あの人のことば
2018年08月11日 11時48分 JST | 更新 2018年08月12日 10時44分 JST

「僕は仕事をしたかった」小学生男子がアメリカの農場で働いたら、“好き”が開花した。

大人とともに農場で汗を流した2年間。「好きなことに出会ったら、やっぱりこうなるんだ!」と母は確信した。

小学生の男の子が、アメリカの農場で大人に混じり、2年近く農作業のボランティアに励んだ。大好きなことにのめり込む楽しさ、任される喜びを知った男の子。その姿を見た家族は日本に帰国後、同じような時間が過ごせる場所を探した。

家、学校、友達、塾、学童、習い事。そのどれでもない、子どもの時間の過ごし方とは。多様な大人とかかわれる場所とはーー。模索を続けた両親や、男の子を受け入れた大人たちに話を聞いた。

MASAKO KINKOZAN/HUFFPOST JAPAN
八戸さん家族(手前の4人)と磯沼ミルクファーム牧場主の磯沼 正徳さん=八王子市の磯沼ミルクファーム

東京都の郊外に住む、八戸すずさん(43)、敏史さん(41)、小学6年の鷹之介(たかのすけ)くん(11)、1年の弓之介(ゆみのすけ)くん(6)の家族。敏史さんの研究留学に伴い、家族は2013年10月から2018年1月まで、アメリカのマサチューセッツ州ボストンの近郊で4年余り暮らした。

すず)住んだのが、トレイルや農場がいくつもあるような地域だったんです。その一つ「ライトロック農場」(マサチューセッツ州ウィンチェスター)が、子ども向けの農場体験コースを主催していて、鷹之介が通う小学校のお友達が参加していました。週1回から数回、鶏の卵を集めたり、野菜を栽培したり、ヤギの世話をしたりといった農作業や自然に関する知識を、スタッフに教わりながら数カ月の間取り組む内容でした。

八戸やえさん提供
農作業に従事する鷹之介君=アメリカ・マサチューセッツ州のライトロック農場

いくつかの農場のクラスを体験したのですが、ライトロック農場の農場体験コースが一番気に入って続けることにしました。子ども向けにありがちな、指導されるばかりの内容ではなかったんです。鷹之介も「やってみたい」と乗り気で、2014年春から参加しました。

その年の夏から、鷹之介の農場体験コースとは別に、家族全員で農場の鶏を世話するボランティアグループにも参加するようになりました。年間通して世話をするのですが、農場のスタッフの大半が不在になる冬の間、動物たちの世話はボランティアが担うんです。私たちも、ヒヨコを自宅に引き取って大きくなるまで育てたこともありましたし、ほかにもお役に立つなら何でもやりたいと、どんどん手を上げていきました。

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農場のスタッフと子ヤギを抱く鷹之介君(左)=アメリカ・マサチューセッツ州のライトロック農場

■「マイルド」だった子が、農場にのめり込んだ

すず)それまでの鷹之介は、友達とも仲良くやっていたし、学校生活も楽しんではいたのですが、どこかサラッとしているというか、感情がマイルドというか、思いっきり楽しそうに何かをしている様子を見たことがありませんでした。「本人がもっと打ち込めることに出会えてないのかもしれない」と、私自身、ずっと思い続けていました。

ですが、ライトロック農場では本当に生き生きした表情を見せるようになりました。何か新しい作業を任されたとき、やってみる?と私が聞くと、パアアアアっと表情が明るくなって「やる!」という返事が出てくるような。

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農場のスタッフとひと休みする鷹之介君(中央)=アメリカ・マサチューセッツ州のライトロック農場

農作業の依頼があると、先に入っていた友達の遊びの約束をキャンセルしてでも、農場のことを優先しているほどでした。そんな鷹之介の様子に「好きなことに出会ったら、鷹之介もやっぱりこうなるんだ!」と私も確信できたんです。

■2015年秋、転機が訪れた

それまでの頑張りが認められ、鷹之介君は、農場体験コースの参加者としてではなく、農場のボランティアとして、農場の正規の業務に単身で参加することを認められた。小学校3年生になったばかりだった。

