「共働きなら、2人だけで家事育児はしない」ハウスキーパーは当たり前? シンガポールの子育て事情

海外の働くパパやママは、どのように日々の家事や育児をしているのだろうか。海外のハウスキーパー事情について話を聞いた。
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Scott Halleran via Getty Images
SINGAPORE - MARCH 09: A view of the Merlion and the Singapore financial district near the Singapore River on March 9, 2015 in Singapore. (Photo by Scott Halleran/Getty Images)

海外の働くパパやママは、どのように日々の家事や育児をしているのだろうか。

「アメリカやアジアでは、小さい子どもがいる中流の共働き家庭でハウスキーパーやナニー(乳母)を雇うのは珍しいことではありません」と話すのは、家事代行マッチングの「タスカジ」を運営するブランニュウスタイルの和田幸子・代表取締役社長。

家事スキルを生かして仕事を探したい人と、家事代行を依頼したい人をマッチングするプラットフォーム「タスカジ」で、特に人気が高いのは外国人ハウスキーパーだ。タスカジには、日本人女性だけでなく、日本人との国際結婚や、夫の日本赴任・留学などの理由で、日本に住む外国人が多く登録しているという。彼らは、子供が幼少期から異文化交流を体験することができるという理由で、依頼者たちにも歓迎されている。

今回はタスカジの取り組みを紹介した前編に続き、2015年3月にシンガポールを視察した和田さんと、タスカジで働くフィリピン人女性に、海外のハウスキーパー事情について話を聞いた。

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■「共働きなら、2人だけで家事育児はしない」が前提

——3月にシンガポールに行かれたそうですが、現地の子育て世代はいかがでしたか?

シンガポールには、ハウスキーパー文化がすごく根付いているので、どういった背景があるのかリサーチに行ってきました。ハウスキーパーさんをお願いしているシンガポール人と日本人の家を訪問してお話を聞いて、実際にハウスキーパーさんのお話も聞かせてもらって。現地の(ハウスキーパー専門の人材)エージェントの話も聞いてきました。

シンガポールでは基本的に、共働きで小さいお子さんがいる家庭は、高い割合でハウスキーパーさんを住み込みでお願いしています。介護が必要な両親と一緒に住んでいる方もハウスキーパーさんを雇っているみたいですね。

シンガポールでは、政府の発信するメッセージレベルで「仕事をしながら、2人だけで家事育児をするのは無理ですね」というのが大前提のようです。誰に聞いてもそうでしたね。「仕事していれば、家事はやりません」とみんな言っていました。

基礎情報として、シンガポールはすごく小さな国です。東京23区と同じくらいの大きさで、人口はハウスキーパーさんなどの外国人を含めても東京23区より少ない約540万人です。

——実際にご家庭訪問されていかがでしたか?

ハウスキーパーさんが住み込みでいる家庭は、子供の面倒から料理、家事など幅広い範囲をお願いしていましたね。料理が好きな人は自分でやったりもするみたいですけど、基本的には、子供のケアや家事の大部分をやってもらっているケースが多いようです。私が訪問したご家庭では、ハウスキーパーさんを家事・育児のパートナーとして捉えて、うまく人間関係を構築することに力を注いでいました。

シンガポールは保育代が高いため、保育園に行かせず、ナニーに子供の面倒を任せるケースもあります。ちなみに、シンガポール人がハウスキーパーさんを雇うと政府からの優遇があるので毎月5〜6万円ですが、外国人だと約10万円ほどかかるみたいです。

■「仕事をするのが自分の役割」という女性たち

——共働き家庭の夫婦は、家事育児をほとんどしていないのでしょうか。

そうでしたね。仕事で社会に貢献することが、高等教育を受けた自分たちの役割だという言い分でした。(家事育児の役割分担は)女性の仕事という感じもなかったです。平日の夜も、ハウスキーパーさんが子供を寝かしつけている間に、夫婦で友だちと食事に行ったりもするみたいです。

シンガポールは「日本と同じハードワークだよ」という声も聞きましたし、「日本よりドライに早く帰っちゃう」という声も聞きました。業種によるのかなと思います。ただ、“残業をよしとする文化”っていうよりは、“アウトプットをすごく大事にする文化”のようです。華人の人も多いですし、ワークライフバランスというよりは、経済的な成功が重要という価値観があるのかな、と。

——成果や生産性を求められる。それは昔からの価値観だったのでしょうか?

