている呪術師? 想像をかきたてられる「仮面の女神」

土偶「仮面の女神」

(縄文時代後期(前2000〜前1000年)、長野県茅野市中ッ原遺跡出土、茅野市蔵、尖石縄文考古館保管)

−−こちらの土偶は、2014年に国宝指定されたばかりですね。

「国宝のニューフェイスですね。逆三角の仮面をつけています。『はじめての土偶』では『カマキリ仮面』というキャッチフレーズをつけようかと思ったんですけど、さすがに怒られるかなと思って止めました(笑)。それぐらい、仮面をつけていることがわかりやすいです。横から見るとわかりますが、ヘッドギアのような紐がしっかりと作られて回っています。後頭部もしっかり出ていて、面白いです。

身体の装飾デザインも考えられてますよね。この左右非対称の幾何学模様は、めちゃめちゃ高度だと思います。この土偶は、仮面をつけていることから呪術師ではないかと言われています。当時の呪術師がこういう模様の服を着ていたのか。それともトランスのイメージなのか。いずれにしてもこのデザインはすごいですよね」

土偶「仮面の女神」

(縄文時代後期(前2000〜前1000年)、長野県茅野市中ッ原遺跡出土、茅野市蔵、尖石縄文考古館保管)

−−タイムマシンで見てきたわけじゃないから、考古学だと証拠が揃わないと「これは呪術師だ!」ってなかなか断言できないじゃないですか。でも、そこを想像力で補ってあれこれ話すのが楽しいですよね。

「そうなんです。にわか考古学者、来たれ!った感じですよね。ああなんじゃないか、こうなんじゃないかと、みんなで言い合っているのが楽しいです。そこに正解はないし、男性と女性とでも見方が違うし。ただ、そういう楽しさを女の子たちがまだ知らないので(笑)。もっと自由に楽しんでいいんだよ、と思っています」

−−「この土偶のこの部分の縄文の種類が!」とかわからなくてもいいわけですよね(笑)。

「そうですね。入り口はデザインがかわいいとか、楽しいとかで、そこから少しずつ調べたり、実物を見に行ったりしてもらえれば。まずは思うままに感じてもらうのが一番だと思います。そもそも、土偶の作り手も、そんなに難しいことを考えていないはずなんですよ。奥さんの出産がうまくいくようになのか、明日のご飯がたくさん食べられるようになのかわかりませんが、土偶はもっと身近なものだったはずなので、そういう感覚で見ることができるといいですよね」

−−そうやって縄文時代の人たちが作った土偶が、偶然、私たちの時代まで遺ってくれて、こうやって見ることができるのは本当にラッキーだと思えますね。

「考えてみたら当たり前なのですけど、土偶は当時の土や空気も閉じ込めて作られ、今の時代まで存在してきました。『仮面の土偶』を保管していらっしゃる尖石縄文考古館の方に伺ったのですが、この土偶は呪術師と思われる人のお墓から出てきているので、代々、その村の呪術師に継承されてきたものではないかと。しかも、女性の呪術師だったのではという話をしていました。色々な祈りが込められていたものだったんでしょうね」

■土偶キャラクター総選挙でも二連覇した大人気「合掌土偶」

土偶「合掌土偶」

(縄文時代後期(前2000年〜1000年)、青森県八戸市風張1遺跡出土、八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館蔵)

−−最後の1体ですが……この土偶は大人気ですよね。土偶のキャラクターの人気投票、「どぐキャラ総選挙」でも2013年、2014年と1位に輝いていました(笑)。

「合掌土偶をモチーフにしたキャラ『いのるん』ですよね? 二連覇してましたね(笑)。この土偶もやっぱり、お腹の部分が薄いので、男性っぽく見えるんですけど、しっかり真ん中に女性器も表現されているのでこれも女性だろうなと。この土偶のチャームポイントは、口だと思うんですよ。なんだか、しゃべりそうじゃないですか。漫画の吹き出しが浮かんでますよね(笑)」

