あの人のことば
2018年04月22日 20時00分 JST

「ナメクジ好きは、人並みです」 日本でも珍しい“ナメクジ研究者”を彼女が目指した理由

彼女に同行してみると、そこには驚きの信念が見えてきた。

日本には様々な研究者がいる。その中で、ぬめーっとした見た目が、なんとも気持ち悪いナメクジを、専門に研究している女性研究者がいるのをご存じだろうか?全国を調査してナメクジを研究する、いわばナメクジハンターだ。なぜナメクジを追い調査をするのか、彼女に同行してみると、そこには驚きの信念が見えてきた。

(取材・文 NHKサイエンスZERO「カガクの"カ"」取材班/黒ラブ教授)

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ナメクジハンターの本拠地、潜入取材

京都市左京区。京都大学理学部のキャンパス内。

地下にあるナメクジの飼育室に入ると、独特のにおいが漂った。冷蔵庫のような容器の扉をあけると、中にうごめくものがたくさん見える。

「マダラコウラ(ナメクジ)です。ヨーロッパが原産の外来種で、最大で15センチほどにまで成長します。性格的に攻撃性が強く、東日本中心に生息域を広げています。」

宇高寛子さん提供
マダラコウラナメクジ

いま、宇高さんは、ナメクジの中でも特に大型のマダラコウラナメクジを50匹ほど飼育し、生まれてから死ぬまでの生態を詳しく調べている。マダラコウラナメクジは攻撃性が強く、同じ容器にたくさん入れると攻撃しあうため一度に多くを飼育できないのでこの数だが、以前もっと小型のナメクジを研究していたときは、いちどに1000匹ほど育てていたこともあったという。

「1000匹もいると、大変ですよ。エサやり、水やりはもちろん大変だし・・・。一番大変だったのは、飼育容器の掃除ですね。飼育をしていた実験室はお湯が出なくて、冬場の寒い中、冷たい水で飼育箱を洗っていると、けっこう泣けてきましたね(笑)若かったからできた気がします。もうムリかもしれません(笑)」

ナメクジと出会って20年近く。宇高さんは文字通り「身を切る」ような苦労をしながら、こつこつと生態を調査し、論文にまとめ、国内外に発表してきた。

NHKより画像提供
大量の飼育箱 研究は地道な作業の積み重ねでもある

すごいナメクジが好きかというと・・皆さんと同じ人並みです。

「どんだけナメクジ好きなの?と思われそうですが、すごい好きというわけではありません。人並み程度です。」

もともと宇高さんは、犬や猫などの動物が好きで、獣医を志していた。しかし高校時代、理系科目が苦手で断念、ある大学の経済学部に進学することになった。

しかし生物を扱う研究をしたい気持ちが抑えられず、大学3年生のときに大阪市立大学の理学部に転入。昆虫の生理を調べる研究室を選択し、卒業論文に取り組むことになる。そこで指導教官からテーマとして提示されたのが、ナメクジだった。

調べてみると、ナメクジの研究者はそもそも数が少なく、参考に出来る調査が30年前のものしかないなど苦労も多かった。しかしそのことが逆に、宇高さんをナメクジ研究にのめりこませるきっかけになった。

「道なき道を開拓する」マイナー分野を研究する楽しさ

「海外ではナメクジ研究をしている人は、そこそこいますが、日本のナメクジ研究者はかなり少ないです。なので、ナメクジの知見を自ら、開拓出来ている、開拓感を強く感じられる事がとても楽しいです」

いま調査のテーマとしているマダラコウラナメクジ。ヨーロッパが原産の外来種で、日本では2006年に茨城県で初めて生息が報告された。日本で一般的にみられるナメクジが体長5センチほどなのに対し、マダラコウラナメクジは最大で15センチほどにまで成長する。成人男性の指先から手首までに至るほどの大きさだ。