すず)農場のスタッフ10人くらいが落ち葉を集めて肥料を作っていたところに、たまたま散歩で鷹之介が通りがかった時がありました。「ちょっと手伝ってみない?」とマネジャーに声をかけられて落ち葉集めを手伝ったのですが、様子を見ていたマネジャーが鷹之介に「タカ、春から私たちと一緒に働かない?」と声をかけてきたんです。本当にびっくりしました。

おそらく、農場クラスでの働きぶりや意欲を見ていて、子どもだけどボランティアになれるんじゃないかと、思っていたようです。落ち葉作業の様子で、鷹之介ならボランティアを大丈夫では、と思ってくれたようです。

八戸すずさん提供
ビニールハウスで作業する鷹之介君(手前)

というのも、この農場では家族のボランティアを受け入れてはいても、13歳未満の子どものボランティアを単身で受け入れたことがなかったんです。いくら子どもが望んでも安易に参加させなかったのは、農場側にも「私たちは子守じゃない」という考えがあるからです。でも向こうから声をかけてくれたということは、鷹之介なら、大人のスタッフやボランティアと同じ立場で一緒に働いても大丈夫、と認めてくれたわけです。

2016年3月から、ボランティアとして、平日の放課後や週末、夏休みは毎日、農場で作業しました。農場のスタッフも、鷹之介に任せると決めたからには、大人とほぼ同じことを任せていました。仕事の割り振りは年齢や性別ではなく、体のサイズで。

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農場で大人とともに作業する鷹之介君(左)=アメリカ・マサチューセッツ州のライトロック農場

敏史)ボランティアになってからは、作業の内容やスケジュールなど、農場からの連絡はすべて、鷹之介を通じて来るようになりました。「子ども扱い」されず、対等に扱ってくれるのが、鷹之介にとって本当に嬉しかったんだと思います。農場での人間関係や仕事といったことは、彼自身の「世界」になったんだと、わたしたち親も考えて、農場に関することは彼にすべて任せるようにしました。

■農場で働く自分。「大人っぽくなった」

学校でも、家でもない自分の「居場所」を得た鷹之介君。農場で働くことをどう受け止めているのか。

鷹之介)自分が大人っぽくなった感じがした。農業体験コースは子どもっぽくて、栽培の場所も子供専用の菜園だったし、いつも教えてもらう側ばかりだった。でも僕は、「仕事」をしたかった。大人のボランティアが作業する様子を見て、ああいう風にいつか自分もできるのかな、と意識するようになりました。ボランティアになってからは、タイヤに刃物がついた器具で雑草を取ったり、鶏小屋に冬の間たまった糞の掃除を任されたりしました。糞からガスが出るから、マスクをして7分おきに交代で掃除するんです。

八戸すずさん提供
スタッフやボランティアの大人たちに混じって働く鷹之介君(左端)=ライトロック農場で

すず)大人と一緒にしっかり働けるという特性を見出して声をかけてくれたおかげで、鷹之介の「好きなこと」が開花したと思います。ライトロック農場には感謝しかありません。一方、まだ小学3年だった鷹之介を、大人と同じボランティアに迎え、ともに働いたことで、農場のマネジャーの考えも変化したようです。子どものボランティアを一切受け入れたことはなかったのに、鷹之介が入って1年後、別の子どもも受け入れたのです。鷹之介の頑張りから、子どもでも大丈夫だろう、と信頼してくれたのだと思います。

八戸すずさん提供
ファーマーズマーケットで、スタッフと店先にたつ鷹之介君(右)

■帰国後、場所の模索

ボランティアの一員として頼りにされていた鷹之介君だったが、2018年の年明け、帰国。4年近くを過ごした農場のスタッフともお別れした。

すず)鷹之介だけでなく、私自身も学びました。あの子がライトロック農場で働くまでは、子どもは子ども向けに作られた枠組みの中で遊んだり学んだりするもの、と思っていたけれど、子どもに任せれば責任も出てくるし、お金のためだけではない、働くことで得られる喜びを味わうこともできることを教わったのです。スタッフの一員として尊重されたし、信頼関係も結べました。子どもにも「あてにされる幸せ」が必要だと思ったんです。

