グローバル化の波は保育園にも。多言語化にツールで立ち向かえ!

異なる言語を母語とする保育園スタッフと入園希望者。会話の「入り口」と「安心感」をどう作りあげるか。
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2020年を迎え、ますます高まるオリンピックムード。世界中の人が日本に集まってくるのに備えて、商業施設や公共機関でも多言語対応の場所が増えているのを肌で感じます。

 

5年で2万人超増加!外国にルーツを持つ子どもたちが増えている

街で見かける外国人は、観光客だけではありません。ここ数年で日本で暮らす外国人の数は急増しています。2018年末時点で、日本で暮らす外国人は273万人を超えています。法務省在留外国人統計より)

それに伴って、日本で暮らす、外国にルーツを持つ子どもたちの数も増えています。以下のグラフは、在留外国人のうち、0~5歳の乳幼児の数の推移を表したものです。2014年から2018年のわずか5年間で、21,000人以上も増えていることがわかります。

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0〜5歳の在留外国人・乳幼児数
駒崎弘樹さんの公式HPより転載

 保育園にもグローバル化の波

フローレンスが運営する認可保育所「みんなのみらいをつくる保育園」や、小規模認可保育所「おうち保育園」にも、外国にルーツをもつ親子が増えています。

ある園での事例をご紹介します。

 

お互いの言葉が分からず、電話で無言に…前途多難なスタート 

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今年度「おうち保育園」に入園したHちゃんは、サウジアラビア人。ご両親の母語はアラビア語で、英語が少しだけ話せます。

入園当初は、スタッフもコミュニケーションに高い壁を感じたそうです。

はじめの壁は、入園内定時の電話。

受話器の向こうから聞こえてきたのは、困惑した様子のアラビア語。ジェスチャーも表情も読み取れない電話のなか、お互いがなにを言いたいのか、どうやって伝えたらいいのかが全く分からない――

しばらくの無言のあと、電話は切れてしまいました。

「どうしよう…」スタッフが困惑していたところ、Hちゃんのお母さんの友人で、日本語を話せる外国籍の方から折り返しの電話があり、やっと最初の面談を調整できました。スタッフにとっても、衝撃のスタートでした。

 

言語の壁にツールで立ち向かう!親子と共に試行錯誤の日々。

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PCH-Vector via Getty Images

Hちゃんの入園に伴い、園も急いで外国語に対応する必要がありました。そこで、園では携帯型の自動翻訳機「ポケトーク」を導入。スタッフが日本語で話した言葉を、ポケトークで外国語の音声と文字に変換し、親御さんに伝えます。

入園時には親御さんに説明すべきことがたくさんありました。ポケトークだけでは限界があるため、外国語が話せるスタッフにも通訳に入ってもらいながら、園での生活がスタートしました。

現在は、主にお迎え時のコミュニケーションや連絡帳への記入の際にポケトークを活用しています。

「全ての会話でポケトークを使っているわけではありません。でも、こういったツールがコミュニケーションの土台となってくれています。いざとなったらポケトークがある、という安心感も強いです。今は、親御さんのほうから日本語でものごとを伝えてくれることも増えました。」と園スタッフ。

また、ポケトークを使用することで、他の保護者のみなさんとの会話のきっかけにもなっているようです。

「別のご家庭の例ですが、ポケトークを使用しているのを見た保護者さんが、遠足や保護者会などの機会で、率先して通訳に入ってくださることもありました。親御さん同士のコミュニケーションの入口にもなっているようです。

 

違うのは言葉だけではない。保育園で異文化を理解する

ことばの壁はツールで解決しましたが、その他にも様々な場面で文化の違いを感じることがあったそうです。

例えば、おやつや昼食での食に対する配慮。例えば、Hちゃん一家はイスラム教徒で、食事においては、豚肉やアルコールを除いたハラル食を提供する必要があります。

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Zufar Kamilov via Getty Images

「調味料で使うみりんや、ショートニングも使うことはできません。固形の豚肉だけではなく、エキスとして入っているものもNGです。そういった食文化の違いも、実際に関わらないと分からないことでした。『こんなところにも使われているのか』とポジティブな気付きがたくさんありました。

他にも、子ども同士のけんかで頭を触られた時の対応(イスラム教では、頭に触れることは侮辱とみなされる)や、ピアスの着用など、さまざまな場面で日本とは異なる生活習慣や価値観に触れ、そのたびに丁寧な対話を繰り返しています。

小さな違いも丁寧に拾い上げ、理解しあえるのは小規模保育のいいところですね。保育園という小さな世界の中でも、グローバル化を体感しています。日本人だけの空間では『あたりまえ』と思っていたことでも、世界的には常識ではなかったりすることに気付きました。自分たちの『あたりまえ』をちょっと外してみて、お互いを知り、出来ることは対応する。日本に住むからといって、全てを日本の文化に合わせてもらう必要はないと考えています。」

ツールはあくまでもコミュニケーションのきっかけ。大事なのは、「みんな違ってあたりまえ」ということを認識し、お互いを尊重しあう心です。

小さな保育園の中で、たくさんの文化や価値観に触れることで、園に通う子どもたちだけではなく、親御さんや園のスタッフにとっても、貴重な学びの機会になっているようです。

 

多様性の時代を生きる力を育む

これからの時代には、いろいろな考えや文化的背景を持った人との関わりや、今はまだない新しい仕事など、誰も経験をしたことのない世界が待っています。

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私たちは、保育を通して、そんな変化の激しい世界の中でも、お互いを尊重しながら自分たちの未来をつくっていける力を育みたいと考えています。

同時に、保育を提供する私たちも、それぞれの家族に合わせ、時にはツールを活用しながらよりよい形の保育を常に考えています。保育園が「親子の安心基地」になるように、これからも一人ひとりの親子に寄り添っていきます。

この記事は、2019年1月31日駒崎 弘樹ブログ「グローバル化の波は保育園にも。多言語化にツールで立ち向かえ!」より転載しました。