健康ブームで芸能界の"デブキャラ"崩壊?
多数のお笑い芸人がTVを賑わした正月特番もひと段落。芸人たちの"今"の姿を見ていると改めて、2017年はデブキャラとして定着していた芸人の激やせニュースが相次いだことが思い返される。そこで今一度、芸人とダイエットの関係について考えてみる。
■相次ぐ芸人たちの"激やせ"でキャラが崩壊?
2017年12月、左脳室内出血で療養していたお笑いトリオ・安田大サーカスのHIROが、ダイエットスムージー・Day+の「目指せ-50kg!女芸人100日のキセキ」結果発表イベントで仕事復帰。約40キロ減量した姿を披露し、話題を集めた。このほか2017年を振り返ると、とにかく明るい安村をはじめ、やしろ優、タカアンドトシのタカ、エド・はるみ、柳原可奈子など芸人のほか、misono、伊藤ゆみ、川口春奈、神田沙也加、河北麻友子、藤田ニコル、船越英一郎、ペコなど、モデルや歌手、俳優陣の激ヤセ報道も世間を騒がせていた。
健康上の理由、番組やCMの企画として、美を追求して、心労がたたって...と理由は多種多様だが、次々と芸人・タレントがスリム化している。中でも芸人は、"デブキャラ"としても定着していたタレントが痩せる事例が増加しているようだ。その背景にあるものは何だろうか。
■健康企画のまん延が、芸人の"ヘルシー化"を後押し
危険な太り方をしていたHIROの例が象徴するように、"激やせ"ブームの要因の一つは、健康番組や番組中のヘルシー企画のまん延だ。今年50周年を迎えるEテレ『きょうの健康』をはじめとして、『名医とつながる!たけしの家庭の医学』(テレビ朝日系)、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)など人気番組が多数。このほか『ためしてガッテン』(NHK総合)や『サタデープラス』(TBS系)、『解決!ナイナイアンサー』(日本テレビ系)などでも不定期で健康企画が放送されている。10日(水)放送の『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でも、「カジノをすることで健康になる」が放送予定だ。健康番組は一時期より少なくなったものの、いまだにテレビを賑わせている。
「こうした流れは、現在のテレビの視聴者の多くが中高年であることと無関係ではない」と分析するのはメディア研究家の衣輪晋一氏。一方で、松村邦洋、エドはるみなど、ライザップのCMでの芸人の激やせパフォーマンスも世に衝撃を持って受け入れられたことも指摘し、「現在はダイエットブームも加速しており、広告代理店や芸能事務所が、タレントを激やせさせることが話題作りに有効であると気づいた。その背景には、"デブキャラ"が飽和状態で枠が埋まってしまっているため、新たな展開を模索したい芸能事務所側の昨今の思惑もあるのでは」と解説する。
また、松村邦洋は2009年に東京マラソンへ出場した際、100キロ越えの体重で心臓に負担がかかり急性心筋梗塞を起こして心肺停止状態で救急搬送されたことがあった。松村本人がCMの記者会見で「命あってのものまね」と語っていた通り、この危険な体験がダイエット企画に踏み込んだ理由とも想像される。このように、健康面が危惧されても"デブキャラ"を貫いていた芸人も、今や"ヘルシー化"の流れの中にいる。
■ビジネス故の巨漢キャラのはずが...イメージ乖離の恐れも?
次々と痩せていく芸人たちの芸は、もはや"ヘルシー芸"といえるかもしれない。だが"仕事のタネ"であるはずのキャラを変えてまで痩せることは芸人にとって良いことだけではないようだ。例えば、とにかく明るい安村の場合、映画『ビニー/信じる男』のPRイベントで約16キロ体重を落とした姿を披露したが、「安心してください、履いてますよ」という前に海パンをぜい肉で隠しきれない事態になり、MCから「ずっと安心していましたよ!」とツッコミを入れられてしまった。
また、巨漢キャラ・伊集院光は1997年に、出演のラジオ番組『伊集院光深夜の馬鹿力』(TBSラジオ系)の中で、ダイエット企画によって半年で50キロ落としたものの、故・伊丹十三監督からクレームが入ったことを告白。1997年公開の映画『マルタイの女』に出演が決まっていたが、台本には役柄について"著しく太ったデブ"との記述が。「ダイエット前の体重に戻るまで撮影が一時中断されたそうで、伊集院さんは"伊丹十三をデブ待ちさせた男"と誇らしげにこのエピソードを披露した。さらには、痩せることで視聴者の間で"重病説"が囁かれることもあったと話されていました」(衣輪氏)
つまり"デブキャラ"が定着してしまうと、安易には痩せられない。イメージを持続するために太っておかなければならず、それが"ビジネスデブ"と呼ばれる所以なのだ。
■タレントのヘルシー化とは裏腹に"ふくよか"だからこその好感度はいまだ絶大
ヘルシーブームの中にあっても、痩せる気配のないタレントも多数いる。実際、ふくよかな体型の人気者の数は非常に多い。
「彦麻呂さんやホンジャマカの石塚英彦さんなどグルメリポーターが太っているのは、"美味しいものをよく食べている"という説得力にもつながります。日本テレビの水卜麻美アナウンサーのように"微笑ましい"と人気が上がることもある。また出川哲朗さんは、あのころりとしたかわいらしい体型でなければ笑いは半減するかもしれないし、ロバート秋山竜次さんの"体型モノマネ"もあの恵体あってのもの。マツコ・デラックスさんはあのゆるキャラのようなシルエットが一つのアイコンになっており、もしこの方々が痩せてしまえば、見慣れたキャラが変貌することで寂しささえ覚えるでしょう」(同氏)
さらに言ってしまえば、「キャラが崩壊した後、今の人気は果たして持続できるのか」と、要らぬ心配をしてしまう視聴者も少なくないはず。「"激やせ芸人"には是非、話題優先ではないことを証明するため、2018年をその真価を見せる一年にして欲しい」と衣輪氏は語る。
かつて上方落語の雄・初代桂春団治は、芸のために思うがままに生き、歌謡曲『浪花恋しぐれ』でその人生を謳われるほどの伝説となった。こうした破滅型天才の芸能人ではほかには横山やすしが有名で、芸人に限らなければ、藤山寛美、松田優作、やしきたかじんもこの部類に入る。彼らは破天荒に生きたが、滅茶苦茶に思える人生もその振る舞いも、当時から憎まれることなく、寧ろ共感を持って迎え入れられていた。今の"ヘルシー化"と風向きは真逆で、"生き急いで"見えた人々だった。
とはいえ、当時と今とでは事情が異なる。先述の伊集院光もTBSラジオ『伊集院光とらじおと』内で3年かけて健康的に痩せるという企画を実施中。芸人に求められるものも時代と共に変わりつつある。だが芸人である以上、すべての行動はやはり芸のためだ。健康のために痩せるにしろ、"痩せる仕事"にしろ、すべて"芸の肥やし"とし、芸人としての矜持を持って、2018年もお茶の間へさらなる笑いを届けてもらいたい。
(文/中野ナガ)
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