八戸やえさん提供
大好きだったスタッフと別れを惜しむ鷹之介君

帰国前から、家族は、鷹之介くんをボランティアとして受け入れてくれそうな農家と、それが可能になりそうな地域を探し始めた。

すず)アメリカで見つけたような、家族にとって居心地の良い場を日本でもどう確保するかが、大きな宿題でした。特に鷹之介が手に入れたような場は、日本では簡単に見つけられないと分かってました。それに、農場との関わりは、鷹之介だけでなく、私や夫、弓之介の世界も開いてくれたので、これはもはや、彼一人の居場所や時間だけではなく、家族全員に繋がる幸せだと思っていたからかもしれません。

でも、もし日本にそうした場所がなくても、自分たちで作り出せばいいとも思っていました。鷹之介に聞くと、彼もやはり「ファーム(農場)があるところに住みたい」と言いました。だから、夫と私で、帰国前からグーグルアースの航空写真で、熱海から八王子周辺まで、豊かな自然がありそうな場所を探しました。それが今住んでいる場所です。

帰国後、すずさんが鷹之介君を受け入れてくれそうな農家を訪れる一方、敏史さんは近所の老人ホームを訪れた。

敏史)鷹之介はアメリカに住んでいたときに、地域の小中学生向けの室内楽グループで、バイオリンを担当してたんですが、そこでは、2、3カ月に1度、地元の老人ホームで演奏する活動をしていました。そういう取り組みが素晴らしいなと思っていたので、日本でもできないか、と、引っ越し先の近くの老人ホームに飛び込みで頼みに行くと、快諾してもらえました。

いまは、アメリカで地元の演奏グループに入っていたすずさんと鷹之介で、老人ホームの演奏会を開いています。お年寄りたちは、子供が、バイオリンで演奏してくれるというだけで新鮮だったようで、真剣に聞いてくれて、知っている曲は初めから大きな声で歌ってくれました。施設のスタッフも、普段働きかけても反応がないのに、と驚くほどです。

八戸やえさん提供
老人ホームで演奏を披露するすずさんと鷹之介くん

すずさんは八王子市内に2カ所の受け入れ先を見つけ、飛び込みで頼んだ。有機農家の鈴木俊雄さん、磯沼ミルクファームを運営する磯沼正徳さんが受け入れてくれた。鈴木さんは、ボランティア自体、長い間受け入れたことがなかった。また、子どもが入る経験は初めてだったと振り返る。

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鈴木俊雄さん

鈴木)お母さんから受け入れを頼まれたときは正直驚きましたが、でも農家の味方を増やさなければという思いもありましたので、受け入れることにしました。春休みやゴールデンウィークなど、まとまった休みに来てもらっています。最近の子どもはゲームなど、家で遊ぶことが多いのだろうと思っていたので、アメリカの農場で長く手伝ってきたと聞いて、珍しい子だなと思いました。ひとまず春休みに、キャベツ畑の雑草を抜く作業を4時間頼みましたが、休憩を挟みながら上手にすすめてくれました。大人に教えても自己流でやってかえって仕事が増えてしまうことがありますが、鷹之介くんはちゃんと取り組んでくれました。

一方、磯沼さんは10年ほど前から「カウボーイ・カウガールスクール」という、子供や若者が子牛を世話する年間プログラムを続けていたほか、大学生のボランティアも受け入れていた。

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磯沼)牧場には、子どもを始め、どんな人にも頼める仕事がたくさんあります。そこで頑張ることで評価してもらうことのうれしさや生き物の世話をする責任感が生まれてきます。特別なことを教えるわけではないんですが、子供たちも動物を世話する楽しみを自分で見つけ、動物が命がけで人間に奉仕している姿を見て、動物が少しでも快適に過ごせる場所を作ろうとします。いま、子ども向けの習い事はたくさんありますが、牧場に来たら、体を動かしながら人間性を解放できる、そんな体験ができると思います。


