世界規模の難民危機―意図的に無視される難民たち

この2年間、難民の危機的状況を世界はみてきたはずだ。

ギリシャのレスボス島沖で漂流している難民 2015年 © Michael S Honegger

この2年間、難民の危機的状況を世界はみてきたはずだ。2013年難民の数は、第二次世界大戦以降初めて5,000万人を越え、その後も増え続けている。

特に深刻なのがシリアだ。シリアでは総人口の半数以上が難民で、約400万人が国を逃れており、過去最大の難民危機に直面している。

大量のシリア難民が流れ込む周辺国の受け入れは、もはや限界に達している。しかし、周辺国に対する国際的な援助は驚くほど少ない。国連が拠出金を加盟国に要請したが、2015年6月3日現在までに集まった支援金は、目標の23%にすぎない。国際的な援助機関も周辺国にいる難民10%の受け入れを各国に呼びかけているが、わずか2%しか実現していない。

難民はシリアからだけではない。

東南アジアでも5月、ビルマ(ミャンマー)とバングラデシュの難民や移民ですし詰め状態となった漁船がタイ、マレーシア、インドネシアの当局から沖に押し戻される悲惨な様子が報道された。

一方、アフリカを見てみると、サハラ以南には300万人もの難民がいるとされる。ケニアには世界最大のキャンプがある。武力勢力が残虐行為を繰り広げているナイジェリア、無法地帯と化した中央アフリカ、内戦が激化する南スーダン。ソマリア内戦、コンゴ内戦、エチオピア・エリトリア国境紛争。過去・現在の紛争や過酷な状況が多くの難民を生んでいる。

世界規模の難民危機は、紛争や迫害が火種だが、難民を前に国際社会や各国政府が難民問題に関する責務を全うしない怠慢が状況を悪化させている。難民条約は迫害や人権侵害の恐れのある国への難民の送還を阻止するために第二次世界大戦後につくられた。この条約には保護の枠組みだけでなく、責任と負担を分かち合うという原則も定められている。難民問題は少数の国だけが背負うのではなく世界各国が一緒になって対処するという原則だ。だが今や反故にされたも同然だ。

北アフリカからヨーロッパを目指し地中海を渡ろうとして、この4月に1,000人が命を落とした。東南アジア沖でもこの半年で1,000人近くが亡くなっている。その死の責任は、もちろん、密入国業者や人身売買組織にある。しかし助けられたはずの命を救わなかったのは、各国政府だ。保護する責任を怠ったのだ。

難民とは、武力衝突、迫害、暴力、重大な人権侵害から逃げてきた人たちだ。国に保護されず、やむなく国外にいるのだ。あちこちで武力衝突や内戦が起きている今、この人たちを守るには、現制度では限界があるのは明らかだ。難民保護の枠組みには、抜本的な変革が必要なのだ。

アムネスティは難民保護と国家間の負担共有のため、以下8点の実現を求める。

1、国際社会の責任と負担の共有をテーマとした世界難民問題の首脳会議の開催

2、難民条約の批准国の拡大

3、各国における難民制度の創設:難民申請を公平に審査し、基本的な権利と教育・医療等の公共サービスへのアクセスを保障しなければならない。

4、人命救助を最優先に:各国は移民政策にかかわらず、危機的状況下の人びとの捜索・救助活動を最優先とする。この責務は入国管理より優先する。

5、人身売買への対処:各国に対する人身売買業者の捜査・訴追のため、実効性ある対応を取らなければならない。各国は人身売買犠牲者の難民認定手続きや再定住の機会を得られるよう保護・支援を行う。

6、再定住受け入れの促進:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、現在、再定住と人道的配慮による受け入れには約100万件が必要とされており、今後も増加するとされる。アムネスティの試算では今後5年間で年間30万件が必要になる。

7、外国人嫌悪の撲滅:各国政府は庇護希望者や移民を経済的・社会的問題だとする示唆や発言等、外国人嫌悪に加担しないようにすべきである。また、外国人嫌悪に根差した暴力に対処するため、実効性のある方針を定めなければならない。

8、世界難民基金の設立:こうした基金があれば国連の呼びかける人道支援要請を満たすことができる。また、難民を大量に受け入れている国が難民と自国社会にさまざまなサポートができるよう、基金がその国を財政支援する。基金は現行の開発援助に追加されるべきものである。

(アムネスティ・インターナショナル日本)

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