夫は、どうすれば良かったのか?――サイボウズのCM第二弾について考える

インターネットは、その変化を加速させています。「ママを抱っこ」ではない解決に向けた第一歩、彼女を救うための第一歩を、もう踏み出している人たちがいるのでしょう。
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サイボウズ

こんにちは、ブロガーのkobeniと申します。普段は、はてなブログで、仕事と育児の両立や、伏し目がちなメガネ男子の萌えポイント等について考えています。さて、つい昨日の話ですが、「サイボウズ」の「働くママたちに、よりそうことを。」という動画(CM)第二弾が公開されました。サイボウズは、遠隔でスケジュール管理等ができるwebサービスで、在宅勤務などによく使われています。

■ワーキングマザーから上がった失望の声

こちらの動画、第一弾は、働くママの現実がいかに大変か?を、大変リアルに、丁寧に描いており、大変な反響を呼びました(1月7日現在で動画再生回数61万回)。私も、ふだんインターネットをあまりしない保育園ママ友からも「あれ、観た?泣いたよ......」と言われたりしましたので、おお、ちゃんと届いているぞ!と思ったものでした。

「続編もある」という話だったので、あんな大変な状況(でもひとつの現実)をどうやって解決してくれるんだろう?次回作に期待!と思っていたら......

どんなにパパが協力的でも結局ママにしかできないことが山ほどあって

それは毎日のほんの小さな出来事だったりするので

パパに言うほどのことではないわけ

奥さまのこと抱っこしてあげられるのは、あなただけなんですよ〜

私は最初に観た時、パパ友(※主人公の母親の「同期」という設定)が「手伝う」という表現を使った瞬間に、母親が「手伝う〜??!!!???」とブチ切れてビーストモードか何かに突入する......のかと思いましたが、そんなことはありませんでした。サイト直下に表示されているTwitterでの反響を観ても、「私を抱っことかいらないから、お迎えとかミルクあげるとかやってほしい」といった、現役ワーキングマザーからの怒りの声がほとんどで、もう既にお迎えなどを担当しているパパ達はさらにガッカリしており、全体的に失望感が大きかったようです(そんなこともあってか、今回のムービーは、1月7日現在で9000回ほどしか再生されていません...)。

実際に出産・育児を経験してきた私にしてみると、「ママしかできないこと」と言われていることの「全て」が、物理的には「パパにもできること」だったので、ど、どういうこと...なの......と思ってしまいました。

■ CMとしての「あたらしさ」は?

第一弾のCMが、サイボウズという企業に与えた効果は何だったのでしょう?あそこまでリアルに、働くママが置かれているひとつの現状を捉えて表現した「広告」「CM」は、なかなかないと思います。(ドラマや映画では、観たことがあります)。

働くママって、総数はたくさんいるけど、会社や組織内で一人ひとりはまだまだ、少数派。だから、なかなか周囲に本音を言えなかったり、仕事が終わってからもまだまだ「家事・育児」が続くという、具体的な大変さについては、わかってもらえないだろうな。と、諦めがちになってしまうものです。気持ちは、「この会社、私たちのこと、わかってくれてる...!」からの〜〜「......この会社、好き!」ですよね。とっても良い効果がもたらされたと思われます。

「女性活用」は今、この国で大変に注目されている社会問題ですから、「モノやサービスを売るだけでなく、社会問題の解決にまで意識が及んでいる、志の高い会社なんだな」ということも、暗に伝わったと思います。強引に商品説明をつっこんでくることもなく、AC(公共広告機構)のCMみたいでしたもんね。

最近の広告業界の潮流から見ても、企業の志の高さ・社会的責任についてアピールするというのは、大変に先進的な取り組みであると思います(それだけに、第二弾の「社会問題の解決法」が、それかいな......という失望感が高かったわけです)。

■なぜ、夫は「協力的」だが「なにもしてない」のか

さて、なぜあそこまで悲惨な状況にある、働く母親を前に、夫は何もしていないのか。そして、彼女がそのことを、驚くほどすんなり受け止めている(ように見える)のか。出産まではおそらく職場で、まったく同等に切磋琢磨し合ってきた同期のパパの「手伝う」コメントにも、一切モヤモヤすることもなく.........。フシギだなあ、と思っている方もいると思います。現役ワーキングマザーから観て、考えられる理由をいくつか挙げてみたいと思います。

●同じ会社・業界内で結婚しており、夫の方が圧倒的に忙しい

あのお母さんの職業が何なのか、今イチ明らかにされていませんでしたが、たとえば彼女が職場・業界結婚だった場合。仕事のデキる彼の、「私が知らないことまで知っている」「デートでは、仕事のブレストまでできちゃう」、そこにキュン♡と来て交際開始、めでたくゴールイン。そんな彼だから、当然、出産後も「(自分より)仕事ができちゃう夫」=「自分よりクソ忙しい夫」=「家事・育児を『手伝ってもくれない夫』」......あれ?となるわけです。はい、想像つきますね。

自分も同じ業界にいるからこそ、「業界事情」が想像ついてしまう。なので、「仕方ない」という諦めにつながりやすい。ということも、あるでしょうね。

(あの動画をつくっているのは、「マスコミ・映像業界」の方々だ、ということも、視野に入れておきたいですね)

