北朝鮮の最高クラスの軍人が亡命か 相次ぐ「エリート脱北」報道の背景は

「金正恩体制内部の不安要素が大きくなっているのではないか」と、韓国メディアは盛んに報じている。一方で…

韓国の聯合ニュースは4月11日、北朝鮮軍(朝鮮人民軍)の偵察総局出身の大佐が、韓国に亡命していたと報じた。

東亜日報によれば、この大佐は2015年7月8日に亡命した。偵察総局は、対外・対韓国の工作任務を扱う部署で、組織上は総参謀部に属するが、聯合ニュースによれば、金正恩第1書記が直轄しており、北朝鮮軍の核心部署で「偵察総局の大佐は一般部隊の中将に相当する」(対北朝鮮消息筋)という。

また、この「対北朝鮮消息筋」は、この大佐が「対韓国への工作任務を担当していた」として「これまで脱北してきた北朝鮮軍の中では最高位クラスであり、対南工作について詳細に供述している」と、聯合ニュースに説明している。

また、東亜日報は11日付の記事で、アフリカ駐在の北朝鮮外交官の一家4人が、2015年5月ごろに韓国に亡命していたと報じた。

いずれも11日の記者会見で韓国統一省報道官が事実関係を認めた。

2009年、中国・丹東にある北朝鮮レストラン。朝鮮料理を提供し、従業員がステージで歌を歌う。

8日には、海外にある北朝鮮レストランで働いていた従業員13人が集団で韓国に亡命したことを、統一省が明らかにした。統一省はレストランの所在地を明らかにしなかったが、韓国メディアは「中国・浙江省の寧波」と具体的な場所が報じられている。

軍の要職にある人物はもちろん、海外での活動を認められた外交官や、外貨を稼ぐために海外で運営しているレストランの従業員はいずれも、金正恩体制を支えてきたエリート層や特権階級に属する人々とみられ、「金正恩体制内部の不安要素が大きくなっているのではないか」(聯合ニュース)と、韓国メディアは盛んに報じている。

■相次ぐ「エリート脱北」報道の背景に選挙?

1987年12月15日、韓国に護送される大韓航空機爆破事件の金賢姫容疑者。大統領選挙の前日だった。

韓国では、4月13日に国会議員の総選挙が投開票される。その2日前に、1年前の脱北をメディアが相次いで報じることに、与党側の意図を指摘する声もある。

韓国では「北風」と呼ばれ、選挙の直前に、北朝鮮の対南工作に関する新たな事件が発表されたり、北朝鮮が韓国を挑発したりして、選挙の情勢に影響を与えてきた。有名な例では、1987年11月、民主化後初の大統領選挙を目前に控えた時期に、大韓航空機爆破事件が起き、金賢姫容疑者が韓国に引き渡された。2012年の大統領選挙では「盧武鉉大統領が金正日総書記との南北首脳会談で語った」とされる内容が発表され、盧氏の側近だった野党候補が釈明に追われた。

今回も、会見で脱北の事実自体を「確認できない」と答えるのが通例だった統一省報道官が、事実関係を認めたことをメディアは「異例」とみている。野党第1党「共に民主党」の報道担当者は「これまで政府は『家族の安全が脅かされる』として脱北の事実自体を公表してこなかった。その前例に反する」と指摘。「総選挙で保守票を結集しようとして、発表を指示したとの疑惑を払拭できない」と批判した

集団脱北を巡っては「経済制裁が強まり、北朝鮮の体制にもう未来はないと思って脱出した」(東亜日報)といった韓国当局への供述も報じられている。保守系メディアは、開城工業団地の閉鎖など「韓国の独自制裁がある程度、影響を及ぼした」(東亜日報)といった見方を伝えている。

ハフポスト韓国版は「朴槿恵政権の対北朝鮮制裁が効果があると示すためだ。同時に、無党派層に訴え、与党優勢のため投票意欲が落ちている高年齢層を刺激しようとした可能性もある」と分析している。

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