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2018年11月29日 15時16分 JST | 更新 2018年11月29日 15時16分 JST

「社会の課題解決はビジネスパーソンでもできます」 アイディアで切り開く新しい支援の形

超高額のバイト「時給10倍奨学生」も実現まであと一歩に

講義の様子(筆者撮影)

都内のIT系商社員、秋山宏次郎さん。会社員の傍ら、まったく仕事と関係ないこども食堂の支援や貧困の学生の支援に取り組んでいる。ビジネスのアイディアを使いながら、ネットワークを構築し、効果的な支援を実現する。

彼は11月28日、母校・慶応大のゲスト講義で学生にこんなメッセージを伝えた。「会社は不自由でも、社会は自由。社会を良くすることは一人からでもできる」――。

こども食堂の課題を解決したい

秋山さんがこども食堂支援に関わった契機になったのは、会社で取り組んだ防災システムの仕事だった。非常食を備えるも、消費期限切れなどの関係で毎年お金をかけて捨てている。

その一方で食事を必要とする場所がある。全国で立ち上がっている「こども食堂」だ。

こども食堂は貧困家庭の支援の場として「こどもに食事を提供する場」紹介されることが多いが、秋山さんの定義はもっと広い。曰く「さまざまな事情を持つこどもたちの食事付き居場所」だ。

企業が捨てていく非常食という課題と、こども食堂の課題をインターネット上のクラウドサービスでマッチングして解決すれば良いのではないか。

「行政や企業で備蓄されている食料のデータを一元的に登録・管理するシステムを作って、賞味期限に近づいたら、こども食堂などの必要な所に渡せばフードロスがなくなる」

内閣府主催のイベントで提案して「表彰状」までもらったが予算がつかず、実現しなかった。「表彰状が欲しくて提案したんじゃない。解決したいから提案した」

ここで終わったら意味がないと内閣府の担当者と毎日新聞でイベントを開いたところ、各地の「こども食堂」の関係者から人手やお金、場所の問題を聞くことになった。

美味しい非常食を届けよう

彼はひとまず、オンラインでのシステム構築は保留し、オフラインで自力で人材をつなぎあわせることにした。鍵になったのは「美味しいもの」を届けるという発想だ。

「非常食だからといって、本当に非常用のカンパンをこども食堂にやってくるこどもたちに毎日、食べてくださいというのは違うだろうと思った。例えば、今は美味しいパンの缶詰がある。これは朝食にもぴったりなんです」

災害時の非常食としても保存できるパンの缶詰を開発している栃木県のメーカー「パン・アキモト」だ。このメーカーも含めて、多くの企業を巻き込み、支援を取りつけて計10万食分の支援を達成した。

課題解決のサイトを作りたい

いま秋山さんが実現したいと力を入れていることが大きく2つある。第一はこども食堂の課題を解決するサイトだ。こども・親、運営者、支援者の3者が得をするような仕組みである。

こども食堂はせっかくできても移転したり、新設しても行政から情報が届かなかったりすることが多い。運営側もそれぞれに抱えている課題が異なる。多くの企業も支援したいという思いはあるのだが、どのようなニーズがあるのかわからないから支援に二の足を踏んでいる。

ならばサイト上でニーズや課題を可視化し、マッチングすればいいというわけだ。インターネットなら地図情報も次々と更新できる。

もうすぐ実現間近「時給10倍奨学生」

同じ発想で第二の課題も解決したいと語る。

「奨学生です。この前あるツイートを見ました。行政のミスで生活保護以下の生活を余儀なくされていて、進学を諦めているこどものツイートです。この子をなんとかしたい。僕も大学生の時、いろんなバイトを掛け持ちしていました。いま大学の学費はどんどん値上げされて、高くなっていますよね」

「奨学金をもらっている学生も多いが、彼らは卒業したら借金を抱えることになるのに安いバイトしかない。大企業がCSRの一貫で奨学金制度を作っているけど、知られていない。だったら......」

彼が提案しているのは、超高額のバイト「時給10倍奨学生」だ。例えば企業が週に2時間、時給1万円のバイトを提供する。時給約1000円のバイトの10倍支払う。それでも人件費は年に100万円弱だ。

バイトが短時間なので学生は勉強する時間も確保できる。企業側のメリットは新しい形の社会支援に取り組んでいるという「広告効果」だ。

提案しても、「良いですね。でもそんな仕事ないですよ」と断られることも多かったが、ついにあるメディア企業が提案に乗ってきた。彼らは学生に記事を書いてもらい、それを原稿料という形で支払えば「時給10倍」が可能だと言う。

実現まであと一歩だ。

オンラインとオフラインの設計思想

「課題があるところにニーズはある。課題と課題を掛け合わせれば、社会を動かすことができる。自分が名刺を交換した人たちをつなげて、会社の枠を超えて、支援の形を作ればいいんです」

秋山さんはオンライトとオフラインで設計思想を持っていれば、善意を還流する仕組みは作れると語る。

これはビジネスと同じだ。アイディアをもとに、ニーズを満たせば企業も消費者もどちらにとっても嬉しい枠組みができる。自分の活動を淡々と語った講義の最後で、彼は学生にこう伝えた。

「社会問題を解決するために大事なのは手を上げて、実行まで持っていくこと。素振りだけでプロになった人はいない。実際に打席に立つしかない。失敗は糧になったと思えばいいんです」