仮に夫が、本当はイクメンになりたい人だったとしても、クソ長時間労働で10年近く働いてきて、子どもが生まれたからって、とつぜん家に帰らせてくれるわけもない......orzってな可能性も、ありますよね。

●夫の方が収入が多いので、自分が家事・育児を引き受けるのが「合理的」

上記のように「仕事のデキる、素敵な彼」は、とうぜん私より高収入。彼は私の仕事に「協力的」、だって「仕事?続けていいよ。できる範囲で協力するし」って、言ってくれてるもん。......でも、私の方がお給料が少ないし、育休や時短制度が整っているのは、私の会社の方だし。家計のことを考えたら、私がキャリアを諦めて、家事や育児を多めに担当するのが「合理的」よね。「合理的」......あれ?...私、なんかずいぶん大きなもの諦めてない......?モヤモヤしますね。

動画にも出てくる、「パパが協力的」というワード。これは、「仕事&家事・育児を、全くイーブンに分担する」ということを、意味するわけではないようです。

●「ママがやった方が、早い」

「毎日のほんの小さな出来事」と、母親が言っていた家事・育児。寝かしつけで廊下を100往復するとか、ぜんぜん小さい出来事に見えませんでしたが、もし彼女が夫に、大変さを事後報告するとしたらどうでしょう?

「きょう、保育園に行く途中ですごくグズって、歩かなくなっちゃって、出社時間ギリギリになっちゃったよー。また先輩に睨まれた」「ふーん」

......という感じで、終わりですかね。

母親は、育休の一年を経て復職していますから、保育園の細かいルール、離乳食の作り方から、予防接種のスケジュールまで、彼女の方に知見とスキルがたまっている可能性が大です。「ママにしかできないこと」というより、「ママがやった方が早いこと」と、言えるかもしれませんね。

●家事・育児は「母親の仕事」、生計維持は「夫の仕事」という意識

男女雇用機会均等法が施行されて、30年(!)になります。あの母親は、おそらく私と同世代。学生時代も、就職してからも、あからさまな男女差別は経験していない。そして私もそうですが、自身の母親が働いていたりして、「女は家に入るべき」というような、強い役割分担意識もない。

......それでも。あの夫婦の心のどこかに「家事・育児は『母親の仕事』、生計維持は『夫の仕事』」という、社会的通念がしみ込んでいるのかもしれません。

このような「男は○○」「女は○○」という「常識」は、時代によって変わります。「ジェンダー」という言葉をご存知でしょうか?フェミニズムを勉強したことがある方なら、知っているかもしれません。

ジェンダーというのは、「社会的・文化的な性の違い・ありよう」のことです。生物学的な「男」「女」ではなく、社会の中で、後天的に身につくとされているもの。時代によって、変わるもの。もしあの母親自身が、「家に入る...とまでは思わないけど、やっぱり家事育児は『女の私がやるべき』」と思っているのだとしたら。彼女がめちゃめちゃ体が丈夫で、仕事のスキルも高いスーパーウーマンであれば、それでも問題はないと思います。が、仕事して、家事して、育児して、介護がはじまったら介護して......ってやっていたら、死にますね。突然の死、ですね。

そして夫も、「家計を支えるのは男の甲斐性」と思っている...のかもしれません。職場等からの摩擦・同調圧力は、男性の方が強いという可能性も高いです。

■あの夫婦だけが努力しても、あの母親は救えない

CMを観て「かわいそう...彼女を救わないと!」という気持ちになった優しい方も、多かったと思います。けれど、ここまでご説明してきてお分かりかと思いますが、これは「夫婦個人の問題」ではないのです。企業、組織、業界構造、生まれ育ち、慣習に基づく世間の空気、様々なものが絡み合って、あの母親の悲惨な状況が生まれているのです。「夫は何をやっているんだ!」というのも、ひとつの正論ではありますが、仮に夫が「手伝った」としてもなお、すぐには彼女は救われないでしょう。

■反響が、現実と乖離してしまったのは何故か?

さて、結果的に「プチ炎上」気味になってしまった、今回の動画。もしかすると、CM制作側が、「世間」を見誤ったのかもしれません。世の中の「常識」は、恐ろしいほど早いスピードで変わっています。インターネットは、その変化を加速させています。「ママを抱っこ」ではない解決に向けた第一歩、彼女を救うための第一歩を、もう踏み出している人たちがいるのでしょう。私は、そういう「アーリーアダプター」こそ、世の中を良い方向に変えていくのではないか、と思っています。

最後に。私が気になっているのが、あのCMの制作過程で、誰も仕上がりに疑問を唱えなかったのは何故なのか?ということです。TwitterやFacebookでは、男女・既婚未婚・子どもの有無は関係なく、疑問の声が挙がっているように思いました。疑問を感じる人が、チームにいなかったのか?疑問の声を挙げる「雰囲気ではない」チームだったのか?じゅうぶんな議論が足りなかったのか......?

企業に、広告に、できることがないか?と言えば、そんなことはないはずです。サイボウズさんには、これからの展開に期待したいと思います。