私がお会いした30代のシンガポール人女性は、「お母さんは専業主婦だった。家事は全部していた」と言っていましたね。「ただ、自分たちの世代は、そういう価値観全くないね」と。

2015年3月に(シンガポール建国の父)リー・クアンユー初代首相が亡くなりましたが、資源の少ない国で経済発展を持続させるために、政府がガラッと価値観を変える政策を打ってきたんでしょうね。

「女性でも高い教育を受けた人は、家事をやっていてはダメです」と。「外に出て、もっと広い社会に寄与する仕事をしなさい。それがあなたたちの仕事だよ」と。そんなメッセージを発信していったようです。

だから、日本のように(働いたり専業主婦をしたりと)いろんな選択肢があって、好きなように選んでいいというわけではなくて、(家にいると)「何やってるの? なまけてるんじゃないよ」という感じになるそうです。男性も、女性に対して「あなたは教育を受けているんだから、ちゃんとお金稼いできてね」というみたいです。そこまで画一的な価値観を強いられると、それはそれで大変そうですけどね。

■世界で活躍するフィリピン人のハウスキーパー

——ハウスキーパーについて、印象的だったことは?

フィリピンの人に、(ハウスキーパーとして働くなら)「どこの国に行きたいか」をアンケートした調査結果があるんですが、1位は香港だそうです。次にシンガポール、その次にマレーシアだったんです。高いお給料を出してくれる国が人気なんですね。

あとはサウジアラビアとか、ドバイのあるアラブ首長国連邦(UAE)とか、台湾などの選択肢があるみたいです。

フィリピンでは政府がハウスキーパーさんの最低賃金を決めているのですが、世界中でハウスキーパーさんの需要が増えてきているので、フィリピン政府も交渉力を持ってきていて。価格は少しずつ値上がりしている状況だそうです。今後、各国との経済格差が小さくなってくると、現在のような経済格差を利用した安い労働力を確保は難しくなってくるので、その点はシンガポールの今後の課題といえるのかもしれません。

ハウスキーパーさん個人レベルでも、それぞれ行きたい国があります。国によっては、高い給料をアピールしたり、その国の魅力を伝えていったりしないと、ハウスキーパーさんが来てくれなくなるという懸念もあるようです。

■3LDKの家にハウスキーパーの寝室と専用のトイレ・シャワー

——シンガポールの住環境は、東京都心と似ていますか?

すごく似てますね。地下鉄が走っていて、バスもびゅんびゅん走っていて、どこにでも気軽に行けるので、とても便利です。

国も街も小さいので、東京並みに小さな家に住んでいる感じです。ただ、ちょっと大きめの3LDKのマンションだとハウスキーパーさん用の部屋がついていました。そういう間取りなんです。

——ハウスキーパーさんの部屋、どんな部屋でしたか?

キッチンの横に、シングルベッドが入るか入らないかくらいの小さな部屋がありました。おふとんを敷いて寝ている場合もありましたね。

あとは専用のシャワーとトイレもあって。なかなか狭いスペースなので居心地はどうなんだろうと心配になりましたが、一応の寝室とバストイレがハウスキーパーさんのために揃っていました。一昔前は、(ハウスキーパーさんのスペースは)もう少し広かったみたいですけど、最近は住宅事情の問題でどんどん小さくなってしまっているみたいです。

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シンガポールのハウスキーパーの寝室

■東南アジアから出稼ぎ感覚で来る

——ハウスキーパーはどの国から来ているのでしょう?

住み込みのハウスキーパーさんは、ほとんど海外から来ています。多いのはフィリピンとインドネシア。スリランカやミャンマーからも来ています。

住み込みでないパートタイムのハウスキーパーさんも一部いますが、その場合は、みんなシンガポール国籍保持者です。シンガポールでは、ハウスキーパーとして受け入れられた外国人労働者は、必ず住み込みで働かなければならないそうで、パートタイムで働いているのが見つかったら強制送還になるそうです。

シンガポールの人の約70%は華人で、その人たちは主にフィリピン人を雇っているみたいです。マレー系の人も約20%いて、その人たちはイスラム教なのでインドネシアの人を雇います。宗教の相性もあるみたいです。

ハウスキーパーさんのエージェントがあって、海外から来るハウスキーパーさんをマッチングしています。街のショッピングモールにいくつか紹介所があって、ハウスキーパーさんが座って待機していました。日本人の感覚からするとあまり見かけない光景で驚いてしまいましたが。

