『世界を変えた50人の女性科学者たち』

広い世代の少女・女性に手にとって欲しい、読んで欲しいヴィジュアルブックである。

『世界を変えた50人の女性科学者たち』というビジュアル本が出た。私が小学校の頃には女性科学者で本になっていたのは『キュリー夫人』(今、検索したら、ポプラ社からの本が続いていることに感動!)くらいだったのだが、幸いなことに母が酵母菌の研究をしていたので、身近にロールモデルが存在していたおかげで(また、父も鯨の研究者だったので、女性が研究キャリアに進むことに対する抵抗がゼロだったために)、紆余曲折はあったものの研究する人生を歩んでいる。

1998年に東北大学に着任してみると、教授会は見渡す限り(事務方含め)男性のみ。その時、初めて女性研究者を取り巻く状況に気づいたため、女性研究者育成のための活動を始めた。大学では2001年より憲法学者の辻村みよ子先生のリーダーシップのおかげで男女共同参画委員会が立ち上がった。関係する学会でも、徐々にそのような委員会が設置されるようになった。

理工系の学協会の連合組織として「男女共同参画学協会連絡会」という組織があり、数年おきにジェンダーギャップの調査を行っている。2万人前後の回答者のデータは貴重であり、定点観察という価値も出てきている。その中で、「なぜ女性研究者が少ないのだと思いますか?」という問いに対する回答に男女差があることを指摘しておきたい。

まず、男女ともに差が無く多い回答は「研究と家庭の両立が困難」というものである(ただし女性の方が多い)。これは、OECDデータでも示されているように、日本の男性の家事参画が世界的に見て非常に少ないことによると推察され、これこそ働き方改革でもっとも求められるべき点であろうが、ここでは置いておく。

複数回答なので、女性は多数の選択肢を挙げていて、多くの項目において女性の回答数が多いが、唯一、男性の方が回答数が多かったのが「男女の適性の差」というものである。以前のギャップよりも少なくなった印象はあるが、それでも男性から見れば、「科学や工学は男性の職業」という意識が強いのだろう。女性が必ずしもそう感じていないのに。

そのような意識が、科学や工学に憧れる若い女性にとって、両親であったり、教師であったり、あるいは友人からの無言のプレッシャーとなって、キャリアパスの行く手を阻む。「アインシュタインよりディアナアグロン」という呪文は少女にとって強烈な刷り込みとなりうるのだ。

「ロールモデル」という用語を知ったのも、私にとっては女性研究者育成支援活動に関わったときからだ。女性の種々のステージで、憧れたり目標にするロールモデルが必要だ。そういう意味で、本書は小学生から大学生、大学院生まで、広い世代の少女・女性に手にとって欲しい、読んで欲しいヴィジュアルブックである。全国の小学校の図書室にはぜひ置いて欲しい。ロールモデルはキュリー夫人だけじゃない。生命科学者、天文学者、宇宙飛行士、工学者など、50人(+α)の多様なロールモデルが提示されている。

なお、東北大学では「身近なロールモデル」をキャッチフレーズとして、「東北大学サイエンス・エンジェル」という制度をつくり、自然科学系女子大学院生に出前授業や科学イベントに携わってもらっていることも合わせて紹介しておきたい。生きて身近に存在するリアルなロールモデルは、二次元の世界よりさらに重要と思う。(注:「エンジェル」とは、科学のメッセンジャーという意味。本来、キリスト教の天使は中性)

(2018年4月30日大隅典子の仙台通信より転載)