AAR Japan[難民を助ける会]はアフガニスタンにおいて、地雷対策活動の一環として、地雷被害者を含む障がい者支援を行っています。
活動地の1つ、アフガニスタン中部に位置する、パルワーン県チャリカール市にある公立学校、サディキ校とサヤラン校で、2016年12月と2017年3月に実施した、両校初の障がい児主体の学校祭の様子をご報告します。
サッカーを通じた交流
サディキ校、サヤラン校は、小中高が一貫となっていて、サディキ校には49名の障がい児(全校生徒4,945名)、サヤラン校には15名の障がい児(全校生徒1,080名)が在学しています。
AARは両校で、2015年1月から、障がい児の就学状況を改善し、インクルーシブ教育(障がいの有無、人種や言語の違いなどにかかわらず、すべての子どもたちがそれぞれの能力やニーズに合わせて受けられる教育)を推進するために、校内委員会の活動を開始しました。
AARが両校に設置した校内委員会は、教師で構成され、障がい児の登校状況や、学習内容の理解度などの確認や改善点を話し合っています。また、AARは教師に対し、障がいに関する知識の向上を図るための研修も行っています。
懸命にボールを追いかける女子生徒たち
今回、校内委員会が主導となり、障がい児が一緒に参加する両校対抗のサッカー大会とクイズ大会を男女別でそれぞれ1回ずつ開催しました。
校内委員会の教師は、生徒の障がいの種類や重度、生徒の意向に合わせて、競技ごとの参加者を決め、クイズ大会は、一般常識に加え、障がいや地雷に関する知識など、学校で学んだことの復習も踏まえた問題を出題しました。
アフガニスタンの社会的な背景から、教育現場では障がい児や女子生徒が中心となって活躍できる学校行事は多くありません。
女子サッカー大会に参加した、視力に障がいのあるファテマちゃん(12歳)は 、「イベントに参加して、ほかの生徒と一緒にサッカーをして、人生で初めて、自分が障がい者だということを忘れられるくらい楽しむことができた」と嬉しそうに話してくれました。
また、一緒にイベントに参加していたワラスくん(10歳)も、「障がいがある生徒とも新しく友だちになることができたし、他校の生徒の友だちも作れてとっても楽しかった。皆が幸せになれたイベントだったと思う」と話してくれました。
女子サッカー大会で勝利したサヤラン校にはサッカーボールのトロフィーが
今回のイベントは、第1回目の女子サッカー大会とクイズ大会はともにサヤラン校が勝利し、第2回目のイベントでは、男子サッカーではサデキ校が勝利し、クイズ大会は引き分けとなりました。
しかし、生徒の中では、勝ち負けよりも大切なものが芽生えてきていることが分かりました。サヤラン校の校内委員会のメンバーの1人で、ダリ語(アフガニスタンの国語)教師のアブドゥルさんは、「競技に参加する生徒を選ぶのが大変でした。
年齢、障がいの種類などをサディキ校とのバランスを考えながら選ぶため、打ち合わせを行って慎重に決めていきました。
初めてのことばかりでしたし、準備は大変でしたが、イベントをやり終えて、生徒の中から『障がい者も自分たちの仲間だと感じた』という声を聞くことができ、教師として、委員会のメンバーとして、今回のイベント開催に関われたことを大変誇らしく思っています」と話してくれました。
彼が話してくれたように、校内委員会の活動を通じて対象校の生徒たちの気持ちや考え方に少しずつ変化が見え始めていることは、アフガニスタン社会全体をより良い方向へ変えるための大切な一歩ではないかと感じます。
対象校周辺のコミュニティを含め、アフガニスタンの多くのコミュニティの障がい者のなかには、差別的な言葉を投げかけられたりして、外に出ることをためらう人がまだまだ多くいます。
しかし、校内委員会の教師たちの中からは、委員会で障がい児の就学支援を開始し、障がい児の数が増え、生徒たちが障がい児と接する機会が増えてから、差別的な発言をする子どもが減ってきたという意見が聞かれます。
これはまだ小さな変化かもしれませんが、この変化をさらに大きく発展させるためにも、行政と学校が手を取り合って歩んでいく必要があります。
過去2回のイベントでは、教育庁やほかの支援団体から来賓を招き、イベントを視察してもらい、来賓者からは好意的な意見を多くいただきました。AARでは、今後も対象校を中心とした活動を活発に推進していき、草の根から地域社会に変化を与えていけるような活動を展開していきます。
【報告者】
パキスタン事務所 平山 泰弘
2016 年7 月よりパキスタン事務所に駐在し、アフガニスタン事業を担当。アメリカの大学で平和構築学を学んだ後、青年海外協力隊に参加。東ティモールで障がい者支援に携わり、帰国後AAR へ。千葉県出身