9割強の女性たちが「両立不安」を抱える日本社会

モヤモヤは個人の問題ではなく、社会問題である。
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ラシク・インタビューvol.102

スリール株式会社 代表取締役社長 堀江 敦子さん

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「メディアに出てくる女性たちはスーパーウーマンすぎて、無理そう。」「仕事と子育ての両立ができるかどうかが不安」。

LAXIC学生編集部の中でも、両立前の働く女性たちからもそれらの不安はよく耳にします。

今回、スリール株式会社が発行した「両立不安白書」によると、出産を経験していない92.7%もの働く女性が「両立不安」を感じているのです。92.7%と言えば、もうほとんどの女性たちが抱く不安と言っていいのではないでしょうか。一方で子どもを育てながら働きたい女性も約90%いるのです。

多くの女性たちが抱くモヤモヤの内容やその解決法、「両立不安白書」を発行した理由を、LAXIC学生編集部の大学生と共に、スリール株式会社の代表取締役である堀江敦子さんに伺いました。

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92.7%の女性が「仕事と子育ての両立」に不安を感じている

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スリール「両立不安白書」より

編集部:今回、両立不安白書を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

堀江 敦子さん(以下、敬称略。堀江):スリールを起業して7年間、全4カ月を費やす「ワーク&ライフ・インターン」は約700人以上の学生たちに参加してもらい、大学の講演なども含めると1万人以上の学生たちと接してきました。1万人以上の女性たちのモヤモヤを払拭できても、モヤモヤ女子はゾンビのように現れてくるんです。私たちが最終的に目指すことは、どんなライフステージにおいても、多様な選択肢の中から自分らしい選択ができる人を増やすことなのですが、仕事と子育ての両立という文脈の中では「不安だから諦める」という状況がまだまだあるなと思うんです。このままではモヤモヤ女子はどんどん増えていくだけなので、対処療法をするだけではなくて、根本的な予防が必要だと思いました。

両立不安が社会課題になっていないというところが一番の問題なんです。

子育てを機に仕事を辞める人が現在も60%いる中で、その理由は「女性たちの価値観の問題」とされているんです。女性個人も、自分の価値観と捉えていることが多いのですが、これを社会の問題と捉えていくべきだと思いました。そこでアンケートを取り現状を数字をもとに分析した「白書」という形にまとめました。

両立不安は個人の問題ではなく、社会問題である

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スリール(株)が行う「ワーク&ライフ・インターンシップ」の様子

編集部:今回の「両立白書」を拝見して、両立不安を社会問題だときちんと説明していることが、とても踏み込んでいるなと思いました。不安やモヤモヤは個人の問題と捉えられがちなので。

堀江:どうして両立不安が社会問題なのかと言うと、92.7%の出産を経験していない働く女性たちが両立不安を感じています。その人たちは仕事に対してどう思っているかと言うと、充実感を持っている人が80.3%、管理職も視野に入れている人が66.5%なんです。

一方で、家事も育児も女性の仕事だと感じている人は82.4%もいるんです。仕事も子育ても頑張りたいけれども、全部自分がやらないといけないと思っている。24時間しかないのに、無理やりやろうとするとスーパーウーマンになってしまう。それって無理だよね?と言うのがみんなの気持ちです。

ではどうして不安かと言うと、個人の価値観の問題ではなくて、いろいろな状況を見聞きしてなんですよね。社会人だと、会社の中での働き方や子育て中の社員をみたり、電車などの公共の場で子どもが泣く様子を見ている周囲の人をみて、そう感じるようになる。学生だとメディアの影響がほとんどです。

そして誰にも迷惑をかけたくないから何かを諦めなきゃいけないと思って、仕事を諦めると言う例が出てきます。ここまできちんと理解して、個人の問題ではなく、社会の問題であることを女性自身や会社・社会の問題として考えて欲しい。まずは女性自身には自分のモヤモヤがどうやって構成されているのか?と言うことをきちんと理解して欲しいのです。

学生編集部:大学生である私の周りでも「働きたい」という意思はありつつも、公務員を目指そうとか、一般職につこうという声がありますね。「育児も子育てもしなければ」という責任を感じているというか、 バリバリ働くためにまっしぐら・・・という女性は少ない気がします。

昔の子育て観にとらわれすぎないで

仕事・家事・子育ては、「みんなでやる」スタイルへ

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スリール(株)が行う「ワーク&ライフ・インターンシップ」の様子

堀江:親の時代と今は子育てのスタイルが大きく変わっていることも理解して欲しいです。昔は共働きが少ない中で、「鍵っ子はかわいそう」というようなイメージがあったかもしれませんが、今は学童に行っている子も多く、子どもたちは保育園でいろんな大人に愛されることで安心し、自立をしています。実態を知ると、単純に「子どもを預けることが子どもにとって悪いことなのでは」という固定概念は払拭されますし、いろんなサービスを使ってバリバリ働いていそうなママはスーパーウーマンではなく、実際は「拡大家族」という形で、他人を家族にしながら子育てしているんだということがわかってくると思います。

編集部:実際、固定概念に凝り固まった学生でも、ワーク&ライフ・インターンを経験すると意識が変わっていくものなのでしょうか?