体全体を覆うマダラ模様が、よく見ると頭部の3分の1ほどは密になっており、コウラのように見える。攻撃性の強い種類で、いま生息域を広げつつあると考えられている。宇高さんの調査により、初の報告からわずか10年ほどで、北海道から長野まで東日本の8都道県に生息していることがわかってきた。

いま日本で最も多く生息する「チャコウラナメクジ」。戦後すぐの時期に日本で広がったと考えられている。しかしその時期は積極的な調査が行われず、いつ、どのような形で広がったかは詳細にはわかっていない。いま新しい外来種によってナメクジの分布地図が塗り替えられつつある現状は、宇高さんにとって、研究者としてのまたとないチャンスでもあるのだという。

調査によってマダラコウラナメクジの広がりの実態や生態系への影響がわかれば、駆除など対策が必要かどうかなどを検討する材料にもなる。自分の研究成果を社会に役立てられる機会とも感じている。 

NHKより画像提供
宇高さんフィールドワークの様子

卒論のころは単なる研究対象だったナメクジ。およそ15年もの間、調査や飼育で付き合い続けるうちに、だんだんと隠れた魅力にも気がつくようになった。

「この子の模様はきれいだなとか、好みの柄があります。模様の黒の色が、鮮やかな奴や、くすんでいたりするのがあるんです。卵から研究室で飼育しているやつは、温度の影響なのか、綺麗に柄が出ないんですよね。生みたての卵はもっとピンクで、カワイイんですよ」

NHKより画像提供
マダラコウラナメクジの卵

宇高さんの新たな挑戦クラウドファンディングによる「ナメクジ報告サイト」

いま宇高さんは、新たな取り組みを始めている。マダラコウラナメクジの目撃情報を一般の人から募集し、調査に役立てようとしているのだ。「ナメクジ捜査網」というサイトを自ら立ち上げ、さらにツイッターなども通じて、情報の投稿を呼び掛けている。研究者が自分の足で調査できる範囲にはどうしても限界があるが、一般の人の力を借りられれば制約はなくなる。京都に拠点がある宇高さんがなかなか出向けない、北日本や東日本の情報が得られれば、研究にとってかけがえのない価値を持つかもしれない。

ただ、見よう見まねで立ち上げた現状のサイトは、使い勝手に問題があり、なかなか報告が集まっていない。そこで宇高さんは、新たに使いやすい報告サイトを作るための資金を得るため、クラウドファンディングを開始している。

ナメクジを見かけた人が、写真を撮ってサイトにアップロードするだけで、その種類や日本での分布がすぐにわかるようなサイトを目指している。デザインを工夫したり、報告しやすいシステムを開発したりするために専門の業者に依頼することを考えると100万円程度の費用が見込まれるが、こうした目的の研究費を得られるあてはない。そこで、クラウドファンディングを活用して資金を得られないかと考えている。

「身近な生物であるほど、意外にわかっていないことの方が多いのです。

ナメクジ以外でもこういう分布情報が調べられていない生物がたくさんあります。もし、今回のナメクジ報告システムが成功すれば、研究者が少ない分野にとって、新しい調査の形になるかもしれません。そうなったら素敵な事だと思います!ぜひ、皆さんの力を、お貸しください」

※あなたも調査に参加してみませんか?疑わしいナメクジを見つけたら、できれば硬貨など大きさのわかるものと一緒に写真を撮り、宇高さんのHPに投稿するか、 #サイエンスZERO でつぶやいてください

NHKより画像提供
投稿例のひとつ

NHKサイエンスZEROとハフポスト日本版は、旬!な科学の現場に潜入する『カガクノ"力"』というプロジェクトを行っています。宇高さんの活動に関しては、 4月15日(日)・22日(日)23:30~Eテレ「サイエンスZERO」そして、6月頃、生態調査の結果を紹介する予定です。

科学に対する疑問や質問について、#サイエンスZERO #ナメクジ でつぶやいてください。番組でご紹介させていただくことも!