「オルタナ右翼」とは何か 知的エリート風の白人たちが放つヘイトの恐怖

スペンサーは恐ろしいほど戦略に長けている。

11月19日、白人ナショナリズムを推進するシンクタンクのナショナル・ポリシー・インスティテュート(NPI)が、ワシントンDCで「オルタナ右翼」会議を開催した。

堂々と人種差別的な発言を繰り返し、ナチスへの共感を示している「オルタナ右翼」運動が、トランプ政権に留まらない存在感を示している。その理由を知りたければ、ティラ・テキーラと彼女の友人で白人至上主義者のリチャード・スペンサーに目を向ければ十分だ。

すでに異様で恐ろしくなっている政治の季節をよりいっそう異様でで恐ろしいものにしたのは、テキーラが11月19日ワシントンで開かれた白人ナショナリストの会議に参加したことだ。

ティエン・タン・ティ・ヌグエンとして生まれたこのベトナム系アメリカ人は、SNSの有名人、テレビ番組の元司会者、そして現在はポルノスターとして活動する。

表面的には、テキーラがその場にいるのは奇妙に思えた。だが彼女の存在こそスペンサーと、この会議を主催したナショナル・ポリシー・インスティテュート(NPI)の政治的メッセージ戦略にぴたりと当てはまる。

「オルタナ右翼には有色人種の仲間たちと協力していく意思があります」。19日、スペンサーは報道陣にそう語った。その時点で、前日の夜に「ジーク・ハイル(勝利万歳)」の見出しつきでナチス式敬礼をしている自撮り写真を投稿したテキーラの姿が思い浮かんだ。

念のために言っておくが、スペンサーは非白人種の大半は遺伝子的に劣っていると考えており、ユダヤ人に対する深い疑念を持ち、ネオナチとの交流がある。彼はヨーロッパ人とヨーロッパ人の子孫たちが国家的な隔離政策によって多人種から「保護される」ようになってほしいと願っている。他にもこういった話はいくらでもある。

しかし、スペンサーはヘイトスピーチを巧妙にパッケージして、自称「オルタナ右翼」の非公式なリーダー的存在になっている。この運動には、冗談混じりの人間から大真面目な者まで、全体主義者のライターたちや、ぼんやりとした人種差別主義者、人々の不安を煽るミーム(ネット上で拡散するネタ)のクリエーターたちが加わっている。

スペンサーは多文化主義者のふりをし、ネイティブ・アメリカンやアフリカ系アメリカ人の「精神性」、「有色人種の仲間たち」への敬意を表している。彼の白人至上主義的発言は学問的な専門用語を駆使する。実に味気ない名前の「ナショナル・ポリシー・インスティテュート」という団体を創設し、この運動を「オルタナ右翼」と呼ぶのも、その戦略の一部だ。こうしたやり方は新しいものではないが、スペンサーは恐ろしいほど戦略に長けている。

スペンサーは40歳近いが、気味が悪いくらい生真面目なミレニアル世代の代弁者のふりをするのが上手い。彼はSNSでの活動に精力的で(ヘイトスピーチで強制的にアカウントを凍結されるまでの間だったが)、共和党主流派を「つまらなくて腹黒い保守派」と呼ぶのを好む。

スペンサーが送った会議の招待状を見ると、彼が若者文化とヘイト文化の両方に通じていることを見事に表わしている。いかにもヒップスター風のグラフィックに「AR」(Alt Right/オルタナ右翼の頭文字)が90年代初期風のフォントで書かれ、背景には小麦畑に立つ女性の神秘的なストック写真が載っている。それらはすべて、音楽共有サービス「SoundCloud」で見るようなアルバムカバーのマッシュアップ(2つ以上のものを合成すること)を思い起こさせる。小麦畑の女性の写真は白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)元最高幹部デビッド・デュークのTwitterにも掲載されている。

白人至上主義者たちの間では、この小麦畑の女性のストック写真が人気だ。

スペンサーは、ワシントンDCにいる若い白人層の専門職に就いている男性のような、ミレニアル世代的な活力を放っている。整った顔立ちに角ばった顎、きちんと刈り込まれたヘアスタイルは、昔ならヒトラー・ユーゲント(ナチス公認のファシズム青少年組織)を想起させるかもしれないが、今では俳優のライアン・ゴズリングを連想する人の方が多いだろう。

スペンサーは服装もきちんとしているし、もし彼が「イスラム教徒はギャング」だとか、「ヨーロッパ系移民は優遇されている」「なぜ女性はレイプされるのが好きなのか」といったことをまくし立てなければ、インディア・ペールエール(苦味の強いビール)や靴下の好みにうるさい、よくいるヤッピー(都会やその近郊に住んで知的職業に就いているエリート)にすんなり溶け込めることだろう。

