なぜ大学生は、途上国に来ると『彼らは物質的には貧しいが、心は豊かだ』という感想しか持てないのか

理由は2つあります。

途上国スタディツアーに参加した学生の9割が書く感想

『彼らは物質的には貧しいが、心は豊かだ』

これは、なぜ生まれるのでしょうか。理由は2つあります。

ひとつめは「これが正解だから」です。

『彼らは物質的には貧しいが、心は豊かだ』と言っておけば、先生が○をくれるんですよ。

ポリティカリーコレクト的にも問題ないし、教科書に載っているお話でもよくあるモチーフですし。

小学生から「先生が喜ぶような作文を書け」「出題者が○だと思うような選択肢を選べ」と教育されている我々日本人にとって、息をするように出てくる回答がこれなんです。

もうひとつの理由が「彼らが会うのは実際いい人だから」です。

平日の昼間に、のこのこやってきた外国人の団体にわざわざつきあってくれる人は、だいたいいい人です。

日本にオーストラリア人大学生の団体が来た時のことを想像してみてください。

昼間から酔っ払ってるアル中や、引きこもりの40歳や、リストカットの跡が満載の少女は出てこないでしょう。(出てきたら、コーディネーターが全力で排除する)

結果、純粋な子供たちと、彼らを見守るいい先生と会うことになります。

大体、スタディツアーでは、最初に学生が日本のことを紹介します。何度も受け入れに協力している子供たちにとっては前も聞いた話なのですが、わざわざ外国から来てくれた人たちが一生懸命話しているので、あわせて一生懸命聞いてくれます。ほんと、いい子供たちです。

で、その後、質問タイムとかになるのですが、1,2問で質問が途切れます。

すると、子供たちが「じゃあ、今度は僕たちが、カンボジアの歌を教えます。一緒に歌いましょう!」とか言って、楽しい交流が始まります。

まるで、つまらない自慢話をニコニコ聞いて、話が途切れたらカラオケでデュエットして時間を潰す、キャバ嬢のようではないですか。

私はこれを「国際交流キャバクラ」と呼んでいます。

つまり『彼らは物質的には貧しいが、心は豊かだ』は、新橋のサラリーマンの「アモーレのかすみちゃんはホントいい子だよねー。いざ、キャバクラ!」という台詞と同類に分類されるのです。

なんで「スタディツアー」がこんな風に「国際交流キャバクラ」になってしまうのでしょうか?

それは「学生が、学ぶべき対象にあまり興味がないから」です。

ツアーを企画するNGO団体の職員や文化人類学の教授は、交流相手の人たちにものすごく興味があります。彼らが幸せになるにはどうすればいいのか、彼らがどんな生活をしているのかを、夢に出るまで考えてます。

しかし、学生はそこまで興味がないので、特に聞くこともないし、知りたいこともないのです。だから、聞かれる方も歌と踊りでお茶を濁すし、学生も『彼らは物質的には貧しいが、心は豊かだ』でお茶を濁すわけです。淀んでますね。

もちろん、その中から覚醒してNGOや文化人類学に強烈に興味を持つ学生がでてくる可能性もあるので、無駄なことではありません。でも、そういう有益なことが起こる確率ってあまり高そうではないですよね。

だから、主催者がやるべきことは、これです。

海外にくる学生に対して、「その国の人たちに興味を持たせる、動機付け」

例えば、我々の主催するプログラムサムライカレープロジェクトでは、学生に「今週末のお祭りで、カンボジア人のお客さんに1000ドル売り上げるでござる」という課題を出します。

そして、こんなことを伝えます。

「でも、カンボジア人はカレーが嫌いだから主力商品のカレーライスは売れません。

明日、カンボジア人の人たちと話をする機会を与えます。なにを質問するべきか考えてみましょう」

といえば、課題達成のために、カンボジアの人たちに聞くべきことは山ほどでてきます。

「なにが好きか?」「今日はどんなモノを食べたか?」「いくらくらい?」「お祭りとか行く?」「なにをするのが楽しい?」「スマホのアプリはなに使ってる?」などなど。

一緒に歌とか歌ってるヒマはなくなるのです。

ちなみに、サムライカレーでは、ただ話をするだけではなく、カンボジア人をスカウトして雇うなんてこともやります。

ヒアリングや試食会で交流して、この人と一緒に仕事したい!この人がいてくれたら助かる!という人をスカウトして、バイトとして雇って、一緒に販売することができちゃうんです。

しかも、日本語学習中のカンボジア人をスカウトすることもできるので、語学が不安な人も問題なし!

こうやって、一緒に仕事をすると、キャバ嬢に接待されるのではなく、同じレベルで協業することになります。

自分たちが同僚として共に働いたり、マネージャとしてマネジメントしたりして、同じ目標に向かって頑張ると、いいとこも悪いとこも見えてきて、現地の人とものすごく仲良くなれます。

カンボジア人の仲間を、宿舎に連れ帰って、夜な夜な話をするチームもでてきます。

ここまで行くと「国際交流キャバクラ」と桁違いの深い交流ができるわけです。

帰国後、会社に入って、同僚や上司が外国人でも全然問題なくなります。

我々が、いつも学生に言っていることはこれです。

自分たちがいいと思うものではなく、お客さんがいいと思うものを提供しよう」

自分たちが美味しいと思うカレーも、カンボジアの人からしたら臭い食べ物なんです。(カレーの香辛料の匂いが嫌いな人が多いんです)

スタディーツアーの主催者もこの目線を持たなくてはなりません。

自分たちが興味があるからといって、学生も興味があるとは限らないんです。

だから、学生にどうやって興味を持ってもらうのか、そのきっかけを必死に考えて作らなくてはいけないんです。

そうやって「本当に外国人に興味を持った学生」を一人でも多く輩出するために、我々は日夜プログラムをブラッシュアップして、かれこれ5年になります。だいぶ磨き抜かれてきましたよ