シドニーパラリンピック「替え玉事件」から20年。今こそ問う、真に「勝つ」とは?

知的障害バスケットボールチームの成長を描くスペイン映画『だれもが愛しいチャンピオン』。この作品を観る前に、知って欲しい背景があります。
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映画『だれもが愛しいチャンピオン』
© Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica Audiovisual Digital SLU, RTVE

障害のある人との接点が少ない人にとって、障害者のスポーツやパラリンピックをポジティブにイメージすることは難しいかもしれない。

また、自分が何らかの障害あるいは信念をもっていることで、社会と関わりがもちづらいと、自分だけでなく障害のある他人にもネガティブを感じ、批判したり、遠ざけたりしてしまうかもしれない。

しかし、そんな状況からふと目を覚まし、障害のあるなしにとらわれない自由や、人間の豊かさや、密かに抱く苦労や温もりに触れ、分かち合うときがもうすぐ訪れるかもしれない。

ゴヤ賞3部門を受賞、国内興行成績1位を記録したスペイン映画『だれもが愛しいチャンピオン(原題:CHAMPIONS)』が、12月27日に日本で公開される。

10人の知的障害のある俳優がメインキャストという映画は、史上初ではないだろうか。バスケットボールチームとプロ指導者との出会いと成長を描いたヒューマン・コメディ作品は笑いにあふれている。 

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映画『だれもが愛しいチャンピオン』
© Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica Audiovisual Digital SLU, RTVE

知的障害のある俳優が人生経験を生かして主役を演じる

「障害を笑うのか⁉︎」と心配するかもしれない。そう、おもいっきり笑いを解禁して良いだろう。ただし、何をどんな風に笑うのか。それはまた別の問題だ。

社会常識を異に生きてきたもの同士が集まり、チームという概念そのものを、相手に合わせて問い直し、お互いが成長することで、新しい、真に強いチームを築く物語である。

すでに多くのメディアが「ユーモアのセンス抜群!」「タブーを打ち破る社会現象」と絶賛している。来年パラリンピックを控えた東京で、いままさに観るにふさわしい作品といえる。ハビエル・フェセル監督を始め、キャスト、プロデューサーほか、日本で携わる人々も日本社会への貢献に大きな期待を寄せている。

この映画がスペインで大ヒットした理由について、プロデューサーのルイス・マンソ氏は「まずコメディとして面白いこと」と答えていた。

何より10人の知的障害のある俳優が人生経験をそのまま生かし、主役を演じているところは流石に迫力がある。脚本は600人の応募者から選抜された10人の個性に合わせて当て書きされている。

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映画『だれもが愛しいチャンピオン』
© Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica Audiovisual Digital SLU, RTVE

映画の中で、知的障害バスケットボールチーム「アミーゴス」は、優秀な監督と出会い、ともに「勝ち」を追及し成長する。プロの指導者がダメなチームメンバーを導いていくかのようで、実は、その逆である。

たとえば、彼らの間ではありふれたジョークでも、健常者目線のコーチには初めてのことばかり。この出会いに優劣はない。お互いにとって対等なラッキーチャンスなのだ。独特で、予測不可能なユーモア感覚が飛び交うなかで、見る人々もつい大声で笑い「ポジティブ・スイッチ」を押してしまうのだ。

ロマン選手に込められた、パラリンピックの暗い記憶

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映画『だれもが愛しいチャンピオン』ハビエル・フェセル監督
PARAPHOTO/森田和彦

 フィクションを楽しみたい人には無粋な話かもしれないが、この映画の背景には、スポーツの歴史において無視することのできない重要なある事件がある。それはシドニーパラリンピック(2000年)で起きた「スペイン健常者替え玉事件(=以下、替え玉事件)」だ。

替え玉事件とは、シドニーパラリンピックでの知的障害クラス詐称事件のこと。

オリパラが一つの運営組織になろうと歩みを始めたそのとき、スペインの知的障害バスケットボール代表選手12名のうち10名に障害がなく、趣味でバスケットボールをやっていた健常者が参加し不正に金メダルを獲得した。容疑はすぐに明らかになり、IPC(国際パラリンピック委員会)はスペインの金メダルを剥奪した。

当時の知的障害のクラス分けは参加国に委ねられ、スペインの組織ぐるみの犯罪が内部告発により暴かれたが、同時に知的障害選手の資格基準を整えるまで(知的障害の)全種目でパラリンピックへの参加が見合わされることとなった。

巻き込まれた選手たちは今、どうしているのか? 事件後20年もの間、手付かずだった疑問を『だれもが愛しいチャンピオン』のハビエル・フェセル監督と、さらに、日本代表の知的障害バスケットボール監督にぶつけた。

監督曰く「映画よりも現実のほうが悲惨だった」

映画には、「ロマン」という一人だけ飛び抜けて競技レベルの高い人物が登場する。替え玉事件において、実際に障害を持っていた2人のうちの1人、ラモン・トレース・ソトがモデルだ(ラモン選手は、劇中で敵方の選手として特別出演している。ユニフォームに“RAMON”とあった)。

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映画『だれもが愛しいチャンピオン』ハビエル・フェセル監督
PARAPHOTO/森田和彦

ーー「ロマン」という登場人物については、当初から脚本に記されていたということですが、モデルとなったラモン選手は、映画製作にあたって何かコメントをされていますか?