——複数の国から、シンガポールに来ているんですね。

政府が細かくルールを決めて就労ビザをコントロールして、ハウスキーパーさんを受け入れています。シンガポール政府は驚くほどドライで、必要な時に必要なだけ人を受け入れて、必要でなかったら(母国に)帰す、というふうにコントロールしています。家族(夫や子供)は一緒には来られないですし、もしシンガポールで妊娠したら強制的に帰国させられてしまいます。

ただ、現地の人やハウスキーパーさんたちは、Win-Winの関係だと思っているようです。住む場所と食事があって、それ以外のコストが全然かからないので、ちゃんとお金を貯めて送金できるということで。たとえばフィリピンで働いていたら月給4万円でも、シンガポールで働くと月給5〜6万円。みなさん、出稼ぎの感覚で来るみたいです。

■外国人ハウスキーパーによる家事支援の可能性

——シンガポールを視察されて、日本に生かせると感じたことはありますか?

妻や母だからといって、必ずしも家事や育児をすべて背負う必要はないという価値観が、たった一世代で浸透したという話を聞いて、日本の女性たちの未来にも希望が持てました。

しかし、日本の住環境では、シンガポールのように住み込み前提でハウスキーパーさんを海外から受け入れるといった類の話は難しいと思います。現在も外交官や一部の駐在員の家などでは、住み込みで働く外国人ハウスキーパーさんもいますが、彼らは帯同ビザで来日しているので、その家以外で働くことは禁止されています。

——日本では現在、外国人のハウスキーパーは、外交官や特定分野の高度人材の使用人としての雇用に限られているんですか?

いえ、帯同ビザで来日しているハウスキーパーが、そうだということです。今の日本では、家事代行は「general labor」(単純労働)に分類されていて、単純労働するためだけのビザは発行されてないんですね。なので、「何でも働いてもいい」という(就労制限のない)ビザを持っている人じゃないとハウスキーパーとしては働けない。

永住権を持っている人や、留学生、在留外国人の家族などは働けます。タスカジに登録する際には、身分証と、外国人であれば就労ビザの確認が必須なので、働いている外国人は、留学生や日本人と結婚してる方が一番多いです。留学生の妻という人もいます。

——家事代行サービスを提供する会社が外国人を採用するケースと、タスカジさんのように個人と個人をつなぐ家事代行マッチングがありますが、外国人の方を受け入れる上で、大切なことは何でしょうか?

最近、安倍政権が議論を進めて話題になっている外国人家事支援人材制度は、基本的には前者の話で、家事代行サービス会社が就労ビザをサポートし、新たに海外から労働人材を受け入れて雇用するというような議論が中心です。タスカジに登録している外国人は、すでに日本に住んでいてアルバイトを探している人たちなので、実際この制度が直接当社に与える影響というのはほとんどありません。

大手の家事代行業者さんたちが、きちんと政府と議論を進めている最中でしょうから、私が外野から口を挟むのは恐縮ですが、どこの会社も人手不足とは聞いているので、外国人を受け入れることで家事代行に従事する人材の供給量が増え、より多くの家庭が家事代行サービスを利用できるというメリットはあると思います。

一方で、タスカジでもそうですが、高いクオリティを求める日本の家庭に満足してもらえるようにハウスキーパーを指導するのは、言語や育ってきた文化が違うだけに、日本人より外国人の方が難しいんですね。派遣型モデルの家事代行業者さんは、我々以上に丁寧な研修を徹底していますから、その分マネジメントコストが大幅にアップするはずです。そうなったときに採算が取れるのかは、正直疑問です。

帳尻を合わせるために、外国人ハウスキーパーさんたちの給与や待遇を不当にディスカウントする悪質な業者が出てこないよう、しっかり法を整備する必要があると思いますね。逆にビザを持たない人の不法就労をチェックして取り締まる仕組みもきちんとしておかないと、ヤミ業者などが出てくるリスクもありそうです。

——外国人ハウスキーパーを受け入れるための法整備は重要ですね。

これは外国人ハウスキーパーさんに限ったことではないんですが、家事代行サービスを利用する方々には、ハウスキーパーさんを均一的なサービスを提供する労働者というより、一緒に成長していくパートナーだと思って接して欲しいと思っています。ハウスキーパーさんは、家事を共に分担するチームなんですね。

