うつ病患者を身近で支える人をサポートすることで人々が支え合っていける社会を実現したい

自身がうつ病に苦しんだ経験を生かし、同じ病で苦しんでいる人たちの役に立ちたい。

■自分がうつ病に苦しんだ経験を生かす

年々増え続けるうつ病患者。

患者だけでなく、家族ら患者を身近で支える人の苦悩にも光を当てていきたい。そんな思いで、うつ病患者を支える人たちをサポートする活動を始めようと決意した人がいる。林晋吾さんだ。

林さん自身も2010年にパニック障害を発症、その後うつ病を併発。3年間にわたって再発と回復を繰り返した経験がある。

「うつ病患者は、思考力や集中力が極度に落ちていることに加え、コミュニケーションを行うこと自体が大きな負担になっている。家族や周囲の人に助けを求めたくても、伝えることが難しい。私自身がうつ病を患ってはじめてわかりました」

患者本人が症状を伝えられないとなると、支える側としても、患者にどのように接していいのかわからない。支える側もなかなか相談できる相手もいない。そうなると、うつ病患者と支える人の間には次第に溝ができ、お互いが社会の中で孤立してしまう。

自身がうつ病に苦しんだ経験を生かし、同じ病で苦しんでいる人たちの役に立ちたい。

そう考え、改めてうつ病患者をめぐる全体像をとらえ直してみた際、一番求められていることは、患者の最も近くにいる家族を支えることなのではないかと気づいたという。

確かに、うつ病患者本人に対するサポート体制は、患者の増加とともに社会的な認知も進み、社会資源も充実しつつある。しかし、患者を支える人たちに対してのケアは、ほとんどないと言っていい。そして何よりも、支える人も患者と同様に悩み苦しんでいるということが、社会に知られているとは言いがたい現実がある。

■「悩みや不安を共有できる場所」を提供したい

2015年12月、林さんはうつ病患者を身近で支える人をサポートするサービスの提供をスタートさせることを決意、株式会社ベータトリップを設立した。会社設立に先立ち、うつ病の方を支えた経験がある家族や、NPOが主催する家族会などに参加し家族にインタビューを行った。そこで浮き彫りになったのは、「悩みや不安を共有できる場所」が切実に求められているということだ。

「誰にも話せなかったが、ここに来ると、わかってもらえる」

「苦しい思いを抱えていたが、ここで出会った人が実践していることを聞いて自分もやってみようという前向きな気持ちになれた」

といった出席者の声からは、社会から孤立している感覚からくる焦燥感や苦悩が伝わってきたという。

患者のサポートで多忙な家族たちに対し、時間と場所の制約のないインターネットを活用することで、一人一人に応じた適切な情報提供やきめ細かいケアを行っていけるのではないだろうか。家族へのインタビューを重ねていくうちに、林さんの新たな事業のコンセプトは固まっていった。

株式会社の形を選んだのは、「ビジネスにした方がスピーディに意思決定ができることに加え、提供していくサービスの広がりや継続が大事と考えたから」だという。

コンセプトは「気軽に、安心して、継続的に使える」サービスだ。大学卒業後に金融業界で7年、コンサルタント業界で3年働いた経験があり、そこで学んだことが大いに生かせるはずだという思いもある。

だが、社会起業家としての活動はまだ始まったばかりだ。まずは、「うつ病患者を身近で支える人」を対象に、患者をサポートするためのアイデアやヒントを伝えるセミナーを開くことからスタートする予定だ。

このセミナー開講のための資金を、クラウドファンディングサイト「A-port」で集めている。

「うつ病は、当事者と身近で支える人だけの問題ではありません。クラウドファウンディングを通じて、社会全体の問題として広く共有していただくことで、困っている時は頼ってもいい、頼りましょうという環境を作っていけるのではないかと考えています」

うつ病患者を支えている人にも、まだそういった経験がない人にも、できるだけ幅広い層にアプローチしていくことで、最終的には人々がお互いに支え合っていける社会を実現していきたいと思っている。

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