ソニーの映画子会社を狙ったサイバー攻撃で、一部で関与が疑われる北朝鮮。脱北者らによると、国内の貧困と国際社会からの孤立にもかかわらず、北朝鮮政府は「121局」と呼ばれる精鋭サイバー攻撃部隊にリソースを投入している。
先月にソニー・ピクチャーズに対して行われたサイバー攻撃について、ニューヨークに駐在する北朝鮮の外交官は自国の関与を否定。ただ、米国土安全保障当局筋は、北朝鮮の関与が疑われるとの見解を示している。
脱北者らの話によると、北朝鮮国内で最も才能にあふれたコンピューターの専門家で構成される「121局」は、軍の諜報機関である偵察総局の一部。北朝鮮政府による対外スパイ活動の一環として、国家的サイバー攻撃に関与しているという。
軍関係者やコンピューターセキュリティーの専門家は、北朝鮮が活動的なサイバー攻撃力を有していると指摘。攻撃の多くは依然として交戦状態にある韓国が対象だが、北朝鮮は朝鮮戦争で韓国側についた米国に対する敵意も隠そうとしていない。
2008年に韓国に脱北した元兵士のJang Se-yul氏によると、軍のハッカーたちは才能にあふれ、報酬面でも恵まれた立場にいる。Jang氏も学んだ自動化大学にはハッカー養成の特別な授業があり、早ければ17歳の時から特別に選ばれて訓練を受けるという。
ソウルでロイターの取材に応じたJang氏は、「121局」には約1800人が所属し、軍のエリートと考えられていると明かした。
同氏の知人の1人は「121局」のメンバーとして海外に滞在し、表向きは貿易会社の従業員として働いているという。またその知人と家族には、国から平壌市内に大きな住宅が与えられているのだという。
「誰も知らないことだが、彼の会社は普通に事業を行っている。だからこそ、彼がやっていることは恐ろしい。家族全員を地方から平壌に呼び寄せることができたように、サイバー専門家に対する報奨は非常に大きい。彼らは平壌では裕福だ」とJang氏は語った。
「121局」に所属するハッカーは、自動化大学で5年の教育を終えた卒業生の中から選ばれている 。
「彼らは厳選されたエリートだ」と語るのは、2004年に韓国に脱北したKim Heung-kwang氏。北朝鮮でコンピューターサイエンスの教授だった同氏は「(彼らにとっては)大変な名誉だ。北朝鮮ではホワイトカラーの仕事であり、人々は憧れを持っている」と話した。
■ 似たような手口
IT系ニュースサイト「Re/code」は3日、ソニー・ピクチャーズへの攻撃に北朝鮮が関与していた可能性があることをソニーが表明する見通しと報じた。ただ、ソニーの広報担当者は同サイトの情報について、何ら発表は行わないとしている。同社は4日、この件に関するコメントを差し控えた。
ソニー傘下のソニー・ピクチャーズは、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー作品 「ザ・インタビュー」を製作し、今月から公開する予定。これに対し北朝鮮は強く反発している。
韓国では昨年、銀行や放送局のパソコン3万台以上が今回と同様のサイバー攻撃を受けたが、専門家の間では北朝鮮が仕掛けたものとの見方が大勢だ。
その数カ月後には、韓国大統領府(青瓦台)のコンピューターもハッキングされ、青瓦台のホームページには「統一大統領、金正恩将軍様万歳」という文字が躍った。
どちらのサイバー攻撃も特別に高度な手口ではないが、韓国当局は北朝鮮政府の関与を非難した。
こうしたサイバー攻撃には、コンピューターセキュリティーの専門家が後に「DarkSeoul(ダークソウル)」と名付けたマルウエア(悪意あるソフト)が使われていた。ウイルス対策ソフトなどで知られるインターネットセキュリティー大手の米シマンテックが昨年発表した報告書によると、「ダークソウル」という名で知られるハッカー集団が、過去5年間に韓国を標的にしてきた複数の大規模な攻撃に関与しているという。
一部の専門家は、ソニーに対する攻撃で北朝鮮の関与には懐疑的な見方を示している。ただ、攻撃の手口は過去の「ダークソウル」によるものと似ている。
「ダークソウル」が北朝鮮の代わりに動く外部のハッカー集団なのか、北朝鮮軍内部のサイバー部隊なのかは分かっていない。
(原文:Ju-min Park and James Pearson、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)
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