7月10日に投開票された参院選は、18歳に引き下げられてから初の国政選挙になった。長年、若者は政治に関心がないといわれてきたが、参院選(選挙区)における18歳の投票率は50.17%を記録。31日には東京都知事選の投開票も行われた。
18歳選挙権をきっかけに、教育現場でも様々なかたちで政治教育が進められている。これからの教育はどうあるべきか。前編に続いて、若者と政治をつなぐ活動をするNPO法人「YouthCreate」代表、原田謙介さんにハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長が聞いた。
■18歳選挙権、教育現場ではじまった政治の授業
——18歳選挙権をきっかけに、教育現場には実際どういった指導がなされていたんでしょうか。
文科省から都道府県教委、都道府県教委から現場、みたいな感じで、細かく指導があるというよりは、今年度であれば、高校3年生向けに夏の参院選までに何コマやりなさいという話があって。例えば、各自治体や都道府県の選挙管理委員会が積極的に協力してくれるから、何かあればつなぎますとか。副読本があるから、それを使ってやりなさいという感じが基本ですね。
先生向けの研修は各都道府県で行われていて、公選法違反に関する研修だったり、あとは授業の事例紹介であったりしますね。僕らが呼ばれて、こういう授業できますよとか、こういう視点で政治を伝えるといいですよ、と伝えることもあります。いわゆる先生向けの指導要領や、これまで研究されてきた授業の積み重ねがあるわけじゃないので、学校現場からすると、まだまだわからないという段階だと思います。
——原田さんは岡山大学で講師として選挙を教えています。授業では、政治を伝えるためにどんな工夫をされていますか?
僕らは、いろんな人を授業に連れて来ることを結構やっています。勝手に町の人が来てくれたりするんですよ(笑)。市や県の職員さんや、地域の活動やってる方や他の学部の教授が来てくれたりするんですけど、僕が何かを伝えるというよりは、いろんな人の意見をファシリテート(議論を促すことを)しながら引き出すことで、いろんな考え方があるんだということを見せています。
他には、大学生にも何党支持とか「今回の選挙、この人がいいと思う」とか、自分の考えを持ってる人もいるので、僕が知っている学生に関しては、「なんで応援してるのか説明して」と言って話してもらいます。それに対して、他の生徒が「わかる」とか「ちょっとわかんない」とか意見を言ってもらう。プレゼンというほどではないですが、そういう発表をする機会は貴重ですよね
——「中立でなければいけない」ことへの戸惑いもり、多分、生徒に支持政党を言わせることも、今の学校の先生は怖いと感じる部分もあると思います。
恐らく高校の現場では、いろんな理由でできないんだと思います。政治的に中立的かというのもありますし、選挙があっても、17歳は選挙運動をしてはいけないので。例えば、支持政党を言うのは、18歳ならOKだけど17歳だとグレーだったりして、結構ややこしいんですよね。
——高校と大学では少し環境が違うんですね。
今、僕が言った授業は、高校では基本的に選挙のときはやらないほうがいいと思いますけど、選挙以外の期間に、ディベートみたいに「死刑賛成派・反対派」に分かれて議論をすることはできると思います。「安保法案、賛成か反対か」で議論するのも、ディベートの授業として成り立つはずです。どうしても政局が絡んでくると、ディベートのつもりが政治の話になって難しいのですが。
■授業で、自分の生活と行政のつながりを感じてもらう
——市や県の職員の方は、どんなお話をされるんですか?
僕らの授業の一番のコンセプトは「選挙に行こう」ということよりは、身近な町のことと自分と政治のつながりを知っていくと、結果投票に行くよねっていう授業なんです。その市や県の職員さんも、選挙に向けてというよりは、皆さんの町と、生活と政治はこういうつながりがあります、という話をしてもらいます。
——政治を少し広く捉えてますね。単に投票とか、「自民」対「民進」とかじゃなくて、町の問題をどうみんなで解決するかを含めて政治だと。
広報担当の市の職員の方に、広報誌を持って来ていただいて意図の説明してもらったり、学生に広報誌を読んでもらって関心があることを出してもらったりとか。最終的には、広報誌をもっとよくするための意見を出してもらって、身近な行政とのつながりを感じてもらうことを結構やってますね。
授業でやった学生主体のイベントで、70人ぐらい高校生と行政の職員、地域の商工会の会長、何人かの市議の方たちみんなで、どうすれば若い人の政治参画化が進むかを、「若い人自身が変わらなきゃいけない」と「社会全体が変わらなきゃいけない」に分かれて、グループになって話し合ったこともあります。
——これは真似できそうですね。先生が自分の政治思想を伝えるのではなく、ファシリテーター(議論を促す人)になる。
お世話になっている先生も、「先生はファシリテーターだ」と。人を呼んできて、うまく場を作ることが求められる場も結構あるとおっしゃっていました。
これのいいところは、当たり前なんですけど、高校3年生の授業には高校3年生の意見しかそこには存在しないんですよね(笑)。僕もその場にいてすごく面白いけど、そこに高齢者の人や子育て世代、あるいは働いてる人、いろんな意見が入れば、もっと多様性が生まれて違う意見を発見する。そこで議論になる面白さがありますね。
高校生が他の世代から知るということではなくて、「上の世代も高校生のことを知らないじゃない?」という話です。僕自身も18歳選挙権の動きが始まる前まで高校生と接してなかったので、お互いを知り合える場をもっと作ったほうがいいですよね。
