「心の病」による労災認定者、過去最高に 認定される基準は?

過労や仕事のストレスでうつ病などの「心の病」となり、労働災害(労災)と認定された人が過去最多になった。労災に認定される基準はどのようなものがあるのか。
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Man, young executive sitting in deep thoughts, stressed up and working late in the office environment.

過労や仕事のストレスでうつ病などの「心の病」となり、労働災害(労災)と認定された人が過去最多になった。2014年度は497人で、前年度に比べて61人増加。このうち過労自殺(未遂含む)は99人だった。労災の申請者も1456人(前年度比47人増)で、1983年度からの統計史上、最多となった。6月25日、厚生労働省が発表した

精神疾患で労災認定された人の発症原因は、「悲惨な事故や災害の体験・目撃」が72人で最多。「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の69人、「月80時間以上の時間外労働を行った」の55人と続いた。前年度に最も多かった「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」は19人減り、50人となった。

一方で、労災とは認められなかったものの、労災の申請理由として多かったものには「上司とのトラブルがあった」、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」などがあった。

■精神疾患による労災認定の仕組みは?

精神疾患で労災認定されるには、

(1)うつ病や適応障害など、対象となる疾病を発病していること、

(2)発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷があること、

(3)業務以外の心理的負荷と個人的な要因による発病ではないこと、

3つの条件を満たす必要がある。

6カ月間に起きた業務による出来事についてはまず、「過度の長時間労働」や「強姦」など、特別な出来事があるかどうかを見たうえで、特別な出来事がなければ、業務上の出来事を客観的な評価を使って心理的負荷別に「強」「中」「弱」の強度に分類する。

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複数の出来事が原因とみられる場合は、総合的に評価。心理的負荷が「弱」と「中」の場合は労災認定が行われない。心理的負荷が「強」の場合は、さらに業務以外の出来事についても調査を行い、業務上の出来事が疾病の原因かどうかを判断する。

では、業務上のそれぞれの出来事について、心理的負荷はどのように「弱」〜「強」と判断されるのか。厚生労働省の具体的な基準の例をスライドショーで紹介する。

業務の出来事と心理的負荷の判断 具体例
上司とのトラブルがあった(01 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
・上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた
・業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような対立が上司との間に生じた

■「強」になる例\n業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ、その後の業務に大きな支障を来した

■「弱」になる例
・上司から、業務指導の範囲内である指導・叱責を受けた
・業務をめぐる方針等において、上司との考え方の相違が生じた(客観的にはトラブルとはいえないものも含む)
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
同僚とのトラブルがあった(02 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような対立が同僚との間に生じた

■「強」になる例\n業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ、その後の業務に大きな支障を来した

■「弱」になる例\n業務をめぐる方針等において、同僚との考え方の相違が生じた(客観的にはトラブルとはいえないものも含む)
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた(03 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅲ

■「強」である例
・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
・同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
・治療を要する程度の暴行を受けた

■解説
部下に対する上司の言動が業務指導の範囲を逸脱し、又は同僚等による多人数が結託しての言動が、それぞれ右の程度に至らない場合について、その内容、程度、経過と業務指導からの逸脱の程度により「弱」又は「中」と評価

■「中」になる例
・上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発言があったが、これが継続していない
・同僚等が結託して嫌がらせを行ったが、これが継続していない

■「弱」になる例
複数の同僚等の発言により不快感を覚えた(客観的には嫌がらせ、いじめとはいえないものも含む)
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
仕事内容・仕事量の大きな変 化を生じさせる出来事があった(04 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
担当業務内容の変更、取引量の急増等により、仕事内容、仕事量の大きな変化(時間外労働時間数としてはおおむね20時間以上増加し1月当たりおおむね45時間以上となるなど)が生じた

■「強」になる例
・仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増える(倍以上に増加し、1月当たりおおむね100時間以上となる)などの状況になり、その後の業務に多大な労力を費した(休憩・休日を確保するのが困難なほどの状態となった等を含む)
・過去に経験したことがない仕事内容に変更となり、常時緊張を強いられる状態となった

■「弱」になる例
・仕事内容の変化が容易に対応できるもの(※)であり、変化後の業務の負荷が大きくなかった(※会議・研修等の参加の強制、職場のOA化の進展、部下の増加、同一事業場内の所属部署の統廃合、担当外業務としての非正規職員の教育等)
・仕事量(時間外労働時間数等)に、「中」に至らない程度の変化があった
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
達成困難なノルマが課された(05 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
達成は容易ではないものの、客観的にみて、努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った

