キスが、ただの「キス」で終わる時もある。
しかし時にキスは、配慮に欠ける政治に対する抗議にもなる。タイムアウト・テルアビブは1月6日、6組のユダヤ人とアラブ人のペアがカメラの前でキスをする動画を公開した。
タイムアウトがこの動画を発表したのは、イスラエル人の翻訳家とパレスチナ人アーティストのロマンスを描いたドリット・ラビニアン氏の小説「ボーダーライフ」が、イスラエルの教育省によって禁書に指定されたことへの抗議が背景にある。
「ボーダーライフ」を高校の読書リストから外した理由について、イスラエルのナフタリ・ベネット教育大臣は「思春期の若者は物事を美化する傾向があり、多くの場合において、民族のアイデンティティや同化という重要な問題に対して、全体的なビジョンを持たないことが多い」からだとしている。つまり、感受性豊かな10代の若者がイスラエル人とパレスチナ人の恋愛小説を読むことで、相手の国に「良い印象を持ってしまう」ことを恐れているのだ。
タイムアウトが公開した動画は、YouTube上で40万回以上再生されている。動画では、カップル、友人同士、何組かの知らない人同士のペアがカメラの前で、キスという「禁じられた行為」を行っている。ペアの中には異性のペアもいれば、同性のペアもいる。唯一共通しているのは、キスをしているのはアラブ人とユダヤ人のペアだということだ。
タイムアウトの編集者は動画と一緒に投稿した声明文の中で「先週はテルアビブのバーで銃乱射があり、2人が亡くなり、8人以上が負傷した。この動画のメッセージはいっそうタイムリーなものだ」と説明している。
「このような根拠のない憎しみは、誰のためにもなりません」と声明は続く。「だから、私たちは『究極の反対』にある無条件の愛で、少しバランスをとることにしたのです」
タイムアウトの編集者、ノフ・ネイサンソン氏はハフポストUS版へのメールの中で「この動画は先月から製作していたが、ここ数週間イスラエルで起こっている痛ましい事件を終わらせる良い方法だと思った」と述べた。
動画に出演した一人の男性は、カメラの前で全く知らない人とキスすることはどうだったかという質問に対して「アラブとイスラエルが対立していることに比べたら変ではない」と話したという。ハーレッツが報じた。
一方、小説を書いたラビニアン氏は、2015年の12月にBBCに出演した際「自分たちのアイデンティティが乗っ取られてしまうのではないかという恐怖は、世界で唯一のユダヤ人による主権国家であるイスラエルでは普遍的に存在します。同化を恐れる政府の役人がいるのも、それが理由でしょう」と自らが書いた本が禁止された背景について語った。
小説では、女性の主人公がこの「民族同化への恐怖」について探求するのがテーマの1つになっている。「このテーマを掘り下げようとした結果、政府によって出版禁止にされてしまったのは皮肉なことです」とラビニアン氏は続けた。
最近では時折、ソーシャルメディアがユダヤ人とアラブ人を結束させる場としての側面を見せている。2014年には「ユダヤ人とアラブ人は敵対することを拒否する」というスローガンが、FacebookとTwitterに溢れかえった。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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