「映画界のテスラに」若く多彩な配給会社社長 クラウドファンディングで映画配給

配給会社社長の木ノ内輝さん「『いい作品を世に送り出すため、皆と力を会わせて取り組んでみよう』と思った」

■映画界のテスラに

映画配給は「賭けごと」だ。作品を多額な金で買いつけてヒットしなければ焦げつくからだ。

そのため、テレビドラマやアニメ、小説などのヒット作からの映画化はある程度興業の予測がつくため、「勝算のある」映画が世の中に多く出る結果になっている。

一般社団法人「日本映画製作者連盟」によると、2014年度 の興行収入トップ30の大半は、「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」「るろうに剣心 京都大火編」など、ヒットしたアニメや小説などを映画化したものだ。興行収入が見込みにくいオリジナル作品は制作されても見られることなく終わることも多い。

そんな状況に「映画界の『テスラ』になる」と乗り込んだ人が木ノ内輝さん(27)=東京都町田市=だ。自動車業界に旋風を巻き起こしている米国の有名な電気自動車に自分を例えた。

配給会社の役割は、制作された映画を買い、買い付けた映画を公開する映画館を確保し、映画がヒットするよう、ポスターやビラの制作や俳優らを使った宣伝をすること。知見とネットワーク、人の力も必要だ。2015年2月に新会社を起こし、たった数人でそれをやっている。

「デジタル技術の発展で、安価で上質な作品が生まれるようになった。だが、配給方法は変わっていない。しがらみがなく、観客と映画製作者の距離をつなげるクラウドファンディングを使って新しい映画配給のかたちを生み出したい」と木ノ内さん。

■現代のダビンチ?

木ノ内さんは、高校1年の時に単身渡米した。米国の大学時代は、生物学と美術を専攻し、ボストンにある「マサチューセッツ Eye and Ear」の研究所では目と耳の再生を研究していた。

その経験は多岐にわたる。軍人の教育機関で聴講して戦術を学び、大学で専攻した美術で制作した絵や写真の一部は買い手がついた。悩みは「やりたいことが一杯あって困る。そして、やり始めると器用にできちゃうんですよね」。建築から医学、芸術まで広く知見があったレオナルド•ダビンチのように才能が多彩だ。

Eye and Ear研究所では、下等動物は神経の再生ができる一方、神経の効率性などを発展させる代わりに、神経を容易に再生できなくなってしまった人間について、「ロマンを感じた」という。一方で「医学の道を選ぶと他の世界が見られないな」と医学界のど真ん中で立ち止まった。

■クラウドファンディングで映画配給に立て続けに成功

「知の探求よりも、映画を通じて『インスピレーションの探求』をしたい」と思い至った。

若くて才能のあるクリエーターがいるのに、スポットライトを浴びないまま世の中から消えていく様子を大学時代に見た。ならば、「いい作品を世に送り出すため、皆と力を会わせて取り組んでみよう」と思った。「映画の制作配給は仲間と取り組むため、自分の実力以上を発揮できるので面白い」と感じたことも理由だ。

2013年に帰国してから2年の間に、クラウドファンディングで資金調達をして、映画作品2本を世に送り出した。今回のA-portで資金を募っている浅野信忠主演の「壊れた心」は3本目の挑戦だ。木ノ内さんは、映画業界の閉塞感(へいそくかん)を新しい感覚で切り込んでいきたいと考えている。「しがらみにとらわれない形で、いい映画を届けていけます」

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