■「強」になる例
客観的に、相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあると予告された

■「弱」になる例\n・同種の経験等を有する労働者であれば達成可能なノルマを課された
・ノルマではない業績目標が示された(当該目標が、達成を強く求められるものではなかった)
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
ノルマが達成できなかった(06 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
ノルマが達成できなかったことによりペナルティ(昇進の遅れ等を含む。)があった

■「強」になる例
経営に影響するようなノルマ(達成できなかったことにより倒産を招きかねないもの、大幅な業績悪化につながるもの、会社の信用を著しく傷つけるもの等)が達成できず、そのため、事後対応に多大な労力を費した(懲戒処分、降格、左遷、賠償責任の追及等重いペナルティを課された等を含む)

■「弱」になる例
・ノルマが達成できなかったが、何ら事後対応は必要なく、会社から責任を問われること等もなかった
・業績目標が達成できなかったものの、当該目標の達成は、強く求められていたものではなかった
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
1か月に80時間以上の時間外労働を行った(07 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

(注)他の項目で評価されない場合のみ評価する。

■「強」になる例
・発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
・発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった

■「弱」になる例
・1か月に80時間未満の時間外労働を行った
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った(08 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
平日の時間外労働だけではこなせない業務量がある、休日に対応しなければならない業務が生じた等の事情により、2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った(1日あたりの労働時間が特に短い場合、手待時間が多い等の労働密度が特に低い場合を除く)

■「強」になる例
・1か月以上にわたって連続勤務を行った
・2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行い、その間、連日、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行った(いずれも、1日あたりの労働時間が特に短い場合、手待時間が多い等の労働密度が特に低い場合を除く)

■「弱」になる例
・休日労働を行った
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にも当たった(09 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅲ

■「強」である例
・会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス(倒産を招きかねないミス、大幅な業績悪化に繋がるミス、会社の信用を著しく傷つけるミス等)をし、事後対応にも当たった
・「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミス」とまでは言えないが、その事後対応に多大な労力を費した(懲戒処分、降格、月給額を超える賠償責任の追及等重いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化した等を含む)

※「弱」又は「中」はミスの程度、事後対応の内容等から評価
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
会社で起きた事故、事件について、責任を問われた(10 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「中」である例
立場や職責に応じて事故、事件の責任(監督責任等)を問われ、何らかの事後対応を行った

■「強」になる例
・重大な事故、事件(倒産を招きかねない事態や大幅な業績悪化に繋がる事態、会社の信用を著しく傷つける事態、他人を死亡させ、又は生死に関わるケガを負わせる事態等)の責任(監督責任等)を問われ、事後対応に多大な労力を費した
・重大とまではいえない事故、事件ではあるが、その責任(監督責任等)を問われ、立場や職責を大きく上回る事後対応を行った(減給、降格等の重いペナルティが課された等を含む)

■「弱」になる例
・軽微な事故、事件(損害等の生じない事態、その後の業務で容易に損害等を回復できる事態、社内でたびたび生じる事態等)の責任(監督責任等)を一応問われたが、特段の事後対応はなかった
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
退職を強要された(11 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅲ

■「強」である例
・退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、執拗に退職を求められた\n・恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された
・突然解雇の通告を受け、何ら理由が説明されることなく、説明を求めても応じられず、撤回されることもなかった

※「弱」又は「中」は、退職勧奨が行われたが、その方法、頻度等からして強要とはいえない場合には、その方法等から評価
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)
悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(12 of12)
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平均的な心理的負荷の強度:Ⅱ

■「強」になる例
・業務に関連し、本人の負傷は軽度・無傷であったが、自らの死を予感させる程度の事故等を体験した
・業務に関連し、被害者が死亡する事故、多量の出血を伴うような事故等特に悲惨な事故であって、本人が巻き込まれる可能性がある状況や、本人が被害者を救助することができたかもしれない状況を伴う事故を目撃した(傍観者的な立場での目撃は、「強」になることはまれ)

■「中」である例
業務に関連し、本人の負傷は軽症・無傷で、「強」の程度に至らない悲惨な事故等の体験、目撃をした

■「弱」になる例
業務に関連し、本人の負傷は軽症・無傷で、悲惨とまではいえない事故等の体験、目撃をした
(credit:厚生労働省「精神障害の 労災認定」より)

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