−−確かに漫画に出てきそうな顔をしてますね(笑)。口のまわりは刺青でしょうか。

「そうですね。顔は北海道の中空土偶と似てますよね。眉毛や口のボテっとした感じが。背中にもきっちり模様が入っていて、このデザインもかなり考えられているなと思います。腕や足の部分は、縄文時代当時に修復された痕があるので、かなり大事にされていたのではないでしょうか」

−−以前から疑問だったんですが、この「合掌」ポーズ、今の私たちにとっては祈るポーズですけど、縄文時代にはもしかしたら全く違う意味のポーズだったりしないのでしょうか(笑)。

「そうそう。今の感覚で見ているとそうなりますよね。実は、出産の様子を表現しているという説もあります。いきんでて、足も開いて出産しているのではないかという……」

−−静かに祈っている姿じゃなくて、「もう生まれる〜!」って手をぎゅーって握っているのかも?

「合掌は、後世に発見した人たちがつけたイメージですよね(笑)。さらに言うと、足のところに赤い漆が残っていまして、全身真っ赤だったらどんなに強烈な土偶だったのかなと想像すると面白いです。なんだか赤レンジャーっぽいですよね(笑)。『国宝戦隊 土偶ファイブ』です!」

−−名前は強そうですけど、戦うとすぐに割れてしまいそうです(笑)。

■増えつつある「土偶女子」とは?

−−今まで、国宝土偶5体についていろいろお伺いしてきたのですが、どうして譽田さんはここまで土偶にはまったのでしょうか?

「以前はまったく土偶に興味ありませんでした。それこそ、遮光器土偶しか知らなかったぐらいで。でも2010年に本の取材中に奈良県観音寺本馬遺跡出土の土偶と出会いました。その土偶は、国宝土偶とはまた違ったユルさを持った土偶で、耳と口はあるけど、目はないとか、私の土偶観を覆す土偶でした(笑)。それから気になって、土偶を調べ始めたら、出るわ出るわ……。ハート形土偶やミミズク形土偶など、ユーモラスなデザインばかりでした」

−−そこから“土偶女子”としての道が開けたんですね……。

「ええ。土偶界に足を踏み入れて、あちこちに土偶を見に行くようになりました。3年前に栃木県立博物館で開かれた企画展「土偶の世界」を見に行った時は、破片が1200点集まっていて、最後は見過ぎて吐くかと思いました(笑)。『はじめての土偶』も3カ月ぐらいで書いた本なのですが、書いている間はいろんな土偶の資料にまみれることができて、幸せでした(笑)」

−−譽田さんのような土偶女子って最近、増えているのでしょうか?

「増えてると思いますけど、今まで、「私、土偶好きなんだよね」「へえ、そうなんだあ」っていう会話が成り立ちませんでした(笑)。

−−普通は引きますよね(笑)。

「私もめちゃめちゃ引かれました。とにかく遮光器土偶のイメージしかないので、なんであんなのがいいの?って。でも、歴女や仏像ガールが出てきたり、古墳女子も最近話題になっていたりするので、ちょっとは世の中的に話しやすくなっていると思います(笑)。土偶のデザインを上手にグッズにできれば、女子にももっと広がると思います」

−−今回の「日本国宝展」のショップにある土偶グッズもかわいいですよね。土偶を見ているとつい想像するのですが、もしも秋葉原が今、土砂に埋もれてしまい、1000年後の未来の考古学者が発掘してフィギュアを発見したら……。

「そう、一緒です! フィギュアもボンキュッボンだし、デフォルメされているし、女性賛美です(笑)。そういう意味では、ゆるキャラやフィギュアを知っている私たちにとって、土偶は馴染みやすいと思います。ある考古学者の先生にお聞きして、へえと思ったのが、世の中が不安定になってくると、縄文時代がフィーチャーされるそうです。縄文時代は平和で、ラブ&ピースな時代だったと。現代人はそこに理想を見るんですよね。そういう意味では、土偶は愛の結晶ですし、私たちにとって親和性は高いと思います。そういった目でも、土偶を楽しんでいただければうれしいです」

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