映画「沖縄を変えた男」を全国へ 沖縄で大ヒット、栽監督熱演したゴリが魅力語る

「暴力のあったダークな部分を表現する一方で、それ以外の部分も表現する。そこが大切で、この映画での好きなところです」

◆沖縄限定で2万3000人が見た!

2016年に沖縄県内限定で上映された「沖縄を変えた男」(岸本司監督、高山創一プロデューサー)は、沖縄水産高校野球部を2年連続(1990、91年)で甲子園準優勝に導いた故・栽弘義監督をモデルにした映画です。

主演は沖縄県出身のお笑い芸人、ガレッジセールのゴリさん。いつもの朗らかな雰囲気と温かいまなざし、笑顔を一切封印し、体罰をいとわないスパルタ指導で身体的・精神的に野球部員を鍛え上げていく栽監督をシリアスに演じて話題になった作品です。

6カ月の上映で約2万3千人が映画館に足を運び、県内企業28社が協賛するヒット作となりました。いま全国上映に向けてクラウドファンディングで支援を募っています。

ゴリさんに映画の魅力を聞いてみました。(聞き手=沖縄タイムス社デジタル部・村井規儀)

厳しかった撮影を振り替えるゴリさん=沖縄タイムス撮影

―沖縄県内でヒットした理由は。

「栽監督が成し遂げた実績の裏付けでしょう。当時の沖縄の人は、ずっと内地に対して劣等感があった。『甲子園で沖縄代表校が優勝するなんて、絶対に無理』と思っていました。それが今は、甲子園の強豪県になっています。その創始者に対して、感謝と回顧の意味を込めて多くの県民が映画館に足を運んだと思います。沖縄では栽監督の指導方法や女性関係などは知られていて、輝かしい実績の裏側やプライベートへの興味もあったでしょう」

「世代によって思い入れが異なる映画です。小・中・高校で野球に打ち込む子どもたちにとって、甲子園=ゴールの意識が強い。その甲子園をイメージさせる栽監督の指導方法や生きざまは、興味をひかれずにいられません。一方、元球児たちは甲子園を目指していた己の青春時代を思い出しますし、『沖縄の野球は弱い』と信じてきた年配の方々は、夢を与えてもらった感謝の気持ちでスクリーンを眺めました。幅広い世代で楽しめるのも、ヒットの要因ですね」

非情な栽監督を熱演するゴリさん(C)高山製作所

◆プレッシャーかチャンスか?

―栽監督を演じてみて、どうでしたか。

「やっぱり、畏れ多いかな。栽監督の成し遂げた事があまりにも偉大なので、自分が演じきれるかプレッシャーでした。演技には評価がつきもので、大役だからこそ、失敗したときの反動も大きい。多くの県民が栽監督を知っているので、『何でおまえが? イメージに合わない』『全然ちがうよ』と言われるのも嫌だった。しかし、チャンスって、いつでももらえるものではない。配役の声がかかったことを自信に持って演じようと決めました。野球をしたことがないので、素振りから始めました」

栽監督(右・ゴリ)とエース太田(田中永一)が濃密な演技をみせる(C)高山製作所

「(制作発表会見で『難しい役だが、赤い血すべてが栽監督になるように頑張りたい』と話したように)かなり気持ちを込めました。栽監督は沖縄のヒーローですから。沖水野球部の人から『背中が栽監督に似てきた』と言われたり、友人や街中の人々から『映画見たよ。でーじ、良かった』と感想を聞くとやっぱりうれしい」

「栽監督を演じていると、1990、91年の試合を思い出しました。私は首里高校生で、同世代の球児たちが全国で戦う姿はとても大人に見えましたね。90年の沖水と天理高校(奈良)の決勝戦。9回裏の抜ければ同点のあの場面では、街が機能していなかった。誰もが働くことを忘れるほど見入っていた試合で、私もTVにくぎ付け。あの興奮はなかなかない体験でした」

ガレッジセールの川田さん(左)は対戦相手の監督役で登場する(C)高山製作所

容赦のない試練に耐え、沖縄の希望となる琉球水産野球部(C)高山製作所

◆暴力と怖さ、しっかり演じた

―役作りも苦労したと聞きます。

「現存している動画で、栽監督の話し方とかを確認しました。指導している時は少し声が高めで、そこまで怖さがない。加えて沖縄なまりでしょう。力がぬけるというか...。そのまま栽監督に似せるか、映画用に威厳のある話し方にするか、かなり悩みました。栽監督の教えを受けた野球部員からは、『監督の半径5㍍以内に入ったら、怖くて吐き気がするくらい緊張した』と聞きました。その怖さはあの話し方、声の高さでは表現できない。観客にその雰囲気を伝えるには、黙々と冷静で、冷たくしゃべろうと心がけました」