堀江:180度変わっていきますね。インターンを経験した学生たちは「この経験がなければ、子育てのことを何も知らないまま大人になっていたと思うと、とても怖い」という意見をよく聞きます。

編集部:具体的にモヤモヤしている女子は、どうやって解決していけばいいのでしょうか?

堀江:まずモヤモヤがあることを認識した上で、それを一度取っ払って「自分はどうしたいのか」ということをもう一度見つめ直してみてください。「こうしなきゃいけないオバケ」を取っ払った上で、「キャリア」「プライベート」「周囲」の三本柱を整理してみて欲しいのです。「自分がどうしたいか」ということをクリアにした上で、どう周りを巻き込んでいくのかを考え、発信していくことでようやく動けるんです。ただ描いただけでは「こういう風になりたかったな」だったり「旦那が手伝ってくれない」とか「会社の制度がない」と何かしらを理由に諦めてしまうことになってしまうので。

編集部:白書の中では、いろんなタイプのワーキングマザーがいることも紹介されていますね。

堀江:ワーママとひとくくりに言っても、悩み方も多種多様ですよね。 みんな違う環境で違う思いを持っているわけですよ。「自分がどうしていきたいか」というキャリアの軸と、子どもの状況、周囲のサポート状況という三本軸の掛け合わせでワーママの状況があると思うのですが、この三本軸は人によって違うわけです。みんな悩んでいるけれども、その中で多い4タイプを白書では紹介しています。

抱え込むのではなく、頼ることで男性側にもメリットが

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代表の堀江敦子さん

編集部:ライフイベントについて考え悩んでいるのは女性が多いと思うのですが、同世代の男性にはどのように働きかけていけばいいのでしょうか。

堀江:「こうしたい」と彼に言うしかないと思います。イクメンになっているパパに話を聞くと、「奥さんが働き続けたい」と言うから・・・というきっかけも多いのです。女性は言わなすぎなんですよね。自分で抱え込むだけ抱え込んで、勝手に諦めているんですよ。「働き続けたいと思っているけれども、あなたはどうする?」と言うことをきちんと伝えていって欲しいと思います。

編集部:モヤモヤしている出産前から、カップルで建設的にライフイベントについて話し合っていくってとても大切ですよね。実際、子育てに直面してから、回らずに「やってよ!」と妻が怒って、何だかよくないスパイラルに・・・という例もよくあると思うので。

堀江:男性は男性でイクメンのロールモデルが少なく、女性たちがこんなに悩んでいることさえも知らなかったりするんです。ワーク&ライフ・インターンを経験した男性はキャリアをすごく考えるようになります。気持ちに余裕がある学生時代からキャリアについて長期的に考えることは男性にとってもいいことですよね。

また、女性は自分がやりたいことに他人を巻き込むことはいけないことなんじゃないかという意識が強すぎます。女性が仕事も子育ても全部抱え込むと、男性側もかわいそうなんです。家に居場所がない「フラリーマン」なんて呼ばれる男性も最近は多いですよね。男性も子どもと関わることによって、マネジメントにもプラスになりますし、共働きであることで、一人が学びたい時にはパートナーが家庭を支えると言うこともできるわけです。抱え込むのではなく頼っていくことは、男性側にもメリットがあるということをもっと知って欲しいですね。

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出産を経験する前の女性たちがモヤモヤするのは、もはや個人の問題ではありません。社会の問題なのだとしたら、「自分一人が諦めればいい」と思うのではなく、モヤモヤを解決しようと前向きに動いてみませんか。一人一人がモヤモヤを解決していくことが、そして周りの人たちが理解していくことが、社会問題を解決し、日本を変えていく大きな原動力になるのだと思います。

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【堀江 敦子さんプロフィール】

スリール株式会社代表取締役

日本女子大学社会福祉学科卒業 。 大手IT企業勤務を経て25歳で起業。

「働くこと」、「家庭を築くこと」をリアルに学ぶ「ワーク&ライフ・インターン」の事業を展開。経済産業省「第5回キャリア教育アワード優秀賞」を受賞。

現在は、"子育てしながらキャリアアップできる人材を育成する"為、若手女子向け・復職社員向け・また、管理職研修の一環として、リクルート、大阪ガス、京都府など企業や行政向けに人材育成事業を展開している。

2013年日経ウーマン「次世代ガール25人」に選出。

2015年日経ビジネス「チェンジメーカー10」にも選出される。

内閣府「男女共同参画会議専門委員」、厚生労働省「イクメンプロジェクト」や「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」など複数行政委員を兼任。

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:宮﨑 晴美

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