彼の経歴もごくありふれたものだ。バージニア大学学士、シカゴ大学文学修士、デューク大学では博士を目指していたが中退。保守系雑誌「アメリカン・コンサーバティブ紙」に寄稿もしている。

しかし、スペンサーの会議に集まったのは知的エリートではなく、「怒れる野郎ども」が集った。「アメリカを再び偉大な国に」と書かれた帽子をかぶった男たち、「トランプ国外追放軍」と書かれた、ドナルド・トランプ次期大統領の80年代風ポスターを売っている男たち、「平等の危機」や「民主主義の問題」といった題名の本を読んでいる男たち、記者がスペンサーに質問をすると野次を飛ばす男たち、ゴズリング・ヘアのアメリカ人、イギリス人、オランダ人たちの集まりだ。

出席者の9割が男性だったというのは、それでも寛容な表現だろう。高齢者も参加していて、彼らは教授風の服装で現代社会への不満を吐き出すその様は、史学科の教授会で激怒する教授のようだ。

そしてテキーラだ。彼女は2000年代終わり頃に反ユダヤ的な発言を繰り返して炎上しただけで、知名度を上げた。彼女はスペンサーにとっておあつらえ向きの人物だった。D級セレブだが、とりあえず有色人種の女性で、あまり知られてはいないが人種差別的な言動をしてきた実績がある。彼女は表面的には真面目な会議に、ある意味ポップカルチャー的な華を添えた。その見返りとして、彼女は世間の注目を集めた。

ティラ・テキーラの投稿。「ジーク・ハイル(勝利万歳)」というナチスのフレーズを使っている。現在、彼女のアカウントは凍結されている。

うっかり忘れてしまいがちだが、同じくD級セレブのトランプは、テキーラやスペンサーの戦略を利用している。テキーラと同じく、トランプも人種差別主義者に媚びることでブランド力を高めた。彼が自分の知名度を利用してバラク・オバマ大統領の出生地に関する根拠のない疑問を投げかけ、政治的な存在感を増したことは有名だ。スペンサー氏のようにトランプ氏も、長ったらしい出生証明書について誤解を招くような中途半端な「指摘」を行い、自分の行動に信憑性があるかのように装った。

そしてトランプの取り巻きたちは、彼が偏った見方を正当化するのを一心に受け入れている。次期首席戦略官スティーブ・バノンのウェブサイト「ブライトバート・ニュース」はオルタナ右翼のプラットフォームであり、次期国家安全保障担当補佐官マイケル・フリンはSNSでオルタナ右翼の宣伝活動を定期的にリツイートしている。

「オルタナ右翼はここにいる。オルタナ右翼はどこにも行かない。オルタナ右翼が世界を変える」スペンサーは会議でそう宣言した。トランプとバノンは「オルタナ右翼」ではないとスペンサーは言うが、彼は自分の運動が「体のない頭」であり、トランプの選挙運動は「頭のない体」だという不穏な発言をしている。

スペンサーの考えによれば、トランプの勝利は、政治的なフランケンシュタインが完成したことになる。11月8日以来人種差別と偏見の動きが活発になっても、悪びれることなく対立を煽り、威嚇する。KKKはノースカロライナ州で「勝利」集会を開き、公園などには鉤十字がスプレーでペイントされ、数え切れないほどの差別的な言動が人々に向けられ、SNSでシェアされている。

慰めにもならないだろうが、こうしたヘイトはそう簡単に権力と結びつくことはない。白いフードを被った人間が議会に行ってユダヤ人がもたらす害悪について審議するよう求めても、どうなるものでもない。しかし、職場で趣味のスポーツや高級衣料品店の会員権について話すようなホワイトカラーの雰囲気を持った見栄えの良い男が、ヘイトを撒き散らすななら話は別だ。

だからこそリチャード・スペンサーとNPIは恐ろしい。話が巧みなバージニア大学卒の男が「アイデンティティ主義的学校カリキュラム」みたいな難解な言葉を語ると、心を動かされてしまう人間もいる。スペンサーはトランプと彼の政権移行作業チームとは連絡を取っていないと主張しているが、閣僚入りしたスティーブ・バノンや司法長官に指名されたジェフ・セッションズに感銘を受けているとも語っている。

スペンサーは記者会見が終わるとメディアを締め出したが、アトランティック誌が撮影した動画には、スペンサーが「トランプ万歳!我々に万歳!勝利に万歳!」と叫び、参加者の多くがナチス式敬礼で応える姿が映っていた。

ティラ・テキーラと違い、彼らはドイツ語の正しい綴りも知っているだろう。リチャード・スペンサーは間違いなく、自分が何をやっているのか分かっている。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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Alt Right Group Holds Annual Conference In Washington, DC

オルタナ右翼

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