——お互いが、他の社会とつながるきっかけになりますね。
いろんな地域差はあるものの、僕の1年前の予想以上に、高校現場で主権者教育をやるんだという動きは進んでいると思ってるんですよ。今度は逆に、普通に高校現場で、新しい政治、選挙の教育が行われていることを社会が知る機会が減っていくかもしれない。意識が変わっている10代や20代を、社会が知らなきゃいけないと思っています。
■ネット選挙解禁、18歳選挙権、日本の政治はどう変わっていくのか
——あらためて、18歳選挙権について、2013年のネット選挙解禁とのつながりと合わせて、どういうふうに総括されてますか。
政治が、いろんな層にいろんな情報を届けていかないといけないという流れにはなってきてると思っています。
政治家も、自分の党だけよければいいと常に考えているわけではなくて、新たな層に政治のことを届けたい、選挙に行ってもらいたいと思っていると思うんです。それがインターネット選挙運動化になり、18歳選挙権につながったという面はあると思いますね。
——選挙期間中もみんなツイートして、公式サイトも更新しています。前より情報は取りやすくなりました。
まだまだ物足りないと言われてますけど、今日の街宣の予定がTwitterで出てくるだけで、「30分後、渋谷駅前に候補の誰々が来るからちょっと覗いてみるか」となるんですよね。その情報を知りたい人にとっては大きな変化だと思います。
昔は公式サイトも作ろうとしなかったですし、何もないときよりは確実にいい。ちょっとずつ変わってきてるのは、僕自身も結構いいことだと思っています。
——被選挙権の引き下げについては、どう思いますか。
個人的には引き下げていいと思ってるんですけど、僕自身が推し進めるかというと、そういうモチベーションはあまりなくて(笑)。18歳選挙権のときもそうでしたが、基本的には当事者世代が「やるんだ」となって、当事者が前面に出るほうがいいと思ってるんです。もちろん応援はしたいですけど、30歳の目線で言うことではないかなと。
同じ世代の人が選挙に出ると関心は持ちやすいし、自分の知り合いの知り合いぐらいが出るようになると一気に身近になるんでしょうけど、ただ同じぐらいの年齢だからイコール身近になるとは思えないですね。
アメリカだって、サンダースさん(大統領選に立候補した民主党の上院議員)は若者に人気ですけど、お爺ちゃんじゃないですか。やっぱり考え方や政策で支持を受けるもので、年齢は本質ではないとは思いますね。
■子育てを始めた世代も、若者と政治をつなぐ担い手になれる
——18歳選挙権に関する活動も一区切りでしょうか。今後YouthCreateとして、どんな活動をしていく予定ですか。
「若者と政治をつなぐ担い手を全国に増やしたい」というのを、最近のコンセプトにしています。学校の授業で主権者教育をする先生を増やすこともそうですし、地域のことをよく知っている方と政治のイベントを一緒にやったりするのもそうです。
もちろん学校の現場に僕らが行くこともありますが、教育現場に行く機会を増やすというよりは、こういうプログラムがあるのでちょっと参考にして授業をしてみませんか、というのを広めていきたいですね。
もうちょっと広く言うと、子育てを始めた世代の方、僕は今30歳なので前後の世代の方で、全然今まで投票も行ってなかった人が、結婚して子供を持った瞬間に選挙のこと気になって聞いてきたりするんですね。「お前、全然行ってなかっただろう」みたいな(笑)。
ある意味、20、30代の若い世代で、唯一政治のことを知りたいと思うタイミングがそこにあるので、そこに対して何かできたらいいなと。子育てを始めて、政治に関心を持った世代の方も、若者と政治をつなぐ担い手になれるんじゃないかと思っています。いろんなかたちで担い手を増やすことを進めていきたいです。
■取材後記 空き巣に入られて失ったもの、そして得たもの
政治は、永田町で議員バッジをつけている人だけが行うのではなく、私たち自身もできる。政治と言わず、「みんなと話し合いながら、課題を解決する行為」と言い換えていいかもしれない。
原田さんと別れた後の帰り道、そんなことを考えながら、数年前の寒い年末のことを思い出していた——。
私が入居していたマンションの3世帯で空き巣があり、1階の共同の入り口の「鍵」が盗まれる事件があった。犯人がマンションの玄関を自由に出入りできる危険な状態。
入居者の一人と話し合い、管理会社に鍵口の交換を頼みに行くことにした。まずGoogleで検索して、管理会社側が対策をする必要があるかどうか、法的根拠を調べた。不動産会社に勤めている友人にもメールで相談した。マンションの入居者のうち8人分の署名を集め、事件から約20日たった1月中旬に管理会社を尋ねた。署名をみて驚いたらしい。すぐに鍵口の交換を約束してくれた。
署名を集めている時、普段は話さない他の入居者と交流することもできたし、面倒なことを言われて嫌がると思われた管理会社の担当者も、「こうやって住民の方が声を上げてくれると、社内で物事を通しやすくなるんですよ」と耳打ちしてくれた。「みんなと話し合う」ことを始めると、仲間ができたり、一見対立しそうな人が共感してくれたりする。チャイムを押して出てきた人に「まず何と声をかけるか」も結構考えた。
こうやって小さな小さな課題を解決するのも、政治家が大きな外交問題に取り組むのも、似ているところがあるかもしれない。学校で、政治教育を行うのは、何だか大変なことのように思える。でも、まずは、街の課題を解決してきた地域の「おじちゃん」や「おばちゃん」を授業に呼んでみるといいのではないか。生徒たちにとって「政治」が身近になると思う。(編集長・竹下隆一郎)
(構成・笹川かおり)