鈴木さんの畑や磯沼ミルクファームでボランティアを続けることになった鷹之介くんの様子を、すずさんはその都度、自身のFacebookで友人らに報告した。

先日、ようやく見つけた良さそうな有機農家さん。鷹(鷹之介くん)がボランティアできないかお願いに通い、何とか試させてもらえることに。仕事前は小学生に何が出来るか(当たり前だけれど、前例もなく、役に立つより足手まといになる予想。)悩んでいたスタッフさんたちも、仕事終わりに迎えに行くと、「本当に良く働いてもらったよ!!」と鷹に優しい眼差しを向け、すっかり鷹を好きになってくれた様子が分かりました!これからも日程が合う時には通わせてもらえることに。

学校がある時期には予定が合わなさそうなので、春休みの次はゴールデンウイークかな。本人ももちろん、「楽しかったーー!!!みんなすごくいい人たちだった!」と久し振りに爽やかな笑顔を見せてくれました。60代以上の農夫さんたちと働いて、とても楽しむ鷹。そして子供向けプログラムでもなく、子供の相手が慣れている訳でもない農夫さんたちと働ける彼。学校よりもどこよりもこういう場所にいる時が一番嬉しそうに見える。世の中にそういう場所があってよかったなー。

今夜は持たせてもらった採りたて野菜を頂き、ボストンのファームを思い出して涙ぐんでしまった私でした、涙〜。(すずさんからのFacebookから)

八戸すずさん提供
作業に行った当日、偶然牛のお産に立ち会った。生まれたばかりの子牛の体を拭く鷹之介君=八王子市の磯沼ミルクファーム

そして今日は、動物を愛する鷹のために探したもう一つの酪農ファームにボランティアに行ってきました。こちらも、見つけて通って牧場長さんにお会いしてお願いして。。。と考えると長い道のりでした。

なんと、行った瞬間に牛の分娩が始まり、鷹は仔牛を引いたり身体を拭くお手伝いを。(中略)

糞にまみれて丸一日働いた鷹は、本当に幸せそうな顔をして「ものすごく楽しかった!」を連発。やっぱり動物が一番のようです。

ここの魅力に惹かれて沢山の方が出入りするこのファームで、彼がどれだけ役に立てるかは分からず、まだまだ「お手伝いさせてもらう」身分ですが、春休み後も週末に行かせてもらえることになりました。ボストンのファームでは、可愛がったラムが精肉と毛皮になることを身を以て体験した鷹。ここでも様々な事を学ぶことでしょう。(すずさんのFacebookから)

MASAKO KINKOZAN/HUFFPOST JAPAN
生まれて間もない子ヤギを抱く鷹之介君=八王子市の磯沼ミルクファームで

すず)大人とほぼ対等にかかわりながら、大好きな農作業に打ち込む鷹之介の姿を見て、子ども向けにお膳立てされた「枠」にはめ込まない場所に子どもが身を置くと、どんな反応が現れるのかを私たちも目の当たりにしてきました。

日本では、小学生の子どもが鷹之介のような機会を得られる場はまだ少ないですが、模索し続けることで、誰かの理解を得られれば受け入れてもらえるのだ、ということも知りました。

わたしたち親が、子どもに見せられる世界には限界があります。すばらしい大人が社会にはたくさんいるのに、子どもが親以外の大人と交われる機会は限られています。大人から一方的に何かを教わるのではなく、子ども自身ができることを「対価」にして、自ら学ぶことがもっとできたら、と思います。

そのためには親を含めた大人が、子供を同じ対等な人として見て、信頼するということを学ぶのも、大切なことではないか、とも思っています。

敏史)日本は、子どもの時間の過ごし方に、ダイバーシティーが少な過ぎると思っています。みんなが塾に行く、みんなが同じ習い事をする、というように、子供には決められた選択肢しかないように見えます。誰もが限られた選択肢の中から「何かを選ばないといけない」と思い込んでいるのではないでしょうか。あうものがなければ選ばなくてもいい、という選択肢が、存在しないかのように感じています。

私たちは、いまある選択肢から選ぶ必要はないし、したいことがなければしなくてもいいし、ないなら自分で機会を作ることもあっていい、と思っています。

そして夏休みに入った2018年7月下旬、八戸さんの家族はそろってライトロック農場へ。ともに働いた仲間たちと再会した。

八戸すずさん提供
ライトロック農場を訪れている鷹之介君(左から4人目)。別の土地に移っていった農場の元スタッフも集まり、同窓会状態

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