「過去の事件について彼自身がよく理解していない可能性はありますが、スペイン替え玉事件で不正に巻き込まれメダルを剥奪された事を、彼はまったく恨んではいませんでした。得られるはずであった援助を失ったことは彼にとって大きなことだったにも関わらずです」(ハビエル・フェセル監督)

裁判では資格詐称に至った理由について「社会貢献をしているという認識」「世界的な大会で優勝することで、障害者団体に莫大な資金が集まり障害者のためになる」「他国チームでも強化、またパワーバランスのために障害者、健常者の混合チームで構成されているのはあたりまえだという認識だった」などと語られたが、いずれにせよ当時のスペイン障害者スポーツ協会ぐるみの不正には違いなかった。

その影響がスペインの首謀者だけではなく、世界中で頂点を目指す知的障害の選手、競技のスタッフ全体に及んだ影響はどのようなものだったのか。我が国も8カ国中8位ではあったが、パラリンピックに初出場した日本代表選手がいた。

現在も知的障害バスケットボールの日本代表チームを指導する小川直樹ヘッドコーチは、この映画の完成のニュースに「スペイン映画だと聞いて戸惑った」と話していた。

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知的障害バスケットボールの日本代表チームを指導する小川直樹ヘッドコーチ
写真提供:小川直樹

史上最大のスキャンダルなのに報道が少なかった理由

当時、小川監督と日本代表チームはシドニーから帰国して数日後に事件のことを聞かされたという。

「コートでスペイン代表チームと闘った。格がまったく違い、お手上げだった。なかでも判断力は健常者並みであると感じた。シュートはわざと失敗することが出来ても、プレーにおける瞬時の判断までを演技することは出来なかったのだろう」と、実際に対戦した感想を話してくれた。

4年後を目指せなくなった日本の選手たちは実在し、今もバスケットボールに励んでいるが、パラリンピックへの復帰は目処が立っていない。

「“代表チーム”というステータスの高いところでプレーできることは、知的障害者がバスケットボールを通じて荒波の社会の中で生き抜く力を学ぶことでもある」と小川監督はいう。

当時の決定を行ったIPCといえば、近年では、リオパラリンピック(2016年)ドーピング違反問題で「ロシア選手の全面的出場停止」というオリンピックよりも厳しい判断を下したことが記憶に新しい。会長を務めていたのはフィリップ・クレーヴァン氏(元車いすバスケットボール選手、イギリス人)で、重要な決定に関わる判断を行った。リオでその任期を終えるとき、(ドーピング問題への制裁について)記者の質問につぎのように話してくれた。

「オリンピックが質の高いスポーツを築き、パラリンピックはさらにそれを高めていく。しかし、金メダルや、代表選手になることが目的ではない。障害のある人が自由な人生を選択をできること。誇りをもって生活できる社会を目指している」と。

パラリンピックという国際的なスポーツの祭典における史上最大のスキャンダルであるにもかかわらず、当時日本で、さらにはスペインでさえも報道はきわめて少なかった。なぜなら、世界のメディアや批評家は障害者のスポーツを、スポーツとみていなかったからだ。

ーー替え玉事件から20年、今あらためて問いたいことは?

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映画『だれもが愛しいチャンピオン』
© Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica Audiovisual Digital SLU, RTVE

「替え玉事件については私もマルケスの脚本を読むまで知らなかった。一部の人々による恥ずべき事件だと思う。

事件や、パラリンピックについて、日本で報道が少なかったということだが、スペインでも同じだった。私も、知らなかったけれども、知れば知るほど、オリンピックよりもずっとパラリンピックのほうが面白い。いろんなストーリーがあるということがわかった。

この映画に多くの人が足を運び、高い評価を得たことで、これまで見えなかった彼らの世界がとても柔軟で新しい発見に出会える価値のあるものだと、スペインの人に気付いてもらえたと思っています」(ハビエル・フェセル監督)

近年、スペインでは障害者の人権や共生に対する意識が高まってきたという。この映画がブレークするための素地ができつつあったと監督はみている。

日本でも来年のパラリンピック種目を始め障害のある人のスポーツを「パラスポーツ」と呼んで、この機会に広めようとしている。この映画によりスペインのような社会現象を起こしていくには、IPCの試行錯誤の取り組みや、替え玉事件のようなスキャンダルを含め注目し、競技、スポーツとして捉え、真に「勝つ」ということとは何か。障害の有無を超えて考えたい。

(編集協力:佐々木理佐)