最初からすべて完璧な思い通りには動いてもらえなくても、フィードバックを伝えてコミュニケーションを重ねていくことで、最強のチームになれます。やはり人と人ですから、対話は有効です。それが外国人であっても、億劫がらずにしっかりコミュニケーションを取ることが大切だと思います。

そういう意味でも、経済格差を利用して安価に家事代行をしてもらうということではなく、日本人も含め、国内に潜在的に眠っている家事支援人材を掘り起こし、依頼者と従事者の両方が幸せになる仕組みを、ビジネスモデルを通じて実現することを、私は目指していきたいと思っています。

………

■タスカジで働く女性に聞く、フィリピンの子育て事情

続いて、和田さんの家にハウスキーパーとして訪れていたフィリピン人の女性に話を聞いた。彼女は、約35年前に来日し、日本人男性と結婚。夫と死別後も日本で2人の子供を育て、現在は仕事をしながらタスカジにも登録しているという。今日も初めて使うキッチンで、手際よくフィリピンの料理を作っていた。

和田さんによると、タスカジで働くハウスキーパーは、日本人と結婚して日本で子育てしている女性も多いという。

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和田さんの家で料理を作るハウスキーパー

——日本に来て、何年になりますか?

日本に来て、もう35年くらいになりますね。18年前に、夫はがんで亡くなったんです。その後、神戸から東京に引っ越してきました。妹ふたりが東京にいたので。

——お子さんは?

2人いて、どちらも働いています。息子は航空会社で働いていて、娘はフィリピンで自分のお店をやっています。

■子育て世代の家事育児「2人でタイムマネジメント」

——子育て世代の家事や子育て、フィリピンと日本では違いますか?

フィリピンの人は、家事がみんな上手ですね。ハウスキーパーさんがいる家も多いです。ハウスキーパーさんがいない家でも、夫婦2人でタイムマネジメントを頑張っています。奥さんと旦那さんの2人でやる。誰が洗濯をして誰が掃除をするか、2人で決めるんですよ。

料理は、ほとんど旦那さんがやってくれますね(笑)。仕事行く前に夜ごはんを作っています。そうね、みんな朝に(夜ごはんを)作っています。朝作った料理が冷蔵庫に入っていて、先に帰ってきた方が準備をします。2人とも働いているときは、夕方洗濯したりして夜に家事していますね。

——2人のタイムマネジメントなんですね。

2人のコンビネーションとタイムマネジメントです。ハウスキーパーさんがいない人は、アメリカでもそうしていますよね。(ハウスキーパーさんがいなくても)子供のことが気になってベビーシッターをお願いする人が多いですね。

——ハウスキーパーとは別に、ベビーシッターをお願いするんですね。

そうそうそう。(保育園に)迎えに行くとか、子供の食べものを準備したりとか。仕事で帰るのが遅くなっても、子供だけはきちんとケアできます。ベビーシッターは必要ですね。

——家事育児が女性の負担になっていない?

全然ないですね。フィリピンは女性だけでなく、男性もすごく家事ができるんですよ。変な話ですが、ヨーロッパの人たちもハウスキーパーに(家事スキルが高い)フイリピン人を希望するんですね。

■ハウスキーパーは、自分なりのペースでできる仕事

——今は、空いてる時間でタスカジをしているんでしょうか?

そうですね。自分の空き時間をカレンダーに登録できるんですよ。お客さんからのオーダーが多くてびっくりしました(笑)。

——タスカジを始めて1カ月だそうですね。実際にやってみていかがでしたか?

いろんな家庭があるから、決まっていることが違ったり、道具がなかったりして大変ですよ。いろんな家庭があるから簡単ではないです。

でもハウスキーパーは、フィリピンでは普通のことだから、やりやすいかなと思って。他の仕事よりマイペースに自分のやりかたでできますよね。会社だったら、スキルも人間関係も大変じゃないですか(笑)。慣れてない場合は、こう仕事もいいのかなと思います。

——もし日本でもビザが緩和されたら、フィリピンの方は日本に来るでしょうか?

まず言葉の問題があるけど、フィリピン人は言葉は関係ない。みんなちゃんとした仕事があれば、どこでも行きますよ。フィリピン人はアジャストメント(調整力)がすごいですから。

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この日、ハウスキーパーが作った夕食。フィリピンの煮込み料理とサラダ、味噌汁

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