琉球水産野球部を厳しく育て上げていくゴリ演じる栽弘義監督(中央)(C)高山製作所

「栽監督の怖さ、体罰をしっかり伝えることを大事にした。雰囲気を作るために、撮影中は出演者となるべく距離をおいて。後輩のお笑い芸人も多く出演していますけど、撮影の合間や食事時間も一人でいましたね」

―怖さを大事にしたのはなぜでしょうか。

「今では考えられないほどひどい体罰が、日常的にありました。それを包み隠さずに映画では表現しました。体罰の理由付けに納得するかどうかは、賛否あると思います。しかし、部員たちを追い込むための必要悪だったのかな。もちろん、やりすぎです。甲子園の実績もないのに、これだけ頑張れば全国で勝てると話をしても、誰も頑張れない。誰もついてこない。部員をとことん鍛えて、苦しい練習から逃がさないためにはどうするか? どう追い込むか? 暴力しかなかったと思います。暴力のあったダークな部分を表現する一方で、それ以外の部分も表現する。そこが大切で、この映画での好きなところです。表に加えて裏も見せるから人間ぽい」

「生徒はびくびくして誰も近づいてこない。みんなをわざと敵に回すような生き方を、沖縄のため、強くするために買って出て孤独と戦っていく。その孤独から逃げた先が女性だったのでしょう」

指導方法をめぐって、栽監督(右・ゴリ)は同僚教師たちとも摩擦が絶えない(C)高山製作所

◆どこでも、誰でも楽しめる映画

―ローカルな映画と思いますが、全国上映で観客は来ると思いますか。

「甲子園で実績を残した栽監督を、もっと知りたいと言う高校野球の監督は全国でも多い。野球に携わる人も興味を持っています。各地にある沖縄県人会はもちろん見たい。沖縄関連のPRイベントに出演していると、県外の人から『何で東京で上映しないの?』って尋ねられることも多くあって。僕だって上映したいですよって(笑)。違法でなければDVDを一人一人に配りたいくらいです(笑)」

試合を見守る栽監督(ゴリ)。求めるのは勝利のみ。(C)高山製作所

「栽監督を描いたドラマだけど、スポーツ映画でもある。スポ魂って、みんなが熱くなれるじゃないですか。野球を栽監督を知らない人も、試合の勝敗で熱くなれます。部員同士のライバル関係や、強豪校との接戦は見ていてハラハラドキドキする。ダメだった部員が自信をつけたり、互いに助け合ったり。目頭が熱くなるシーンもあります。人生に足が止まっている人が鑑賞すると、また歩き出そうと思える」

「全国の都道府県には、その地域のスポーツなり経済なりを強くしようと頑張ってきた偉人が絶対にいます。沖縄の偉人を知ることで、自分が住む都道府県を見直すきっかけにもなるでしょう。栽監督を知りたいとの思いは、沖縄県内と県外ではニュアンスが異なるかもしれませんが、どこでも、誰でも楽しめる映画です」

「作品に自信はあります。体罰をふるうシーンが多くて精神的・体力的にも厳しい撮影でした。そこまで頑張った映画だけに、一人でも多くの人に見てほしい」

―全国上映の可否は、クラウドファンディングにかかっています。

「どちらの配給がつくのか気になっていましたが、結局つかなかった...、残念ですね。配給会社には、もっと興味を持ってほしかった。ただ、『リトル・ミス・サンシャイン』という僕の好きなアメリカの映画があって、単館系での上映スタートでしたが人気が続いて、最終的にはアカデミー賞を受賞しました。大きな夢になりますが『沖縄を変えた男』も、クラウドファンディングを成功させて、全国各地に上映館が増えていってほしい。明日への力をもらえる映画。いろいろな人に見てもらうためにも、応援をお願いします」

「全国での上映、楽しみですね」と話すゴリさん=沖縄タイムス撮影

ゴリ 本名・照屋年之(てるや・としゆき) 1972年、那覇市繁多川出身。7歳から11歳まで大阪で過ごす。首里高卒業後、日本大芸術学部へ進学し2年で中退、95年に同じく県出身の川田広樹さんとガレッジセールを結成

◆全国上映へ、クラウドファンディングに挑みます

ゴリさん主演、岸本司監督の映画「沖縄を変えた男」の全国上映を目標に、プロデューサーの高山さんはクラウドファンディングで支援を呼びかけています。

高山プロデューサーが、「沖縄県民だけが理解できるローカルな映画では決してない。世界に通じる"夢と希望"という普遍のテーマをもった映画」と太鼓判を押す「沖縄を変えた男」。皆さんの街で上映してみませんか。支援はクラウドファンディング「Link―U」からお願いします。

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