出産ジャーナリストでフォトグラファーの河合蘭さんの写真に言葉はいらない。
今まさに子どもを産もうとする女性の息遣い、今まさに地球に誕生した赤ちゃんの命。その圧倒的な存在が輝きを放つ——。
河合蘭さんと写真家の江連麻紀さんの写真展「Birth, Birth, Birth!」が11月3日〜17日まで授乳服を販売するモーハウス青山店(東京・渋谷)で開催された。最終日の17日にはトークイベントが開かれ、参加した親子らと語り合った。
ふたりはなぜ出産を撮りつづけるのか。その瞬間を写真に残すことにどんな意味があるのか。「どんなお産にも幸せがある」「命のその瞬間を撮りたい」と語った、ふたりの言葉を紹介する。
河合蘭さん「お産はすごくかっこいいもの」
河合さんは自身の出産をきっかけにお産の取材をはじめた。都会のマンションの中で赤ちゃんとふたりきりの日々は、なんか変。話す相手もなく、「夫が夜遅く帰ってくると、その顔が巨大に見えた」とふり返る。
「自分とは全然違う世界の出産が見たい」と取材で向かったのは、青森県の下北半島。空港に原付バイクで現れた80代の産婆さんはいった。
「今日お産あるけど、来る?」
慕っているお産婆さんが部屋に入った瞬間、お母さんは安堵の表情を見せた。河合さんが目の当たりにした伝統的な家庭のお産は、現代とは違う親しい人に守られた出産。「女の人はこうやって産んできたんだな」と感じた。安心した女性が自信を持って産んでいく姿もかっこよかった。
「赤ちゃんは強いんだよ」と産婆さんは言った。
人の出産を見て、やっと自分の出産が胸に落ちた。ずっと、このお産を仕事にしていくかもしれない。そうしてお産を撮りはじめた。
あれから30年。出産ジャーナリストの河合さんは3人の子供の母になって、妊娠・出産の本を書き続けてきた。不妊治療、出生前診断などテーマは広がったが、お産を撮るときのときめきは、今もまったく変わらない。
「お産って苦しくて大変で修羅場でしょ。何撮りたいの?」とよく聞かれる。「でも、お産はすごくかっこいいもの」と河合さんは微笑む。
江連麻紀さん「命のその瞬間を撮りたい」
「命のその瞬間を撮りたい」。江連さんは2010年から川崎にある助産院で撮影を始めた。この春には11人の出産に立ち会った。一晩で4人生まれた夜もあるという。
誰ひとり同じお産はない。「大変なお産もある。救急車で運ばれた子も、緊急帝王切開の子も、NICUに入る子もいる」と、これまでの撮影を振り返る。
ある時、夫と子どもが立ち会った出産で、お母さんの具合がみるみる悪くなったこともあった。助産師さんが集まってくる。おろおろする女の子を、江連さんは思わず抱きしめた。
「撮ればよかったのに、泣いている子を抱きしめてしまった」
「日本には、(出産は)辛い痛い苦しいイメージがある。それを変えたい。帝王切開にもあったかいお産はある」と、江連さんは語る。
2016年、長男を出産したときには、河合さんが立ち会い撮影したのだという。お産の撮影するとき、江連さんは空気になる。でも「蘭さんは話しかけてくれた」と姿勢の違いに触れた。
助産師の声「あたたかい緊急帝王切開もある」
会場には、何人か助産師も参加していた。河合さんの本を読んで助産師になった人や、自身の出産を経て、助産師にキャリアチェンジした人もいた。
「おっぱい初めて吸うところ。パパがすごく肩に力が入っているところ。まさに助産師として好きな場面。写真を見てもらえばわかる。助産師やっていてよかった」
「すごくあたたかい緊急帝王切開もある。助産師さんは、みんなそうしたいと思っている」
「気持ちの整理がつかないお産もある。でも、写真を見ることで客観視できる」
彼女たちの写真展の感想を聞くと、医療の現場にとっても写真は大きな力を持つのだとわかる。江連さんは「助産師さんのいのちと向き合う姿がかっこいい。写真が、医療者と当事者をつなぐきっかけになれたら」と語る。
流産を経験した人は、「流産にも物語がある。助産師さんが手を握って話してくださった。本当に産んだような気がして、納得した」と明かしてくれた。出産は命がけ。思っていなかったお産は起こり得る。
河合さんは「悲しいお産だった方は、もう一回産んでほしい。すべてのお産にあるあたたかいところを写真に残せれば、その人の力になる。命の前では、写真は悪く撮れない。嘘は撮れない。それが写真の力」と話した。
「お産を、社会に出していきたい」
河合さんはイベント後、富山県の中学生に「産みどき」について講演したときのエピソードを教えてくれた。
「子ども欲しい人?」と聞くと、手を挙げたのは一人ふたり。「子ども欲しくない人?」と聞くと、たくさんの手が上がった。
けれど、講演の最後に出産写真のスライドショー動画を見せたら、子どもたちは食い入るように見た。そして、たくさんの子が感想文に「楽しそうだった」「あんなにうれしいんだ」「女の人の苦しいところを見て、大事にしたいと思った」と書いてきたという。
「お産を、社会に出していきたい」と河合さんは語る。
「今は、産むこと、育てることについてネガティブな情報ばかり。みんなスマホで一生懸命にそれを見て心配している。でもお産には、言葉さえ拒まれるような深い喜びがある。家族の原風景であるお産の写真を出すことで、産むことは喜びなんだということを、みんなにもう一度思い出してほしい」
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出産を撮り続けるふたりの写真家。流産した子を思う母。出産に寄り添い支える助産師——。多様な「家族のかたち」を伝えようとしていたが、目に見えるものだけが家族じゃないと気づかされた。支える人がいなければ、赤ちゃんが誕生しなければ、家族はうまれない。出産は、まさに家族がうまれる「ポイント・ゼロ」だ。
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